翼持つ彼へ、冬兵士からの指輪
熱帯夜が続きますが、いよいよ八月が近づいてきましたね。
「思慕」が「執着」に化けた瞬間、恋は美しい呪いになる。
「……今回のもよく映ってるな……。まるで映画のワンシーンだ」
ゴシップサイトのトップを飾るのは、漆黒のタキシードとオートクチュールドレスをまとった美しい男女。
女性は確か、上院議員の令嬢でハーバード•スクール次席卒の才媛だ。
天は二物を与えるとはまさに彼女を指すだろう美貌で、ゴージャスなブロンドを縦巻きに飾っている。
かたや、彼女のすぐ隣に立つ男は……、二週間と少し前にサムの作った朝食を綺麗に平らげ、皿洗いをしてから自動洗濯機に二人分のシーツと衣類を
投げ込んでいた「元・伝説の暗殺者」であった。
「うわ〜、ティルダ・ベッソンじゃん! バッキーも隅に置けないね」
iPhoneを覗き込んではしゃぐサムに苦笑しつつ、サムも「結婚したら、逆玉の輿ってやつだな」と写真をスナップする。
スキャンダルで湧き上がる二人は、三時間前にベルリンから帰国したばかり。ワシントンD.Cにある空軍基地で久しぶりの入浴を終えて、ちょうど一息ついたところだ。
「昨日の夜からひっきりなしの、連打テキストと留守録の原因はこれか」
ハリウッド俳優もかくやな色男から、らしくないスペルミスが乱発する
メッセージで、液晶画面が冠水している。
「バッキー、慌ててる?」
「文体めちゃくちゃで、何言ってるかわかんねぇよ」
「着信は?」
「聞いてないけど、まあ、似たようなもんだろ」
同居人には申し訳ないが、サムも相棒ホアキンもやっとありつけた
まともな食事に夢中でデリバリーの中華をかき込んでいたし、そろそろ
左腕サイボーグのパパラッチ騒ぎには慣れてしまった。
「今夜はどうするの? バーンズ下院議員候補のパートナー候補は」
「パートナー候補」のワードにいちいち反論するのも疲れてきたので、
サムは「いい加減、おしおきが必要かもな」と軽く流した。
「サム、ああ良かった……。何度も連絡してすまない。
でも、直接釈明したかったんだよ。彼女とは何もないんだ。
同じことの繰り返しでウンザリしてるだろうけど、俺は被害者なんだ。
あの写真は……」
「バーンズ議員、落ち着いて下さい。はい深呼吸、スッスッハー!
……怒るな冗談だよ。今夜、一緒に飯食わねぇ?」
冷房が効いた自宅リビングのソファでオレンジジュースを飲みながらサムが笑うと、iPhoneのスピーカーから、安堵のため息が溢れた。
「……しつこくてごめんな、任務で疲れてるのに」
「お前、ラッキーだぞ〜。今回は仲間に怪我人無し人質も無事無傷で保護。
予定より半日も早く事態が収縮して、キャップは上機嫌だ」
「そうか……、良かった何もなくて。わかるよ、お前の声が明るいから」
ふふん、とサムは鼻を鳴らす。相変わらずバッキーこと元ウィンターソルジャーは自分の扱いを熟知している。彼の繊細で優しい気遣いが、サムにはいつもこそばゆい。
「その代わり、俺の条件に従ってもらうからな! 今夜18時にヒルトンの
ジョヴァーナに予約入れたから、せいぜいお洒落して来い」
返事を待たずに通話を切って、立ち上がる。最近は公式なパーティーでの
顔出しも多く、オーダーメイドのスーツがクローゼットに彩りを添える。
「ブルックリンいちの色男に見劣りしないよう、こっちも頑張りますか」
ワシントンでも歴史の長い高層ビル群を抜け、大統領や政治家、多くのセレブが利用している三つ星ホテルの重厚なエントランスに足を踏み入れると、
馴染みの支配人が優雅な足取りで、サムを迎えた。
「光栄です、キャプテン•アメリカ。ようこそ」
「やぁ、連れを待ちたいんだが。人目につかない席ってどこかな」
「バーンズ下院議員ですね。それではこちらでお待ち下さい」
