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【考える前に、答えが来る④】AIに添削させる前に、子どもの答案を見る——直すべきなのは「間違い」ではなく、思考が止まった場所である

六年生の男の子が、国語の記述答案を持ってきました。物語文の心情記述で、設問はこうです。

「主人公は、なぜその場で何も言い返さなかったのですか。本文の内容にふれて説明しなさい」

その子の答案には、こう書いてありました。

「主人公は、相手に悪いと思っていたから。」

悪くはありません。気持ちも入っている。文末も「から」で終わっている。設問が「なぜ」と聞いていることも、一応は意識できています。

けれど、点数はあまり入りません。

本文を見ると、主人公が何も言い返さなかった理由は、単に「相手に悪いと思ったから」ではありませんでした。相手に悪いと思う気持ちはあります。しかしそれ以上に、主人公は、言い返せば相手がその場で笑われてしまうことに気づいていました。つまり必要なのは、「自分が我慢すれば、その場をおさめられる」という判断です。

答案は、方向としては大きく外れていません。けれど、設問が求めている核心には届いていない。

この答案をAIに入れて「添削してください」と頼めば、おそらくきれいな模範答案が返ってきます。

「主人公は、自分が言い返せば相手を困らせ、その場の雰囲気を悪くしてしまうと考えたため、言葉をこらえたから。」

かなり整っています。

しかし、ここで終わると危険です。子どもは、赤を入れられた答案を見て「なるほど」と言います。でも、本当に見るべきなのは完成した模範答案ではありません。その子の最初の答案が、どこで正解から離れたのかです。

私は、これを思考の分岐点と呼んでいます。


添削が先に来ると、子どもの誤りが消える

記述答案を見ると、大人はすぐに直したくなります。ここは言葉が足りない、理由が弱い、本文の言葉を使った方がいい。そうして答案を赤で直す。

AIを使えば、これがさらに速くできます。子どもの答案を貼り付けて「中学受験国語の記述答案として添削してください」と入力すれば、数秒で改善案が出てきます。文法も語尾も整い、不足要素も補われ、模範答案も作られる。

便利です。

けれど、添削が先に来ると、子どもの誤りの場所が見えなくなります。設問の読み違いなのか、本文の根拠の取り違いなのか、それとも根拠は合っていたが答案への変換で崩れたのか。そこを見ないまま完成した答案だけを渡してしまうと、子どもは「正しい答案」を見ることはできても、自分の答案がなぜ崩れたのかは分からないままです。

分からないまま、赤で直された箇所をノートに書き写して終わります。次に似た問題が出たとき、また同じところで止まります。

記述答案で本当に大切なのは、赤を入れることではありません。その赤が、子どものどの判断に対応しているのかを見つけることです。


記述答案は、三つの場所で崩れる

記述答案が崩れる場所は、大きく三つあります。

  • 設問の要求

  • 本文の根拠

  • 答案への変換

子どもの答案を見るとき、私はまずこの三つのどこで崩れたのかを考えます。語尾も、字数も、きれいな言い回しも、あとでよい。最初に見るべきなのは、

その子の思考は、どこで本文や設問から離れたのか

です。

① 設問の要求で崩れている

一つ目は、設問の要求で崩れている場合です。記述が苦手な子に、非常に多いパターンです。

本文が読めていないのではありません。人物の気持ちも、ある程度は分かっています。けれど、設問が何を求めているのかを取り違えています。

たとえば設問が「なぜ主人公は、何も言い返さなかったのですか」と聞いているのに、子どもは「主人公は悲しかった」と書く。これは気持ちの説明であって、設問が求めている「言い返さなかった理由」ではありません。

あるいは「このときの主人公の気持ちを説明しなさい」と聞かれているのに、「友達に注意されたから」と書く。これは出来事の説明であって、気持ちそのものではありません。

この場合、いくら答案の表現を整えても点数は伸びません。崩れている場所が、表現ではなく設問の読みだからです。AIに添削させれば答案はきれいに直りますが、子どもに必要なのは、きれいな答案を見ることではありません。「自分は、理由を聞かれているのに気持ちを書いていた」と気づくことです。

