日本最大の読書会コミュニティを運営するコツは尊敬されないことだった! 1日に最大300人集まる読書会はいかに作られたのか ┃ 山本多津也『読書会入門 - 人が本で交わる場所』(幻冬舎新書)
読書会に行きたいという熱に浮かされている。本の感想を同じ本を読んだ人としゃべりたいのだ。ネタバレなんて気にせずにどう思ったのかを聞いてもらいたいのである。
芸人たちで読書会をする『読書家芸人の集い』というイベントに出演したのもよくなかった。宮沢賢治『銀河鉄道の夜』について、ビールを飲みながら唐揚げパクつきながら思う存分語って、お客さんに笑ってもらって、あのときおそらくよくないレベルでいくつもの欲求を満たされてしまった。

読書会に憑りつかれてしまったぼくは、丸善ジュンク堂書店の社員さんに頼んで、新書の読書会を開いてもらうことにした。ぼくは「新書の学校」という企画のアンバサダーを務めているので、それを理由に平日の夕方に1時間も貰って「読書会やりたい」とプレゼンしたのだ。
わざわざスライドを作ってきて、手をブンブン振り回しながら、「新書の学校は読書会をすべきなんです!」と唾を飛ばして語るぼくを見て、丸善ジュンク堂書店の社員さんは読書会の開催を決めてくれた。読書会をやることはおおよそ決まっていて、開催時期が早まったくらいのことかもしれない。しかし、プレゼンをかましたぼくは大満足であった。

しかし、新書の読書会をやると決まってから、恐ろしいことに気づいてしまった。ぼくは読書会をどうやって主催したらいいか知らないのである。本について話そうと思えばいくらでもできるだろうが、読書会を運営するとなると、モロッコ料理のレシピについて知らないようにまったく知識がないのだった。
そんなとき頼るべきは新書である。探してみると、読書会の運営について知るのにうってつけの新書があった。それが山本多津也『読書会入門 - 人が本で交わる場所』(幻冬舎新書)だ。

著者の山本さんは「猫町倶楽部」という日本最大規模の読書会コミュニティを運営している。読書会は名古屋をはじめ東京や大阪などで開催され、年間参加者数は約9000人、日に最大300人が参加するという。巨大なコミュニティでは様々な人の交流が行われ、2ヶ月に1組ほどのペースで結婚するカップルも生まれているらしい。
猫町俱楽部の読書会に参加する条件はただ一つだけ。課題とする本を読み終わっていること。それ以外の明文化された規則は存在しない。会場費をまかなうための参加費さえ払えば、誰だって受け入れてもらえるのだ。
読書会では、参加者が6~8人のグループに分けられ、司会役の進行に従って話をする。自己紹介と軽いアイスブレイクの後、本について思ったことを一人ずつ話し、それを掘り下げていくことをひたすら続ける。司会者が場を回すのは最初の30分程度で、参加者どうしの自由な会話は自然と盛り上がり、2時間なんてあっという間に過ぎていくという。
参加者が読書会で得られるのは新しい視点だ。10人が同じ本を読んでも10通りの解釈が生まれる。自分と違う意見や体験に触れることで、自分の興味の届かない範囲、SNSによるフィルターバブルの外側に出ることができる。嗜好の外にある出会いは人生の良質なノイズになる。
山本さんは自分とは違う感想を持つ人と出会ったとき、どう考えるべきか面白いアドバイスをしている。「この人はどうしてこう思うんだろう?」と相手の思考を想像するのではなく、「自分はどうしてそうは考えなかったのだろう?」と自己を深掘ることを推奨しているのだ。
新しい視点に出会うとどうしてもそれに共感しようとしてしまう。しかし、そうやって想像しても本当のところは分からない。考えすぎれば答えのない問いという底なし沼に沈んでしまう。そこで、新しい視点を通して自分を見つめ直せば、自分のアイデンティティや思考の輪郭をはっきりさせ、それをさらに次のレベルへと押し上げることができる。山本さんは、他者を理解するためではなく、自己を理解するために他者と出会うことを説いている。
猫町倶楽部が読書会を開くのは、人々の継続学習を助けるためだ。そして、学習を続けるのに必要なのは参加しやすいコミュニティである。人は「ここにいてもいいんだよ」と許しを得られる居場所を見つけてはじめて学習に専念することができる。
では、コミュニティが排他的になるのはどんなときか。それはヒエラルキーが発生したときだ。参加者に上下関係があると、新しく入ってきた人は肩身が狭い。長く在籍している人や何かしら功績を上げた人が偉そうにしていたら、新しく入った人が人間関係に悩まされてしまう。
猫町倶楽部はヒエラルキーを発生させないように運営されている。読書会の運営を任されるのは「サポーター」と呼ばれるボランティアだ。業務は参加者の管理、会場設営、当日の受付や司会進行、ゲストのアテンドなど。サポーターになるための条件は、過去に3回以上読書会に参加した経験があること。つまり、ほとんど誰でもサポーターになる権利がある。
特筆すべきは、サポーターの任期が1年と定められていることだ。これにより長期的にサポーターを務めた人への権力の集中や、運営が少数の誰かに依存することを防いでいる。また、サポーターを経験した人が常に増えることで、猫町俱楽部の運営ポリシーを全体で共有しやすくなる。
また、ヒエラルキーを回避するためには、主催者の立ち位置をどこにするのかが問題になってくる。山本さんは、主催者が知的に尊敬されることを危険視している。知性はマウンティングの道具になりやすく、主催者が知性で競うような姿勢を見せれば、おのずと読書会全体が知性による上下関係を生み出す場に変貌してしまう。
しかし、主催者は会の要として存在しなければならない。そこで山本さんは「飲み会の幹事」をロールモデルとした。飲み会の幹事はみんなに必要とされるけれど、尊敬されない役回りである。尊敬されないからこそ地位を脅かされることもなく、会の盛り上がりに集中することができるのだ。
ぼくは飲み会が下手だ。多人数で盛り上がる共通項を探していく会話をうまくできないのだ。だからこそ読書会に強い希望を抱いている。それでも、飲み会の幹事ならやれるような気がする。ちょっと引いた立場なら参加してもいいと思えるからだ。
ぼくが気をつけるべきは知性のマウンティングだろう。ぼくは知識をひけらかして満足するような独りよがりな発言に陥りがちだ。その場で必要な知識は何か探りながら話さなければならない。会話で必要とされる知識とは、話す相手の背中を押すような知識なのではないかと思っている。
いつか猫町俱楽部の読書会に参加したい。もしぼくを見かけたら気軽に本の話をしてあげて欲しい。新書だって、小説だって、なんだって本は好きな奴なのだ。
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