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【読書記録 -180】『戦略としてのコスト管理』ハーバード・ビジネス・レビュー 2023年10月号

戦略としてのコスト管理

ハーバード・ビジネス・レビュー 2023年10月号の特集は『戦略としてのコスト管理』だ。

今号の特集ページは、以下の3つの論文+インタビューで構成されている。

① 経営の効率化と未来志向の投資を両立させる法|ランジェイ・グラティ

逆境時にコスト削減へ偏ると、将来の成長機会まで失いかねない。顧客価値や事業の目的を判断軸として、不要な支出を削る一方、必要な投資を続ける「守りと攻めの両立」を説く。

ランジェイの言う戦略は「何を目指し、何を優先するかを決める」上位の方向性だ。

② 成長戦略としてのコスト削減|ヴィネイ・クートほか

コストを単なる支出ではなく「投資」と捉え、悪い投資を削り、将来の成長に必要なケイパビリティへ資源を振り向ける。継続的にコスト構造を組み替えることで企業を強くする。

ヴィネイの言う戦略とは「将来を見据えて経営資源の配分を選択すること」と言っていいだろう。

③ 中間管理職の人員削減を軽々しく行うべきではない|エミリー・フィールドほか

中間管理職はコスト削減の対象になりやすいが、現場との接続や組織変革を担う重要な存在でもある。安易に削るのではなく、役割を再評価して能力開発を行うべきだと説く。

この論文で戦略的なのは「削減額ではなく、将来必要な組織能力を見極めて何を残すかを選ぶこと」だろう。

④ 日本企業の再建には、組織のしがらみを断ち切ることが欠かせない|志賀俊之

日産再建の経験から、既存組織のしがらみが改革やコスト削減を阻む構造を振り返る。役割と責任を明確にし、忖度を排して困難な意思決定を実行する。

ここでの戦略とは「部署の利害を超え、会社全体の視点から何を変えるかを選択すること」と読むことができそうだ。

戦略的とは?

なんだか、4人の言ってる「戦略」が微妙に違っているような気がするなあ。並べてみるとこんな感じだ…

① ランジェイ・グラティ:戦略=何を目指すかという判断軸
② ヴィネイ・クート:戦略=資源配分
③ エミリー・フィールド:戦略=組織能力を守るための取捨選択
④ 志賀俊之:戦略=全社視点からの選択

企業を経営していれば、コスト管理は避けて通れない。

売上が伸びている時であっても、無駄なコストを放置していいわけではない。ましてや経営環境が悪化すれば、どこにお金を使い、どこを削るのかという判断は、企業の存続にもかかわってくる。

本特集に収録されている「成長戦略としてのコスト削減」でも、短期的な利益を確保するためだけにコストを削減するのではなく、一つひとつの費用を「投資」として捉え、将来に必要な投資を残しながら継続的にコストを管理することの重要性が説かれている。

なるほど。
言っていることはよくわかるし、至極当然のことだ。

だけど、コスト管理って「戦略」なのだろうか

戦略ってなんだっけ?

「戦略」の定義ってなんだっけ?
Geminiくんに聞いてみると、戦略を以下のように整理してくれた。

戦略とは、長期的な目標を達成するために、資源を総合的に運用して「どこに向かい、どうやって勝つか」を決める全体の方針や道筋のことです。

そして、戦略の基本要素として、以下の4つを挙げてくれた。

  1. 目的と目標: 目指すべきゴールや将来像を設定する。

  2. 長期的な視野: 一時的な行動ではなく、全体を見渡した長期的な計画である。

  3. リソースの配分: 限られた時間や資金、人員をどこに集中させるかを決める。

  4. 競争優位の確立: 競合相手や環境の中で、優位に立つためのシナリオを描く。


…ちょっと待った。
この戦略の整理の3番で「資金の配分」って言ってるやんか。

そうなると「戦略としてのコスト管理」って表現が良くない。定義として循環してしまっていると思わないか?Geminiくん。

誰が戦略を立てるのか

ボクは以前、自前のOrganization論を書いた。

その記事の中で、ボクは組織のJob(果たすべき責務)を以下のように整理した。

Helmsman(舵取り)
General(戦略の策定)
Execution(翻訳と実装)
Operation(価値の創造)

ボクの整理では、Helmsmanが組織の方向性を定め、それを基にGeneralが戦略を策定する。そして、その戦略をExecutionが翻訳して実装することによって、OperationがValue(価値)を生んでいく。それが組織(企業)の理想的な形だと。

そして、Operationが生んだValueの対価としてCashを得ることによって、企業の選択肢が増え、次の戦略に影響を与える。

そう考えると、コスト管理自体が「戦略的」である必要はない。コスト管理はOperationを補完して、よりValueを高めることができればいいのだ。

主語をどこに置くか

本HBRの特集は『戦略としてのコスト管理』と銘打たれているが、読み解いていくと「戦略」という言葉が少しずつ違う意味で使われているように感じる。

たとえば、GeneralというJobをチーム編成して戦略を議論するとしよう。そのときに(割とありそうなお話だが…)そのメンバーの中の誰かが「財務部としてはその投資に反対です」と言い始めるとどうなるだろう。

そうなると、それに対して「営業としては、この価格では売れません」とか「現場としては、この納期では対応できません」などのやり取りに発展するだろう。

戦略の策定には情報が必要だ。
何の情報もなく戦略を練ってしまうと、それはきっと「ダーツの旅」になるだろう。たまたま矢が刺さったところに「行ってらっしゃい!」になるのでは、さすがにそれを戦略などと呼ぶことはできない。

戦略をより良い(長期的な目標を実現可能にする)ものにするための情報の半分は外部から入手すべきだが、残りの半分は社内から入手すべきだ。そしてその社内のKnowledgeのほとんどはOperation(とそれを補完する財務や人事)が持っている

そう考えると、それぞれの部署はそれぞれの戦略を立てる場所ではなく、もっと上位(会社全体)の戦略をより優れたものにするために、良質な情報を提供する場所であるべきだ。そのためには、Generalとして集まる戦略策定のメンバーは、自分の背負っている肩書を外して議論しなければならないのだ。

それは、主語を「会社」に置くことを意味する。

そう、コスト管理そのものが戦略なのではない。
「会社」というコンテクストと接続されて初めて、コスト管理が「戦略的」になるのだ。

参考リンク

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2023年10月号

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