巨大なシャンデリアが煌めく吹き抜け下、回廊から四階へ旧式エレベーターで案内されたのは、特別な顧客のみ許された喫茶室。
セピアの色調でまとめられ、毛の深いベルベットにアルマーニの革靴がゆったりと沈む。
穏やかに談笑していた老齢の婦人達が、次世代キャプテンの姿を興味深げに伺ってきた。あからさまな嫌悪をむき出しにする共和党議員のグループ、
裏黒いビジネスで億を儲ける若き資産家など、顔ぶれは様々だ。
「ブレンドを」
「畏まりました」
以前、同居人に褒められた濃紺のシングルスーツに腕を通したサムは、
エントランスを真上から観察できる眺望にゆるりと満足した。
待ち合わせの時間より三十分早く着いたのは、慌てて駆け込みたい気持ちを抑えて
ここを訪れるだろう男の、一部始終を堪能したかったから。
優雅に流れる弦楽器の生演奏、混ざり合うトワレの香り。
しつけの行き届いたボーイには、荷物を運ぶ所作に全く無駄がない。
デラクロワの漁村で育った少年時代、まさか自分がこの場所で
憧れや憎悪、嫉妬の視線を熱烈に浴びるとは想像もしなかった。
「……おいでなすったな、ミスター•ハンサム」
この一ヶ月、キャプテン•アメリカのスマホを着信とテキストで埋め尽くした長身の美丈夫が颯爽と登場すると、
カクテルドレスを纏った若い女性や、パートナーと腕を組む夫人達が
一気に色めき立つのが空気でわかった。
これだ、これを観たくてわざわざ一等地で一杯500ドルのエチオピアを
楽しんでいたのだ。
支配人が男に近づき一言告げると、伝説的暗殺者の過去をもつ
シベリア雪原を想わせる冬の兵士は、ゆっくりと顔を上げた。
バイカル湖の水面に揺れる蒼の視線は、特別な血清によって強化されている。既にサムの悪戯な笑みを捉えたのだろう、照れた微笑みは純真な少年のようだ。
男女問わず熱い視線を独占しつつ、自分の元へ男が接近する過程を楽しむのは実に気分が良い。
「待たせたか?」
そして予想に違わず、四十年代のロマンチズムを捨てきれない彼の腕には、
大きな純白の薔薇束。花言葉は「私は、あなたに相応しい」
「いつも傲慢だよな、お前って」
「キャプテン•アメリカとのデートに、油断の余地はないだろう。ああ、俺も同じものを」
これが噂のジェームズ•ブキャナン•バーンズ議員か、と顔を盗み見たウェイトレスは
意味深な微笑みをサムに向け、静かに黙礼しテーブルを去る。
チップを弾まなければ、明日の夕刊には自分達二人の関係を穿った記事が
掲載されるかもしれない。
ゆっくり脚を組んだブラックスーツのバッキーは乱れた長い前髪を整え、
花束を受け取ったサムの指に軽く接吻を落とした。
緩くトップをウェーブさせたこのヘアスタイルはサムのお気に入りで、
艶めかしくニュース画面に多く露出している。
これで誌面は独占かな。
「おい、議員殿はまさか酔ってるんじゃないよな」
「俺がどれだけたらふく飲もうが、効き目がないのはわかってるだろ。
……会いたかったんだ、サム」
「へぇ」
「本当だ、俺から告白したのにおいてあんな写真が出て……。反省してるよ」
会話の絶妙な節目で、ボーイがリストランテのセットアップを知らせてきた。
「サム、」
「いいよ、とにかく食べよう。数日ろくに食ってないんだよ」
二週間と二日振りに再会したサミュエル•ウィルソンは、相変わらず
清楚な輝きを隠せない凛々しさを放つ男だった。
内面こそ清廉真摯なキャプテン•アメリカそのものであったが、
本人は自分の容貌がどれだけゴージャスで魅力的か、全く自覚がない。
かつての大統領で現在はラフト刑務所の住人、サディアス•ロスとの
ツーショットを、バッキーは冷静になるべく元暗殺者の目線で収集してきた。
娘に見捨てられた老齢の痩せた白人が見劣りさぜる得ないサムの肉体と、
