水たまり
水たまりに空と雲が映っている。抜けるような青空に綿をちぎって投げたような雲たちが浮かび、ゆっくりと流れていく。数日続いた大雨でひときわ澄んだ空気。爽やかな初夏の風。
「最高の景観ね、ルミエロ」
ベッドに寝たきりのシエラが、大きな天井に映ったその光景を眺めながら言った。
「痛みはどうだい?」
「うん。もうだいぶ良くなった。あと少しでベッドから出れるんじゃないかしら……」
「夏至が過ぎてふたつ目の満月の夜には、僕たち妖精の夏のお祭りがある。その頃には、きっと君のその傷も治っていて、二人でまた空を舞えるようになるだろう。そしたら二人でこの部屋を出て、あの湿原まで飛んでいこう。そして、前夜祭の席で、仲間たちに僕たちの結婚を宣言するんだ」
「素敵ね」
「だから今は、ゆっくりと、傷をいやすことに専念して」
「そうね。そうする」
ふたりの会話が途切れると、ルミエロは、机の上に大きなノートを開いて、羽根のペンで物語の続きを書き始めた。ルミエロは絵を描くことも好きで、部屋の隅には、幾つかのイーゼルと描きかけの油絵が置かれている。
「あ……」
シエラが小さく声を上げた。
「どうしたんだい?」
「ねえ見て。アメンボ……」
ルミエロが天井を見上げると、四本の細い足を水面につけたアメンボが、ついっ、ついっと、オールを漕ぐようにして前に進んでいくのが見えた。その度に起こる波紋が、ふたりの部屋の床に柔らかな影を映し、広がっていく。ふと見ると、水面越しに水たまりを覗き込む小さな男の子が見えた。四歳ぐらいだろうか。水面のアメンボに興味津々で、指先で触ろうとするが、ついっ、ついっと前に進んでいくアメンボを触ることが出来ない。
「かわいい」
シエラが目を細めていった。
「わたしたちのところにも、かわいい赤ちゃんが来てくれるかしら?」
「来るよ、必ず」
ルミエロが、原稿を覗き込んでいた顔を上げ、シエラの方を見てそう微笑んだ。
「そうね。そのためにもまず、元気にならなくちゃ」
シエラは、おどけたように少し首をかしげて見せながら、そう言ってルミエロに微笑んだ。ついっ、ついっと泳ぐアメンボが作った波紋の影が、二人の部屋に、波のように打ち返していた。
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この作品は、シロクマ文芸部さんのお題「水たまり」を受けて作成したものです。#シロクマ文芸部さん、いつもありがとうございます (*^^*)
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