【読書記録 -182】『新たなビジネスを創造できる会社』ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年3月号
新しいビジネスは、どこから生まれるのか
ハーバード・ビジネス・レビュー2025年3月号の特集は『新たなビジネスを創造できる会社』だ。

本特集では、新しいビジネスを生み出すために、成熟した大企業が何を考え、どのようなアクションを取ったかを、以下の論考やインタビューから考えている。
・KDDIによるローソンへの投資と新規事業
・伝統的大企業がイノベーションを実現する3つのステップ
・成熟産業の中で変革型イノベーションを起こす4つの方法
・大企業が再成長を遂げるためのイノベーションモデル
企業が成長を続けるためには、既存のビジネスを磨き続けるだけでなく、新しいValueを生み出していかなければならない。
既存のビジネスや現場のオペレーションだけを見ながら「もっと速く」「もっと安く」「もっと効率よく」と考えていても、できるのは1%のブラッシュアップくらいだ。
では、新しいビジネスはどこから生まれるのだろう…
高橋誠
ローソンを「コンビニ」として見ない
KDDI代表取締役社長CEOの高橋誠は、同社がなぜ約5000億円を投じてローソンとの共同経営に乗り出したのかを語っている。
問い: なぜ利益率の高い通信会社が、利益率の低い小売業へ進出するのか。
結論: 自社や他社を「業種」で捉えるのではなく、保有するリソースから捉え直すことで、新しい事業機会が見えてくる。
ローソンは国内に約1万4600店舗を持ち、1日約1000万人が来店する。一方、KDDIは約3100万人との顧客接点を持っている。
高橋は、この二つを掛け合わせることで「国内有数の生活者接点」をつくることができると考えた。つまりローソンを「コンビニ」ではなく、1日1000万人と接触できる場所として見たのだ。
KDDIは金融、エネルギー、DXだけでなく、モビリティ、ヘルスケア、宇宙などへも探索領域を広げている。
その中で、コンビニ事業は(通信会社という枠から見て)飛び地に見えるが、自社を「生活者との接点を持つ会社」と捉え直せば、探索できる範囲そのものが変わるということだ。
イバンカ・ビシュニック/ロニー・レテン
自社の外にあるKnowledgeを探索する
イバンカ・ビシュニックとロニー・レテンは、伝統的大企業が外部企業との協働によってイノベーションを生み出す方法を論じている。
問い: 大企業は、どうすれば既存事業の延長線上にないイノベーションを生み出せるのか。
結論: 自社ですべてを生み出そうとせず、外部に存在するKnowledgeを探索し、自社のResourceと組み合わせる必要がある。
著者らは、そのプロセスを「探索 → コミットメント → スケールアップ」の3段階で整理している。
その代表例が、イタリアの大手電力会社エネルだ。
エネルは毎年約4000件の外部企業との協働機会を特定し、そこから約200件のPoC(Proof of Concept:新しいアイデアや技術が実際に実現可能か、期待通りの効果を得られるかを本格開発や導入の前に小規模に検証するプロセス)を行っている。
その一つであるエアロネスのロボティクス技術を活用することで、従来より6倍速く、40%安く風力タービンを検査・保守・修理できるようになった。
重要なのは、エネル自身がこの技術を発明したわけではないことだ。
「自分たちでどう解くか」から「世界のどこかに違う解き方はないか」へ視点を変えることで、新しいKnowledgeとのコネクションを生み出したのである。
ピーター・コーエンら
既存Operationから新しい探索を守る
ピーター・コーエンらは、P&Gの「オーラルB iO」などの事例から、成熟企業が変革型イノベーションを生み出すための組織設計を論じている。
問い: 既存事業を運営しながら、どうすれば新しいビジネスを育てることができるのか。
結論: 既存組織のResourceを活用しながら、新しい探索が日常のOperationに飲み込まれない仕組みをつくる必要がある。
P&Gでは、日常業務の責任の多くを既存組織へ委譲し、新しい製品開発へリソースを振り替えるという経営判断をした。
その結果、「オーラルB iO」は発売後3年足らずで同製品カテゴリーの市場成長の70%を牽引した。利用者の約30%は、それまで電動歯ブラシを使っていなかった手動歯ブラシからの乗り換えだったという。
既存市場の中で競合から顧客を奪うということではなく、それまで顧客ではなかった人に新しいValueを提示することで、市場そのものを広げたのである。
レジナ E. ヘルツリンガーら
大企業のリソースを新しいValueへ振り向ける
レジナ E. ヘルツリンガーらは、大企業が再成長するための「成長ドライバーモデル」を提案している。
問い: 大企業が持つ豊富なResourceを、どうすれば新しい成長へつなげられるのか。
結論: 既存企業のResourceと、スタートアップ型の探索を分離するのではなく、両者を接続する仕組みを設計する必要がある。
その事例が、医療機器メーカーのコーディスだ。
同社は外部にアクセラレーター(スタートアップや起業家をサポートし、事業成長を促進する人材・団体・プログラムの意)「コーディスX」を設け、新製品開発を進めた。コーディスXは2年間で9つの新製品を開発し、大型M&Aや戦略的投資にもつなげた。
大企業の内部R&D(Research and Development:研究開発)か、外部のスタートアップかという二者択一ではなく、大企業が持つ資本、顧客基盤、販売網と、外部のアントレプレナーや識者を組み合わせた仕組みをつくるべきである。
それによって、既存企業が持つリソースを、効率的に新しいValueの創出へ振り向けることができる。
イノベーションの前に「視点の転換」がある
ボクは、イノベーションは「結果」だと思っている。
本書においては、ローソンへ投資する、外部企業と協働する、PoCを行う、専任組織をつくるなどのアクションが列記されていた。しかし、それらのアクションを真似したところで同じイノベーションが生まれるわけではない。
では、アクションの前に何があったのか。
ビシュニックらはそれ(最初のステップ)を「探索」としているが、ボクは彼らが「なぜその対象を「探索」しようと思ったのか?」というところまで遡りたい。
コペルニクスは、新しい太陽や地球を発見したわけではない。
彼が見ていたのはみんなと同じ太陽と地球だ。
コペルニクスが変えたのは、それらを見る座標系だったのだ。
ローソン自体は何も変わっていない。
「コンビニ」という座標で見れば、それは広域展開している小売業だったろう。しかし「生活者との接点」という座標から見れば、1日1000万人と接触できる巨大なリソースに変わる。
多くの企業は、既存のビジネスやオペレーションを同じ座標系から見続けている。その座標系で頑張れば、なんとか1%のブラッシュアップはできるかもしれないけれど、新しいValueを生み出すためには、その座標系そのものを動かさなければならない。
つまり、新しいビジネスを生み出すために重要なのは、イノベーションの方法論を学ぶことではなく、それまで当たり前だと思っていたものを、別の場所から見てみることなのだ。
イノベーションは、その結果として生まれるものなのだと思う。
参考リンク
ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年3月号