落ち着いたコーディネートと知的な微笑みには、何度も嫉妬と独占欲を掻き立てられたものだ。
精神医学を学んでセラピスト資格を持つ者として、サムの他人への観察眼は
ずば抜けたものがあった。
初対面から相手の懐近くにするりと入り、そして決して一線を越えない用心深さと天性の距離感覚。
闇組織の暗殺者から脚を抜けるべく初めて出会った頃、バッキーは親友で兄弟同然のスティーブ・ロジャースの隣にひっそりと立つ姿に、いちいち苛立っていたものだ。
思えば、あれもサムの対象観察「相棒の元相棒」への軽い挑発だったに違いない。ただスティーブへの彼の眼差しは、まるで父を失った幼い息子のそれであったし、ひたすらキャプテン•アメリカへ無償で捧げられる献身には何故そこまで、という驚くべきものを感じていた。
親友が遠い彼方へと去って、二度と会わないはずだった翼持つ後継者と再会したバッキーは、迷い彷徨ってたとしても情景と支えを失っても屈しないサムの魂に、圧倒される。人々の夢や理想ではなく、目標となるべく象徴。
友人となり、そのまま親友に変化して相棒の地位を確立。彼を悪意持つ人々から守る為に政治家にもなった。今では、海岸線近くにある彼の実家へ自分も家族として受け入れられている。
「面倒くせぇから、一緒に住む?」
その提案に、突然踊り出した心臓の鼓動を忘れる日はないと思う。
アメリカのレガシーそのものになったサム•ウィルソンは、私生活において実に細やかで、その名声の華やかさとはかけ離れた慎ましい生活を送っていた。
趣味は料理で、かなり手の込んだメニューも簡単に作る。
バッキーは彼が綴るキッチンのストーリー全てに、胃袋を掴まれた。
クローゼットには神経質に並ぶコーディネートと、アンダーやカフスにソックス。色違いのそれらは一眼で分かるように綿密に整えられている。
シャツやシーツの皺さえ許さない完璧主義者で、職人のようにアイロンを自在に操る節立つ指。
冴え渡るジョーク、フラットな皮肉に口ずさむマービン•ゲイ。
本棚に並べられたオースティンにヘミングウェイ、コナン•ドイルとトールキン。医学書と推理小説。アニメや漫画雑誌、趣味は浅く広い。
しかし気になったのは、色恋関連の匂いが全く立ち上らないことだ。
前の職業柄、バッキー•バーンズはターゲットを確実に仕留める準備として、
あらかじめ彼ら彼女らの人生を洗い出していた。
権力者には変態的なプレイや、眉を顰める加虐さを隠さない連中も少なくない。その裏黒い過去や嗜好も、仕事には大いに役立つアイテムとなる。
サムの過去を調べたのは、けして中途半端な興味を満足させる
行為ではなかった。彼と共に日々を送り、あの笑顔で「おはよう」「おかえり」と迎えられ。孤独で凝固していた人生に、ようやく訪れた夜明けを確認したかっただけ。
裕福ではないが、そこそこ優等生だったサムには、成人するまで全く異性の影もなく、同性との火遊びも残っていない。これは実姉にも確認済みだ。
共通の親友で先代のキャプテン•アメリカも、長く清い身を貫いた珍種だったが、最後には妻子を得て平凡な人生を送っている。
もっとサムを知りたかった。その為には、彼のパーソナルスペースにリスクを承知で深く踏み入れねばならない。
それなのに、バッキーがワンステップ進むと、サムはツーステップ微笑んで下がる。まるで社交界のデビュタントのワルツの如く、全く触れさせてもらえないまま。
「思慕」が「執着」に化けた瞬間、恋は美しい呪いになる。
バッキーはかつてのウィンター•ソルジャーが、胸奥のホワイトウルフと共に
咆哮を響かせ爪を研ぐ気配を感じていた。
俺は、この男に恋をしている。七十年はるか向こうに捨てざる得なかった青春の残火を、キャプテン•アメリカとなったサム•ウィルソンへ捧げようとしている。