これが、第一の思考の分岐点です。

② 本文の根拠で崩れている

二つ目は、本文の根拠で崩れている場合です。設問は読めている。答える形も分かっている。けれど、本文のどこを使うべきかを選び違えています。

たとえば設問が「なぜ主人公は、母の言葉を聞いてうつむいたのですか」と聞いている。子どもは「母に叱られて悲しかったから」と書く。一見、自然です。

しかし本文では、母は叱っていません。むしろ何も責めずに、静かに主人公を待っています。主人公がうつむいたのは、叱られたからではなく、母が何も言わなかったことで自分の失敗をかえって強く感じたからです。

「母の言葉」という設問に引っぱられて母が叱ったように読んでしまったのか、あるいは「叱られて悲しい」という物語のありがちな型にあてはめてしまったのか。いずれにせよ、崩れた原因は表現ではなく、本文の根拠の選び方にあります。

これが、第二の思考の分岐点です。

③ 答案への変換で崩れている

三つ目は、答案への変換で崩れている場合です。これは、国語がある程度できる子にも起こります。

設問は読めている。本文の根拠も選べている。口で説明させると、かなり分かっている。けれど、答案にすると崩れる。

たとえば子どもが口ではこう言えるとします。「主人公は、本当は言い返したかったけれど、ここで言い返すと相手がみんなの前で困ると思ったから、黙っていた」。かなりよい理解です。

しかし答案にはこう書きます。「主人公は、言い返したかったけど、相手がかわいそうだったから。」方向は合っています。けれど、点数を取る答案としては弱い。「相手がかわいそう」という言葉は粗く、「みんなの前で困る」という状況も落ち、「だから黙っていた」という行動とのつながりも弱くなっています。

このタイプの子に、また一から本文を読ませても効果は薄いです。必要なのは、どの要素を答案に入れれば点になるのか、どの言葉を具体化すればよいのか、どの順番で書けば伝わるのかを確認することです。

これが、第三の思考の分岐点です。

添削の前に、設問・本文・答案化のどこで思考が分かれたのかを見る

AIには、添削より先に「分類」をさせる

では、AIをどう使えばよいのか。

いきなり「この答案を添削してください」と聞くのは、少し早いです。先に聞くべきなのは、「この答案は、どこで崩れていますか」です。

具体的には、こう聞きます。

この記述答案について、 ①設問の要求を取り違えている ②本文の根拠を選び違えている ③根拠はあるが答案への変換で崩れている のどれに近いかを判定してください。 そのうえで、本文のどこを確認すべきかを示してください。 いきなり模範答案は作らないでください。

この聞き方にすると、AIの役割が変わります。答案をきれいに直す存在ではなく、子どもの思考が崩れた地点を見つける補助になります。

もちろん、AIの判定が常に正しいわけではありません。第3回で書いたように、国語ではAIの説明がもっともらしく見えすぎる危険があります。AIの分類もそのまま信じず、必ず本文へ戻す必要があります。

けれど、いきなり模範答案を出させるよりは、はるかに学習になります。


正解を渡すことと、間違いに気づかせることは違う

実は、これに近い議論は、外国語教育の分野でも長く続いています。

作文の誤りをどう直すべきか。正しい形をそのまま教える「直接的な訂正」と、誤りの場所だけを示して本人に直させる「間接的な訂正」の、どちらが効果的かという議論です。

この論争に、単純な決着はついていません。基礎が十分でない学習者には、正しい形をはっきり示す方が有効な場合もあります。一方で、誤りの場所に気づかせ、本人に修正を試みさせることが、その後の学習につながる場合もあります。

もちろんこれは外国語の文法や作文についての議論であり、そのまま中学受験国語の記述指導に当てはめることはできません。けれど、「正しい答えをそのまま渡すこと」と「どこで間違えたかを本人に気づかせること」は必ずしも同じではない、という点は、記述添削を考えるうえでも参考になります。

AIに添削より先に分類をさせるのは、この違いを踏まえた使い方です。


悪いAI添削と、よいAI診断

悪い使い方は、こうです。

この答案を添削してください。模範解答も作ってください。何点くらいか教えてください。

これでは、AIが裁判官になります。子どもは、直された答案を見るだけです。

よい使い方は、こうです。

この答案が崩れている原因を、設問の要求・本文の根拠・答案への変換の三つに分けて診断してください。その際、本文から確認すべき箇所を示してください。模範答案は最後で構いません。

