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ある日記「Kondo」

 商店街の千円カットがなくなった。毎朝九時の開店時には店の前に行列ができる店だった。入ろうとするといつでも名簿に名前を書いて数十分待たされた。店員も客も歯車になって利益を生み出しているような店だった。
 だからてっきりビルごと取り壊しになるのだと思った。あの千円カットで家賃が払えないのならば、一体どんな店がやっていけるのだろう。そこは床と天井と壁で仕切られた透明な墓場だった。
 すると「カプセル楽局」ができた。カプセルトイのタワーを所狭しと詰めたお店だ。いわゆるガチャガチャやガチャポンやガシャポンやガチャだけがある。薬局をモチーフにしているからカプセルトイを管理する店員は白衣を着ている。正直もっと使える店がよかった。
 妻と前を通りかかったとき、「欲しいのがある」と中に連れられた。何十というカプセルトイがあるので、二人で目当てのを探せたらと商品名を聞いた。「知らない」と答えられた。名前は分からないが、見れば分かると言う。僕はどうしようもないので一通り見て外に出た。妻も見つけられなかったようだった。
 次の日、妻からLINEで画像が送られてきた。目当てのカプセルトイをインスタで発見したという。ポップアートのように不確かな線と原色に近い色で塗られた動物や天気の概念のフィギュアだった。作品のゆるさが購買意欲を掻き立てる空気を出していた。何の変哲もないようで唯一無二だと感じさせるものをどうしても欲しくなる生理現象はとっても理解できた。
 そのまた次の日、妻と店の前を通りかかった。「ちょっと見てみたい」と言うので、「そんなに頻繁に行っても意味ないぞ」と思いつつ、大きなウィンドウから店内をのぞいた。「あった!」と妻が指差した。指先を見てもピンと来なかった。前日に見た画像の内容をほとんど忘れていたのだった。商品紹介面には「Daisuke Kondo」と書いてあった。近所の人が好き勝手に作ったカプセルトイかのようなゆるさがあった。
 妻は熊のフィギュアを当てた。両手をお腹に当て、二つ足で立つ、ぽけーとした茶色い熊だ。しきりに「ひろあきくんに似てる」と言われた。肩掛け鞄のチャックに熊を付けて、妻はご機嫌に歩いた。そして、数歩ごとに「Kondoooooo」と叫んだ。Daisuke Kondoは良い仕事をしてくれた。

次の日には売り切れて別のカプセルトイに変わっていた。


【短歌と小説】あからさまな美人に変身するなんて初心者のやることよちびちゃん

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