「うん、酸味が強いな」
ワインの女帝と呼称される「シャトー•マルゴー」をテイスティングしたサムは、視線だけでバッキーの感想を即した。
正直、アルコールなど超人兵士の味覚には区別がつかない。
酔えないのだから、何を含んでも高値の水と変わらないものだ。サムは、家でも赤ワインを好んでよく飲む。日常的にビールが多く、夜にはウイスキーも嗜んだが、地下にはかなりの数のコレクションが眠っている。
くっきりと上向きのカーヴを描くまつ毛を眺めつつ、バッキーは、「そうだな」と適当に答えた。緊張でヴィヴラニウムの指がグラスとぶつかる。
こうして二人顔を合わせてテーブルを囲むのは慣れているが、今夜は特別だと確信していた。
「……なぁ、ここまでお膳立てしてくれたってことは、返事を期待していいんだよな」
「返事って?」
「俺がお前に……、結婚を前提に交際を申し出た話だ」
いちいち言わせるサムには苛つくが、ここで下品にオスの本性を露呈させては物も子もない。二十一世紀に蘇って、超人兵器が次世代キャプテン•アメリカから学んだ多くのうちの一つに、重大な情報があった。
世界には、恋愛にもセックスにも無関心な人達がいる。
アロマン、アセクシャルと位置付けられたクイアである。
同居を初めて数ヶ月、尊い友情がプラトニックへ変貌し始めた時期があった。
キッチンで歌いながら調理をする後ろ姿だけに満足していたし、そもそも既に数回は絶命していたはずの命だ。大戦中に人間として暮らしていた
バーンズ軍曹は過去の偶像になって、多くの罪を犯した身は償いに全てかけるべきものと疑っていなかった。
「出会い系アプリ、どんな感じ?」
気軽な質問に、自分が傷ついていると理解したのはいつだろう。
とっくにスマホの画面からハートマークのアイコンを消去していたし、写真フォルダはその質問者の笑顔で溢れている。
「……もう、やめようかと」
「え、パートナー探しを?」
「俺に向いてないよ。やっぱり世代差が大き過ぎて」
ふうん、と納得していなさそうなサムに問い詰めたかった。
お前は? その年齢まで普通に生きてきて、情熱を燃やした相手は
一人としていないのか?
しかしそんな愚直さで攻め込めば、大敗の挙句に平和な同居生活が破綻に
傾くことくらい、バッキーはサムを知り尽くしていた。
サムには、けして踏み込めない一線がいつも存在している。
一年、二年と経過して、サムとの友情も相棒生活も順調満帆。
彼に恋愛対象が無いことは、バッキーを安堵させつつ、
別の「関心が全く無いから」の証左として常に怯えていたと思う。
「なぁ、サム」
「ん〜?」
その朝は、イングリッシュ•ブレックファースト。
マフィンの中に溶けるチーズは作り手こだわりの逸品で
わずかに青黴が匂う。
「……俺達は同居して二年になるけど、その、いつも色々ありがとうな」
「おいおい、大丈夫かサイボーグ。金なら貸せないぜ」
「そんなんじゃない……」
「わかってる、冗談だ。で?」
相変わらず小憎らしいほどの笑顔が、オレンジジュースを
直飲みしている。メタルアームの指からトマトが一切れこぼれ落ちた、瞬間。
「サム」
「はいよ」
「……俺と、結婚を前提に交際してくれないか」
パチリ、と瞬いた黒い瞳は、出会った時のまま変わらずまっすぐ
蒼いそれを見つめ返した。
「結婚を前提に、ってのが古き良きセンテンスだよな」
アボガドと蟹サラダを片付けると、メインである鴨のローストが
テーブルに並ぶ。世界のキャップがサーブするとあって、リストランテ最奥のテーブル周辺には他の客が一人もいない。
気を利かせたのかスタッフも寄り付かず、甘い密会に相応しい場所といえる。
「まだサムの結審がつかないなら俺は待つ、いつまでも待てる。
