ある日記「うなぎを食べるしか生きる道がないという結論」
神様がでっかいドライヤーで日本列島を乾かしているような夏だ。とはいえ、湿気はすごいのだ。口を開けると暑い空気が入ってきて溺れそうになる。「サウナみたい」とか軽口をたたいてみても、外気浴する外がこんなに暑いんじゃ救いがない。水風呂に浸かりたいよう、およおよおよ。
日本の気温を調べてみると、30度以上になった日数はここ50年くらい変わらないらしい。ただ、気温が35度以上になる日数がみるみる増えているのだという。このところ夏が一気に暑くなったように感じるのは、気温が35度以上の日のせいで、ぼくらは35度を超えるともう無理なのだ。夏が好きだったぼくでさえ、こんな暑さで生きてくのはもう御免だと思っている。
7月の末に土曜の丑の日がきた。夏バテ真っ盛りのぼくら夫婦は、その日ばかりは鰻を食べていいのだと、そうしなければ生きてゆけないのだと結論づけて、財布の紐をゆるめにゆるめて昼に鰻屋に行った。いつもまいばすけっとに行く途中に店の前を通りかかっては、初めて見たかのように「鰻屋だ」と口に出していた店に行くことにしたのだ。
店に入るとなんだか慌しかった。見渡す限りお客は1人しかいないのに、ああでもないこうでもないという話し声とばたばた動き回る音がしている。4人がけの机には弁当箱がうず高く積まれていた。土曜の丑の日には出前の鰻がよく出るようだった。
少しして無事におばちゃんに発見された僕たちは、クーラーが直撃する席に座った。なんせ外が雪だるまも3秒で溶け散らかすほどの暑さだったので、扇風機にするように顔をクーラーに向けた。おじさんに「うな重なら20分かかります」と言われたのでうな丼を注文した。
おばちゃんがグラスにコーヒーより濃い色をした麦茶を注いでくれた。暑いので一気に飲み干した。思いのほかするする飲める麦茶だった。それから綺麗な硝子の皿に盛り付けた冷菜を出してもらった。皮のむいたトマトに塩もみしたきゅうり、ところてんや細切りこんぶが宝物みたいに納められて、三杯酢の酸味がまろやかなソースがかけられていた。メニューには「おしんこと肝吸いが付きます」とだけ書いてあったので、「もしかして間違って運ばれてきたのか」とビクビクしたが、先に入ってるお客さんも食べていたので、まあいいだろうとぱくぱくっと食べてしまった。
それからお待ちかねのうな丼がやってきた。丼のふたを開けると一枚の大きなうなぎが白飯を覆いつくしていた。箸でそりそりと切って口にいれると、ふわり。しっかり蒸された関東風のうなぎだ。タレの醤油と砂糖が暑さで参った身体に染みる。まろやかで、それでいて継ぎ足された感じのコクがあるタレは、白飯にもこれでもかとかけてあって、タレご飯だけでもかきこめるくらいだ。
おしんこを口に運ぶ。まずはきゅうり。浅いぬか漬けだった。ちょっと醸されたにおいがうまい。それからうなぎ、それから白飯と思う存分にかき込む。肝吸いもいっとこうと啜ると、あっちいのなんの。でも、クーラーで冷えた身体を肝吸いが内側から温めるのが気持ちいい。のど、食道、胃袋と今どこに肝吸いがいるのか温かさで分かる。そして、うなぎ、白飯を思うがままに。たくあんときゅうりのぽりぽり漬けもいただきつつ。美味しいよお、およおよおよ。
うなぎに力をもらって、家に帰って、昼寝をした。起きたら夜だった。今日も一日なんとか生き延びたと思った。

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