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Google Venturesを作った男の「4つの教訓」——小型ファンド優位・AIの現在地・Googleの破壊力

GoogleのベンチャーキャピタルであるGoogle Venturesを創業し、CrowdStrike、Coinbase、Cohereなどへの投資を主導してきたビル・マリス氏。彼は現在、1億5,000万ドルの小型ファンド「Section 32」を率い、AIと人間の生物学の交差点に投資し続けている。

このスピーチと対話では、創業初期のサーバー3台のアパート経営から、機械学習を使ったVCポートフォリオの設計、そしてOpenAIとGoogleのトークン価格競争に至るまで、一貫した投資哲学が語られた。投資家・起業家にとって実践的な示唆に富む内容を、4つのレッスンを軸に整理する。


1. 教訓1——閃きを信じ、すぐに動く


1-1. 1997年のアパートとサーバー3台

ビル・マリス氏のキャリアの出発点は、1997年のウォール街だ。神経科学の学位を持ちながらスーツを着てオフィスに通う日々の中で、あるとき会社のクローゼットの中にサーバーを見つけた。

「クローゼットの中にメールとウェブサイトが入っているなら、私のクローゼットにはいくつ入れられるだろう?」

この問いに突き動かされ、彼は即座に仕事を辞め、クレジットカードで資金を調達し、バーモント州のアパートでウェブホスティング・データセンター企業を起業した。サーバーが3台(小・中・大)置かれた部屋はオフィスであり、隣の部屋が寝室だった。水が凍るほど寒い冬、屋根が雨漏りすれば自らタールを塗りに屋根に登り、雷雨の中で作業を続けた。

「起業家として、私はそのリスクを取る覚悟があった」と彼は振り返る。

1-2. 「未来を知っている人」の特徴

マリス氏が投資家として一貫して探し続けてきたのは、「自分の周囲には信じてもらえない未来の秘密を知っている」起業家だという。

2009年のオバマ大統領就任式の群衆写真を例に挙げ、その中に一人だけノートパソコンで動画をストリーミングしている人物が写っていたことを紹介した。「周囲から見れば狂人に映ったかもしれないが、彼は何かを知っていた」。

雷雨の中で屋根にタールを塗ることも、他者には「狂気」に見える。しかし、未来を見通す起業家はしばしばそう見られるのだと、マリス氏は説く。

2. 教訓2——コンピュータサイエンスに逆らうな


2-1. Google Venturesをデータと機械学習で設計する

2007年、Googleからベンチャーファンドの立ち上げを任されたマリス氏は、Androidの共同創業者リッチ・マイナー氏とともに、Sand Hill Roadの主要VCを訪問しデータを集めた。

その後、ベンチャー投資の歴史的データを大量に取得し、機械学習を用いてポートフォリオ構成とファンド規模の最適化を行った。ただし、当時のGoogleでは、「AIという言葉を使うな」という内部方針があり、すべて「機械学習」と呼ぶ必要があったという。

「AIと言うと人々をパニックにさせるから使うな、と言われた」。

2-2. 成果としての数字

2009年から2018年の期間において、マリス氏が主導した投資は、上位パフォーマンスを記録。Google Ventures全体の推定リターンは、4.1倍とされ、自身が深く関与した投資ではさらに高い成果を出したと語る。

「コンピュータサイエンスに逆らうな。適切な問題に、適切なタイミングで、適切な手法を当てれば、正しい答えに辿り着く」というのが彼の信念だ。

3. 教訓3——小型ファンドは数学的に大型ファンドに勝る


3-1. リターンデータが示す格差

マリス氏が最も強調したのが、ファンド規模とリターンの関係だ。彼が示したデータによれば、上位10%のリターンを比較すると、7億5,000万ドル未満のファンドは平均4.76倍、10億ドル超のファンドは平均2.42倍となっている。

