【読書記録 -176】今さら聞けない 睡眠の超基本
そもそも、なぜボクたちは眠るのだろう
本書『今さら聞けない 睡眠の超基本』は、睡眠研究の第一人者である柳沢正史が監修した、睡眠についての基本をまとめた本だ。
本書では、ノンレム睡眠とレム睡眠の違いから必要な睡眠時間、睡眠不足によって起きる問題、動物の睡眠、そして快眠するための方法まで、睡眠について幅広く解説されている。

睡眠について書かれた本なのだから、当然「快眠のための方法」もたくさん出てくるわけだが、ボクが気になったのは、もっと根本的なことだった。
そもそも、なぜボクたちは眠るのだろう。
なぜ動物は危険を冒してまで眠るのか
ここからは、素人の戯言として読んでほしい…
人にとって睡眠は、記憶を定着させたり、運動のパフォーマンスを向上させるような効果があるらしい。さらには、洞察力や創造性にも影響するという。
つまり、睡眠とは単に身体を休ませているというだけではなく、睡眠時間中に「それ以外の何か」が起きているということだ。
しかし、眠るのは人間だけではない。
犬も猫も馬も眠るし、本書によればタコには「静的睡眠」と「動的睡眠」という2種類の睡眠があるという。さらに、脳を持たないクラゲにも睡眠のような状態が確認されている。
人も動物も眠っている間は無防備になる。
本書の中にも「睡眠は動物にとってリスキーな行動」と書かれている。眠れば周囲への反応が鈍くなり、捕食者に襲われる危険が高まる。だからクジラやイルカは脳の半分だけを眠らせ、キリンは立ったまま眠り、馬は短い睡眠を何度もとる。
それでも動物は眠る。
外敵に襲われるリスクと戦いながら。
一方、人は安全な状態を作り出してから寝る。
まあ、よっぽどの不運が重ならない限り、睡眠中に外敵に襲われるようなことはないだろう。他の動物と比べると、圧倒的に安全な環境を作り出す能力を身に付けた生き物だ。
それなのに、上手く眠れない人が多いのはなぜだろう?
人にとって何が脅威なのか
野生動物にとって(意識しているかしてないかは別として)将来的に起き得る危険を避けることが生存戦略であると言える。
そのために(食物連鎖の下層の生物は)本能的に土中に穴を掘ったり、木の上に巣を作ったり、廃屋の床下や天井裏で睡眠をとるのだ。そして、それが叶わない生物は、活動したまま脳の半球を交代で眠らせたり、すぐ活動状態に切り替えられるような状態で眠ったりするわけだ。
つまり、近い将来に起こるかもしれない危険が身近にある生物ほど、警戒を完全に解除した状態で眠ることが難しいということなのかもしれない。
では、人間はどうなんだ。
一般的に人は食物連鎖の頂点にいると言ってもいいだろう。そして、ボクたちは安全な家の中で暮らしていて、しっかりと鍵をかけ(場合によってはSECOMして)ベッドに入る。
ボクたちはいったい何に脅威を感じ、何を警戒して、睡眠に問題を抱えるのか。
危機感という脅威
きっと、それは「危機感」なんだろう。
社会的に殺される恐怖。
しかも「近い将来」に。
明日までに仕事が終わらなかったら。
目標の通りに売上が上がらなかったら。
将来、お金がなくなったら…
人間は社会性の生物だ。だからボクたちは、仕事を失い、信用を失い、居場所を失うという「社会的に殺される未来」まで想像を膨らませることができてしまう。
こんな未来の想像ができるのは人間だけだ。
だけど、それはどこまで行っても想像の産物でしかない。人は自分で生み出した架空の捕食者に怯えているのだ。
しかし、よく考えてみよう。
その捕食者とは誰なのか。
ひとつは「考えてもどうにもならないこと」。
それは「不確実性」と呼ばれるものだ。
将来、自分の周辺環境がどう変化するかなんて誰にもわからない。悪くなるかもしれないが、逆に良くなるかもしれない。できることといえば、悪くなることに備えてお金を貯めておくとか、ポートフォリオを分散しておくとかだが、それだって上手く機能してくれるかどうかはわからない。
もうひとつは「やらなければならないのにまだできてないこと」だ。
これは、なんだろう… おそらく、約束を守れないことに起因する「周囲からの低評価」もしくは「自己否定」みたいなことだろうか。
一度口にしてしまった約束は、その人の呪いになる場合がある。約束を守ることは良いことではあるが、未来の「できていないこと」を想像して恐怖を感じるのは間違っている。今できることを積み重ねてゴールにたどり着けばいいのだ。期日に間に合わないのは見積もりを間違っただけであって、それは必ずしもその人ひとりの責任ではない(その人がサボったことが原因でなければ)はずだ。
それがボクたちを喰らおうとしている脅威なんだろう。
「まだできていない」を「やっている途中」に変える
その捕食者に対抗するには習慣化しかない。
それは睡眠の前のルーティーンとかではなく、やるべきことをコツコツと毎日積み上げていくことだ。
それができれば、未来を毎日のルーティーンの延長線上に置くことができる。もし不確実な「何か」が起きたとしても、理想と現実の差分が取れるだけで安心感はずいぶんと違うはずだ。そして、期日に間に合わないということも減るだろう。なぜなら、自分のものごとの進め方も、毎日の積み重ねの延長にあるからだ。
以前、ティク・ナット・ハンの『怖れ』という本を読んだ。
そこには「人は有限の存在だからこそ、死を怖れ、失敗を怖れ、未来を心配する。一方で、その怖れがあるから勉強しようと思い、仕事を頑張り、誰かを大切にしようとも思う。つまり、怖れは人を苦しめる感情であると同時に、人を成長させる原動力でもある」と書いてあった
ティク・ナット・ハンは、この本の中で「マインドフル」であること=呼吸に意識を向けて「今ここ」に戻ることを勧めている。
未来のできていないことを心配する必要はない。
今日、目の前のできることをやる。
終わらなければ、明日またやればいい。
先のことを悩んで眠れないくらいなら、思い切って、未解決のまま寝てみるというのはどうだろう。
そして翌朝、続きをやってみる。
それで問題が起きなければ「未解決のまま寝ても大丈夫だった」という経験が一つ増える。
翌日も、今日できることをやる。
終わらなければ、また寝る…
それを繰り返していけば、やがて「まだできていない」は脅威ではなく、単なる「やっている途中」になっていくのかもしれない。
参考リンク
Amazon:今さら聞けない 睡眠の超基本