AIを添削者にする前に、診断係にする。記述答案でAIを使うときの基本です。

いきなり赤を入れず、まず答案がどこで崩れたかを分類する

親が見るべきなのは、赤の量ではない

家庭で記述答案を見るとき、親は赤の量に目が行きます。たくさん直されていると「やっぱりできていない」と思い、少ししか直されていないと「まあまあできている」と思う。

しかし、本当に見るべきなのは赤の量ではありません。赤がどこに入っているかです。

  • 設問の読みから直されているのか

  • 本文の根拠から直されているのか

  • 答案の表現だけ直されているのか

この三つは、同じ「赤」でも意味がまったく違います。

設問の読みで崩れているなら、次に確認すべきは設問の型です。

  • 「なぜ」なら理由

  • 「どのような気持ち」なら気持ち

  • 「どういうこと」なら言い換え

  • 「本文の言葉を使って」なら根拠語を残す

本文の根拠で崩れているなら、次に確認すべきは根拠の範囲です。

  • 傍線部の前後

  • 指示語の中身

  • 逆接のあと

  • 心情が動いたきっかけ

答案への変換で崩れているなら、次に確認すべきは表現の組み立てです。何を入れるか、何を削るか、どの順番で書くかです。

この診断がないまま赤を増やしても、子どもは次の答案でまた同じように崩れます。逆にこの診断があれば、復習は「模範解答を書き写す」作業から、「次に何を確認すればよいかが分かっている」作業へ変わります。


子どもに聞くべき三つの質問

記述答案を見たとき、家庭でできることは複雑ではありません。子どもの答案を前にして、次の三つを聞くだけです。

1.何を聞かれている問題だった?

設問の要求を確認する質問です。理由なのか、気持ちなのか、言い換えなのか、それとも変化なのか。ここで答えられない場合、その答案は設問の段階で崩れている可能性があります。

2.本文のどこを使った?

根拠を確認する質問です。子どもが本文を指で押さえられれば、根拠はある程度見えています。押さえられない場合、答案は印象や一般論で書かれている可能性があります。

3.それを答案にするとき、何を入れた?

変換を確認する質問です。本文の根拠は分かっていても、答案に必要な要素を落としていれば点は伸びません。どの気持ちを入れたか、どの本文表現を残したか、どの理由を入れたか、どの順番で書いたか。ここを確認します。

この三つの質問に答えさせると、子どもの答案がどこで崩れたのかが見えてきます。


AIを使うなら、最後は本人に戻す

AIで診断したあと、最後に必ずやるべきことがあります。本人に戻すことです。

AIが「この答案は、本文の根拠の選び違いです」と診断したとしても、それを読んで終わってはいけません。子どもに聞きます。

「最初、自分は本文のどこを使った?」

「本当は、どこを使うべきだった?」

「次に同じ問題が出たら、何を先に見る?」

AIが診断した。親が確認した。先生が説明した。それだけでは、まだ学びは外側にあります。子ども自身が「自分はここでズレた」「次はここを見る」と言えたとき、ようやく復習になります。

第0回から繰り返している通り、最後に必要なのは判断の所有権です。AIがどれだけ正しく診断しても、最後の判断を本人が引き取らなければ、次の答案は変わりません。


赤を入れる前に、どこで分かれたかを見る

子どもの答案にAIで赤を入れる。それ自体は悪いことではありません。不足要素を整理し、文末を整え、本文表現を残し、別の答案例を見る。これらは家庭学習では大きな助けになります。

ただし、その前に見るべき一箇所があります。赤を入れる箇所ではありません。子どもの思考が、正解へ向かう道筋からどこで分かれたのかという分岐点です。設問の要求か、本文の根拠か、答案への変換か。

この一箇所を見ずに赤を入れると、答案はきれいになります。しかし、子どもの次の判断は変わりません。

添削とは、正しい答案を与えることではありません。子どもの思考の分岐点を見つけることです。

次回は、

AIと一緒なら解ける子が、AIを閉じると解けなくなる理由

を扱います。AIと一緒なら答えられる。解説を見れば分かる。似た問題なら解けた気がする。けれど、AIを閉じた瞬間に手が止まる。次回は、その「分かったつもり」を見抜く最後の一問について考えます。


この視点が、日々の記述答案の復習やAI活用を見直すきっかけになれば、スキやフォローで次回もお読みいただけると嬉しいです。

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