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【読書感想文】村田沙耶香『信仰』

 にぼしいわしのにぼしさんがおすすめしてくれて村田沙耶香さんの『信仰』を読んだ。『世界99』でもう立ち上がれないかもしれないと思うほど打ちのめされてしまったのに、『信仰』も読んでみようと思った理由は分からない。かつて『コンビニ人間』を読んだときに、不器用な方法で、例えば体当たりとかで背中を押された感じがしたからだと思う。ずんとした喉越しの爽快感が欲しくて、いわば『世界99』の口直しとして読んだのだ。
 僕の目論見は大きく外れた。『世界99』の骨組みとなった考えが短編小説やエッセイとして書かれていた。どれも研ぎ澄まされていて、『世界99』で負ったまだかさぶたにもなっていない傷を綺麗に開かれたように思った。
 『世界99』は正しさが都合よく加速していく世界で人の尊厳が踏みにじられていく様を描いていた。主人公は周囲に順応することで世界を乗りこなそうとするが酷い目に遭っていく。主人公は世界を俯瞰して冷徹に眺めることができるのに、自分の頭が悪いことを理由に諦める。僕はこの負の諦観に打ちのめされた。
 世界をあるがままに受け入れると醜い。醜くて仕方がない。普通はそんな世界を変えようと抗うことで生きていく。愚痴を言ったり、仕事を頑張ったり、社会運動をしたり、手段はいくらでもある。自分の力で世界を変えるために与えられる物語が夢と呼ばれる。しかし、『世界99』ではそんな普通に生きる人々がぼろぼろになりながら主人公を餌食にしていった。
 僕は『世界99』を読んでいると体の力が抜けてしまった。採血のときに自分から血が流れ出るのを何も感じずに見ているときの脱力感があった。その原因が『信仰』を読んだ後なら分かる気がする。それは世界の醜悪をとことん見つめながら、全て飲み込んでしまおうという意志だ。今まで積み上げられてきた御託をこねくり回すことで自分勝手な納得を手に入れるのではなく、傷つくだけ傷ついてみてみようという試みだ。お前は完全に傷つき終えたのか、という問いかけに僕は突き落とされ、答えを持たないがために力無く平伏するしかなかったのだ。

冷たくも温かくもない優しい文体。

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