「メンタルが強い選手を育てる」という表現を見直しませんか?
「メンタルが弱い」
「もっとメンタルを強くしよう」
「大事な場面で強い気持ちを持とう」
サッカーの現場では、こうした言葉をよく耳にします。
しかし、私は「メンタルが強いとは何なのか」を、もっと具体的に考える必要があるのではないかと思っています。
きっかけになったのが、FIFA Training Centreで紹介されていた、スポーツ心理学者Alan McKay氏の「Mental Toughness(メンタルタフネス)」に関する取り組みです。
McKay氏は、ウェールズサッカー協会(FAW)とともに、選手がプレッシャーの中でも安定してパフォーマンスを発揮するために、Mental Toughnessをどのように育成するかを研究・実践しています。
そこで非常に興味深かったのが、「メンタルの強さ」という抽象的な概念を、「具体的な行動」として捉えるという考え方です。
FIFA Training Centreでも、Mental Toughnessを、プレッシャー下で必要な「mentally tough behaviours(メンタルタフな行動)」を示す能力として捉えています。
これは、サッカーの育成を考える上で、とても大切な視点だと思います。
「メンタルを強くしろ」では、何も教えていない。
例えば、試合中にミスをした選手に、「切り替えろ!」と声をかける。もちろん、それ自体は間違っていません。しかし、選手からすると、
「どうやって切り替えるの?」
という疑問が残ります。
また、コーチから「強い気持ちを持て」と言われても、
育成年代の子どもには、「強い気持ちとは何?」
となります。
だからこそ、抽象的な言葉を具体的な行動に変える必要があります。
例えば、
・ミスをした後、もう一度ボールを要求する
・失点した後、味方に声をかける
・苦しい状況でも守備のポジションに戻る
・自分の判断でプレーを修正する
・失敗を恐れず、次のプレーに関わる
…など。
こうした行動なら、選手もコーチも確認することができます。
「メンタルが強い選手」を育てるのではなく、「メンタルの強さが表れる行動を育てる」という発想が重要なのではないでしょうか。
Mental Toughnessは「性格」ではない。
ここにも大きな意味があります。
「彼はメンタルが強い」
「彼はメンタルが弱い」
と決めつけてしまうと、メンタルを生まれ持った性格のように扱ってしまいます。
しかし、Mental Toughnessを具体的な行動として捉えれば、それは「育てることができる能力」になります。
FIFA Training Centreの記事でも、求める行動を明確にすることで、コーチが教えたり、観察したり、測定したり、時間をかけて改善したりできる「coach-able skill」として扱えることが示されています。(FIFA Training Centre)
これは、私はとても大切な考え方だと思います。
なぜなら、
「メンタルが弱いから仕方がない」
ではなく、
「どんな状況で、どんな行動ができるようになればいいのか?」
と問い直すことができるからです。
本当に育てるべきなのは、「自分で行動する力」
ここからは、私自身の考えです。
私はサッカーの指導において、選手に「答え」を与えることだけが指導ではないと思っています。
むしろ大切なのは、選手自身が状況を認識し、考え、判断し、行動することです。
そして、その結果を振り返り、また次の行動につなげていくことです。
これは戦術だけの話ではありません。
技術だけの話でもありません。
サッカーを通じて、「自分はどうするのか」を考える経験を積み重ねることだと思います。だから、私は、Mental Toughnessを単なる「精神力」として捉えるのではなく、「プレッシャーの中でも、自分で考え、判断し、行動する力」として考えてみたいと思います。
指導者の役割は「強くさせる」ことではない。
では、指導者は何をすればいいのでしょうか。
私は、「強くなれ」と言うことではなく、「強くなることが必要になる環境」をつくる。そして、その環境の中で選手が挑戦し、失敗し、修正し、再び挑戦する機会をつくることが重要なのではないでしょうか。
例えば、トレーニングの中にあえてプレッシャーがかかる状況を設定する。
時間制限をつくる。
数的不利の状況をつくる。
失点したところから再開する。
勝敗がかかった状況をつくる。
その中で、「この選手はどう行動したか?」を見る。
そして、
「今の状況で、なぜその判断をしたの?」
「次はどうしたい?」
と問いかけてみる。
そうすることで、メンタルを「鍛える」のではなく、メンタルが必要となる状況を経験しながら、自分自身で成長していく。
そんな育成ができるのではないかと思います。
これはサッカーだけの話ではない。
私はここに、スポーツの持つ大きな可能性があると思っています。子どもたちがスポーツを通して学ぶことは、「サッカーが上手くなること」だけではありません。
失敗する。
悔しい。
思い通りにならない。
仲間とぶつかる。
プレッシャーを感じる。
それでも、もう一度挑戦する。
その経験そのものが、人間としての成長につながります。だからこそ、スポーツ活動を通じて学ぶ「生き抜く力(非認知能力)」を考えると、単純に「自信」「忍耐力」「協調性」といった言葉だけで終わらせるのではなく、「実際にどんな行動として表れるのか?」まで考えることが重要なのだと思います。
「メンタルが強い人」ではなく「困難な状況でも行動できる人」
これからの時代、子どもたちに必要なのは、何でも自分ひとりで抱え込む「強い人」ではないのかもしれません。
困難な状況に出会ったときに、
考える。
相談する。
判断する。
挑戦する。
失敗する。
修正する。
そして、もう一度動き出す。
私は、スポーツの経験を通じて、そんな力を育てることがこれから必要だと思っています。プロの世界に入るのしても、社会に出ていくにしても、この力は必要になってきます。
「メンタルを強くしろ」ではなく、「この状況で、あなたはどうする?」と問いかける。
その問いの積み重ねが、選手の自立につながっていく。そして、それはきっと、その後の人生にもつながっていく。
まとめ
私たちは、
選手を「強くしている」のか、それとも、選手自身が「強くなっていける環境」をつくっているのか。
この違いは、とても大きいのではないでしょうか。サッカー(スポーツ)は、人を育てることができる。そして、これからのAI時代、変化が激しい時代の中、ますますスポーツから学ぶべきことが子どもの成長に貴重な体験となると考えています。
だからこそ私は、「サッカー(スポーツ)を教える」だけではなく、「サッカー(スポーツ)を通して人が逞しく育つ社会をつくりたいと思います。
※本稿はFIFA Training Centre掲載「Alan McKay on developing mental toughness」を参考に執筆したものです。
