#179 宇宙人は未来人|ショートショート
あの大国が、ついに機密の扉を開けた。
これまで宇宙人と騒がれていた事象の多くが、タイムトラベルをする未来人だったのだ。
未来ではテレパシー技術が発達し、完全ドリンクが主食となっているため、口と顎が極端に小さくなっていた。一方で目と耳は今より大きくなっていた。
政府の発表会場は静まり返っていた。
未来人の代表と名乗る小柄な人物が、ステージに立った。頭は大きく、瞳は深く輝き、耳はまるでレーダーのように広がっている。
「我々は貴方たちの子孫です。三十二世紀から参りました。歴史の修正に来たわけではありません。ただの観光で訪れていました」
会場から笑いが漏れた。
あのUFO騒ぎが、ただの旅行だったというのか。
未来人は続けた。
「しかし、問題が発生しました。私たちの時代では、食糧不足が徐々に深刻化しています」
一人の記者が手を挙げた。
「それって、牛の誘拐と関係が?」
未来人は首を横に振った。
「それはただ、古来の食文化を観察していただけです。家畜の匂い成分だけでも満腹になれると信じていたのですが……」
そのニュースは世界中に流れた。
人々は安堵し、同時に奇妙な感慨に包まれた。宇宙人などいなかった。未来の自分たちが、ただ故郷を見に来ていただけだったのだ。
しかし数日後……
ある牧場の保冷庫から、ミルクがごっそり消えていた。保冷庫の周辺には見慣れない小さな足跡と、空になった容器が散乱していた。
未来人は歴史の修正はしないと言ったはずだが、腹が減っては未来も守れない。
子孫たちは、静かに、しかし確実に、祖先の食糧に手をつけ始めていた。
やがて人々は気づく。
本当の侵略は、宇宙からではなく、未来の胃袋からだったのだ。
