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576.エッセイ∶神戸風景∣今の人生の愉しみ方

 旧い友人と少し早めの忘年会。

 博多の水炊きを頂いたあと、私たちは北野に向かった。学生時代、宴会バイトを終えた深夜に歩いた道──懐かしさが、冬の空気と一緒に戻ってくる。

 一軒目は、以前から気になっていた Bar 矢吹。

 シックな佇まいのカウンターで、新鮮なミントを惜しみなく使ったモヒートをゆっくり味わう。

 そして二軒目は、レコードバー Henri。

 先週ここで聴いた Bee Gees – How Deep Is Your Love の話をしたところ、友の心にも火がついたようだ。

 店に入ると、Boz Scaggs の “We’re All Alone” が流れていた。

 静かな夜に合う、少し湿ったイントロだ。

 友と、音楽や小説の話をする。

 最近は思想を深める作品を書いてきたせいか、聴く曲もどこか内省的だった。だが今日は草稿が完成した日。気分は少し明るい。

 そんなことを話しながら選んだのは、Chicago の “Questions 67 & 68”。

 扉を開きたい──そんな気持ちで選んだ一曲だった。

 ところが、カウンターで聴くには少し賑やかすぎる。

 「ごめん、こういう夜はビリー・ジョエルの “Piano Man” が良かったね」

 そう友に言った直後、ターンテーブルが止まり、ゆっくりと針が上がる。

 そして──

 It’s nine o’clock on a Saturday…♪

 マスターは多くを語らない。

 客の会話の断片を拾って、そっと曲を流す。

 これが北野の“間合い”であり、私がこの街を好きな理由だ。

 最後に、カンパリソーダをライムで香りづけしてもらう。

 ほんの少し酸味が立つだけで、夜がまた一つ深くなる。

 これが、今の私の人生の愉しみ方だ。

 特別なことではない。

 けれど、小さな繋がりとちょっとした心意気があれば、人はそれだけで心豊かになれる。


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