さらに、7億5,000万ドル未満のファンドは、上位10%パフォーマーの95%を占めており、それ以上の規模では「不連続なリターン圧縮」が起きているという。

3-2. なぜ大型ファンドは不利なのか

マリス氏はシンプルな計算例を挙げて説明した。

5億ドルのファンドで平均10%の持分を取るとすると、投資元本を回収するには、50億ドルの出口(エグジット)が必要になる。3倍のリターンを目指せば150億ドルのエグジットが必要だ。一方、70億ドルのファンドで同じ計算をすれば、3倍で2,100億ドルが必要となる。

「これはほとんどの年における、ベンチャー支援M&AとIPOの出口総額を超えてしまう」と指摘する。

また、大型ファンドが高いバリュエーションを押し付けてスタートアップを誘惑する問題についても言及した。「ファンドYが来て、『君の会社の評価額は4億ドルだ。2.5億ドル出す』と言えば、経験の浅い起業家はほぼ必ずそちらを選ぶ。インセンティブが歪んでいる」。

3-3. Section 32の戦略

こうした分析を踏まえ、マリス氏は、Googleを離れた後も小型ファンドにこだわり続けた。Section 32では、6本のファンドを運用し、平均ファンドサイズは4億ドル程度。すべてのファンドが上位10%のパフォーマンスにあると述べている。「DPIこそがベンチャーで唯一カウントされる指標だ」という信念は一貫している。

4. 教訓4——AIは「アタリ段階」にある


4-1. ゲーム産業との比較

AIの現在地について、マリス氏は、1980年代のテキストアドベンチャーゲーム「Zork」を例に挙げた。「コマンドを入力して待つ、入力して待つ。ランプを取れと言えば、『ランタンとおっしゃい』と返ってくる。これが今のAIだ」。

「80年代のゲームから今日のフォトリアルなゲームへの進化が、AIの世界では今後5年以内に起きる」とみている。その変化を生むのは、より大きなモデルではなく、「コントローラー、物理エンジン、GPU」に相当するプラットフォーム・インフラ層だという。

「私が投資したいのは、大型モデルそのものではなく、それを現実にするためのあらゆる基盤技術だ」。

4-2. Googleによるトークン価格戦争のシナリオ

対話の中でマリス氏が提示した最も鋭い問いの一つが、Googleによる価格競争の可能性だ。

「もしGoogleが、トークン価格を80%下げると決めたら、OpenAIとAnthropicのビジネスモデルはどうなるか?」

同等の製品がGoogleで80%安く手に入るなら、企業はそちらに流れる。「その圧力は超臨界状態になる」とマリス氏は表現した。さらに、Googleは、Uber型の戦略——成長資本を武器に市場シェアを獲得し、インストールベースを固める——も選択肢として持っていると指摘する。

「1兆ドルの支出コミットメントに対して、収益は600億ドル。それを小売投資家に引き受けさせようとしている」という表現で、現在のAI大型IPOへの懸念も示した。

4-3. 「公益のため」という言葉への疑問

マリス氏は、OpenAIのような企業が長期間プライベートのまま留まり、価値の大半を少数の投資家に還元した後に上場することへの違和感も率直に語った。

「公益のためと言うなら、もっと早く上場して多くの人が参加できるようにすべきではないか。401kの保有者を高値で掴ませる構造にして、それを人類のためと呼ぶのは矛盾している」。

5. ライフサイエンスとディープテックへの視線


5-1. 計算生物学への関心

マリス氏は、GoogleでCalico(長寿研究)を立ち上げた経験を持ち、現在もNew Limitなど計算生物学系の企業に投資している。ただし、ヒト臨床試験が必要な治療薬の領域は「専門性の高いセグメント」として距離を置き、計算によってアクセスできる領域に注力している。

「ヒト細胞のリアルなシミュレーションがシリコン上で実現すれば、その加速度は大きく変わる。ただ、まだそこには至っていない」と現実的に評価する。

5-2. 科学技術人材の流出懸念

H1Bビザ保持者の排除やCDC・NIHの予算削減、反科学的な風潮について、マリス氏は「頭脳とブレーントラストが失われている。これは科学にとって良くない」と述べた。中国がインドや欧州から優秀な科学者を積極的に招聘していることも、かつては米国が担っていた優位性の喪失として指摘している。

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