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本番の日の日記

一歩また一歩と踏み出すたび右の太ももに鈍く響くのは、ホールの客席のひじ掛けにぶつけてできた痣。

先週末、所属する吹奏楽団の定期演奏会だった。

年に一度、ステージの上で、私たちの演奏を聴くためにやってきたお客さんの前で、演奏する。

一般人の一趣味ではあるけれど、それでも千人キャパのホールで奏者としてステージに立つのはこの上なく「本番」って感じがするし、普段の生活や仕事とは違う別の次元にスンと入っていくような感覚がある。この感じ。本番へ臨むときの感じ。どうにか言葉にしたくて探すのだけど、なかなかこれだという表現が見つからず、徒然なるままに。学生の頃と違って、さほど緊張はしていない。どこか現実味がなくて、妙に落ち着いている。そんな感じ。

てなわけで、本番の日を振り返って書く日記です。



朝、最寄りのコンビニで昼用のおにぎりと朝用のカフェラテを買う。午後の本番前に満腹になっている場合ではないので、昼は控えめにおにぎりを2個ほど。乗り換え待ちのホームで、朝ごはん代わりのカフェラテをズズズと啜る。

ホールの入口に集合。本日はお足元の悪いなか、と各地でよく耳にする枕詞、あれが本当にぴったりの日ですねと言い合う。嵐のような雨の日だった。

ホールへ入り、まずはステージセッティングから。私は椅子や譜面台を並べる係。仕事量に対して人、余りがち。私、余り側にいがち。

こんなに人いらないから楽器出していいよと言われ、そそくさと下りる。客席の一角を陣取り、楽器を組み立てて音出し開始。

実は前日に楽器を吹いたとき、ミ♭の音程が異様に悪いことに気づいていた。同じ高さのミ♭でも運指が3パターンあり、そのうち最も多用している運指がそれだった。なんで今まで気づかなかったんだろ……いつからこんな音程だったんだ……涙。チューナーを睨みながら、息の入れ方でどうにか調整を試みる。

(このあと移動のタイミングで太ももを強打、涙)

全員ステージに集まり、ゲネプロ開始。とある曲の演出で立奏する部分(曲の途中でシュワッと立ち上がり、客席を向いて譜面を見ずに吹く)があるのだけど、このときが今までで一番うまく吹けた。あーあ、吹けちゃった。と思った。子どもの頃、ピアノの発表会か何かでよく言われた、本番前にミスしておいた方がいい(そしたら本番うまくいく)とかいう言葉が頭を過る。本番前に成功しちゃいましたけど。局地的に緊張が高まる。

ゲネプロが終わって昼休憩。一度楽器をケースにしまう。この数ヶ月でよくおしゃべりするようになったお姉さん(同い年であることが最近判明)と行動をともにする。私はバスクラリネット、彼女はファゴット。隣に並んで吹いている割に打ち解けたのは最近で、私の社交の頑張り不足が顕著です。大きなおめめの笑顔がまぶしくて、コミュニケーション上手な彼女。私にもいつか、敬語を外してラフに会話するような日が来るのでしょうか(途中で呼び名を変えたり敬語をやめたりするの、いつも苦戦する)

楽屋でお昼のおにぎりを食べながら、彼女とおしゃべり。ほとんど知らないお互いの仕事についてなど。ざっくり分けると業界ほぼ同じだってなったり、そちらの組織体制めずらしってなったりして、小さく盛り上がり。ちなみに本番終わって衣装から着替えたとき、昼に着ていたシャツにご飯粒がカピカピついていた。何粒もこぼしたことに気づかないほど夢中になっていた証です。

本番の衣装に着替え、楽器をまた出して、舞台袖で待機。お足元の悪いなか、続々とお客さんが入ってきてくださる。毎年自前のカメラで舞台裏のメンバーショットを撮っている団員さんに、楽器を携えてキリッと全身撮ってもらう。さて、いよいよ本番だ。

外に雨が吹き荒れているとは思えないほど、客席のほとんどが埋まっていた。ありがたい。客席が近くてお客さんの顔もよく見えるが、ほどほどに平常心を保てている。ステージの照明もそれほど暑くない。ただやっぱり本番というものは、練習で一度もやらなかったミスをやらかしたりするもんで。トホホ案件も何個かありつつ。立奏はちょっと音飛ばしたけど、勢いと音圧でごまかせた(たぶん)。だいたい本番中の記憶って残らなくて終わった瞬間に何も憶えてないみたいになるのだけど、今回は割と鮮明に残っている。吹きながら途中、ホールの天井付近を意識が彷徨う感覚になったこととか。集中とも散漫とも言えない精神状態だったこととか。若干事故ってあれれとなった瞬間も記憶にございます。全体として音がよくまとまっていた。ホールの隅々まで振動していた。

終演後、それぞれ余韻のなかで片付け。衣装を脱ぎ、シャツのご飯粒を剥がす。あっという間にステージ撤収が終わる。更地になった板を眺めながら、終わりの会。来年はさらに大きなホールで開催すると聞いて、今からわくわく。

打ち上げには行かず(行くつもりでいたが出欠回答を忘れていた)、ファゴットの彼女と今度打ち上げしよう!お酒飲もう!ということでLINEを交換。一歩ずつ仲良くなれているようでたいへん嬉しゅうございます。一緒に電車に乗って会場をあとにした。

聴きに来てくれていた母と妹と合流し、お茶。音のまとまりの良さなどをお褒めいただき、だよねだよねとご満悦。本番どうだった話や妹の新しい仕事の話で、一時間半ほどおしゃべりして帰った。

夜ごはんは大戸屋のほっけ焼き定食を食べた。家に帰り、いただいた差し入れをぽりぽり食べ、本を開くなどして夜を過ごす。

また生活へ戻っていく。


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