でも、レッドハルク事件のようにお前が緊急搬送されても他人の議員はICUに入れない」
「お前なら大丈夫と思うけどな」
「ずっと一緒にいたいんだ、サム」
銀のカトラリーがナプキンの上に音もなく滑り、漆黒の大きな瞳が
愛を告げた男を直視する。静けさが誰もいないホールに沈澱していた。
「お前、俺のどこがそんなにいいんだよ」
「……恋に落ちるのに、理由はいるか?」
「だって、ずっと一緒に暮らしているだろ。もうわかってると思うけど、
俺には昔から結婚願望もないし子供も望まない」
もう、そんな場合じゃないんだ。
サムが遠回しにキャップとしての重積で、恋愛などに浮かれている暇はないと
指摘しているのが伝わる。
「お前だってわかってるだろ、バック」
「サムが、アロマンだとはなんとなく」
「なら、今のままでいいじゃないのか。お前は俺の兄弟なんだぜ。
デラクロワには姉貴も甥っ子二人もいるだろ」
「……それは、感謝しているけど」
三つ星シェフが仕上げた料理の味が全く響かないのは、自分に
超人血清が流れているからではない。サムは以前、
「お前には生涯わかってもらえないだろう」と肌の色について語った。
そうかもしれない、でも傷付いてきたお前の気持ちに、ずっと
死ぬまで寄り添っていきたいのだ
黙り込む冬兵士の美しい顔に小雨が降り出す予感を覚えて、
軽くサムが肩をすくめた。
「お前って、本当に不思議な奴だよバック。あんなに俺を毛嫌いしてたのに、
すっかり実家に入り浸ってるし。来年のクリスマスも、サラはお前への
プレゼントを見繕ってるよ」
「愛しているんだ、サム。応えてくれないか」
瞬きで戸惑いを消そうとしているらしいサムは、ワインで唇を濡らしてから
「ま、やってみなきゃ何もわかんないしな」と呟く。
「……じゃあ、お試しでフィアンセしてみるか」
「サム……!」
「でもな、俺は相変わらずキャプテン•アメリカだし、盾は重いし。
お前に何かあっても、すぐ飛んではいけないぞ。それでも大丈夫か?」
熱い高まりを必死で抑え、蒼灰色の瞳の男はゆっくりと席を立つ。
同じくして厳かに、配膳していた青年がデザートプレートを
サムの眼前に置いて去った。
「……デザートなのに、蓋がされてる」
「開けてみろよ」
銀のクローシュを訝しげに指でつまみ、サムは微笑んで見つめている
元同居人の婚約者候補に従う。
「…………お前、これ給料三ヶ月分?」
「まさか、議員報酬は税金だ。ポケットマネーからだよ」
「ウィンター•ソルジャーの貯金を使ったとか」
「まあ、そうかもな」
小皿の上に、蒼く輝く宝石と小粒のダイヤモンドが散るリング。
明らかに女性向けのサイズではない。
「サファイア?」
「青いルビーだよ。お前、一度見たいって言ってただろう」
小刻みに震えている義手がそれを丁寧に拾い上げて、翼持つキャップの
左手薬指に飾る。
「これが、ガチョウの胃の中にあった石か」
「正規ルート品だぞ。ヴィヴラニウムコーテイングだ」
「お前ってマジで……」
命を奪い合った出会いから、ほぼ十年。これから先の年月がどんな
スピードで流れていくかは、まだ未知数だ。
でも、相棒であれ親友であれ、そして婚約者となっても
これからまだずっと、隣の男とは楽しく暮らしていけると思う。
「……フィアンセへ、約束のキスをしても?」
「キザ、本当にキザだ。勝手にしろ」
おそらくは、何百年と土深く眠っていた蒼の宝石は
これからも変化し続ける二人の形を見守っていくに違いない。
「あの白い薔薇、うちに大きな花瓶あったかな」
「帰りに買って行こう。俺が剪定するよ、サム•ウィルソン」
2026年7月25日 鳩夢
いいなと思ったら応援しよう!
マダム、ムッシュ、貧しい哀れなガンダムオタクにお恵みを……。