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PayPal創業者・Thiel Capital幹部が語る——AIバブルの見分け方と、今本当に価値があるものへの投資視点

PayPalの共同創業者の一人であり、Peter Thielのファミリーオフィス「Teal Capital」のマネージングディレクターとして、また、アリゾナ州のVCファンド「Copper Sky」のGPとして活動するJack Selby氏。Facebook初期投資家でもあり、SpaceXの初期投資家でもある同氏は、Riverwood CapitalのLatam Tech Forumで、AIバブルの構造的リスク・中東地政学とAIインフラの関係・VCとファミリーオフィスの問題点・インフレとK字型経済など、多岐にわたるテーマについて率直に語った。

本稿は、現場に長く身を置いてきた投資家の視点から、現在の市場をどう読むべきかを整理する。


1. AIは革命的技術であり、同時に史上最大のバブルになり得る


1-1. 二つのことは同時に起きうる

Selby氏は、まず前提として「AIは私たちの生涯で最も革命的な技術だと思う」と述べた上で、次のように続けた。

「技術が本物であることと、バブルであることは同時に成立する。AIには圧倒的な勝者も生まれるが、敗者の損失規模は過去のバブルとは桁が違う」

ドットコム時代のWebvan・Pets.comといった失敗企業と比較しても、現在のAI企業は、データセンター・チップ・エネルギーといった莫大な設備投資(capex)を必要とする。「負けたとき、そのcapexはすべてゼロになる。損失の桁は過去のバブルより1〜3桁大きくなる可能性がある」

1-2. ドットコム時代のブラウザ戦争との類比

Selby氏は、AIモデル企業の競争を、1990年代のブラウザ戦争になぞらえた。Infoseek・Ask JeevesといったYahooに先行していた企業が、後から登場したGoogleにすべてを奪われたように、現在の「有力」に見えるプレイヤーの多くが存続できない可能性があると指摘する。

ただし、OpenAIについては「絶対に生き残る。ただし、将来的にMicrosoftに取り込まれるかどうかは未知数だ」と述べた。

2. チップの減価償却——見落とされているリスク


AIインフラ投資における「ピックとシャベル論」(インフラ・チップ銘柄は安全という考え方)に対し、Selby氏は懐疑的だ。

データセンターのチップは、24時間365日フル稼働しており、「減価償却期間は従来の推計6年ではなく、実質的にはその半分——約3年程度に縮まっている可能性が高い」と指摘する。

チップが想定の2倍の速さで価値を失うとすれば、データセンターの収益性試算は根本的に見直しを迫られる。この点は金融メディアでも議論されつつあるが、市場価格への反映は不十分だとSelby氏は見ている。

3. 中東リスク——AIインフラ投資の25%が揺らぐ可能性


3-1. 市場が見落としているファクト

Selby氏が特に強調したのが、中東とAIインフラ投資の深い関係だ。

「今後5年間のAIインフラ投資の約25%は、中東の政府系ファンドや関連資本から来る見込みだ。そのうち半分は中東現地のデータセンターに、残り半分は米国などに投じられる予定だ」

Selby氏は、このインタビューが行われた際、中東情勢が緊迫化した直後にUAEに滞在しており、「困難な脱出劇」を経験したという。その経験から、現在の地政学的リスクを市場が過小評価していると感じている。

3-2. データセンターへの攻撃と不可抗力

すでにAmazonをはじめ複数のデータセンターが影響を受けた事例が出ており、「force majeure(不可抗力)による契約キャンセル」が現実的なリスクとして浮上している。

「これらのプロジェクトが延期・キャンセルされた場合、第二次効果として巨額の金融投資にも連鎖する。市場のインパクトはDeepSeekショックやSaaSの崩壊より大きくなる可能性がある」

影響が出やすいセクターとして、同氏は高い負債比率を持つOracleのような企業を例に挙げ、プロジェクト延期が与信毀損につながるリスクを指摘した。

4. VCとファミリーオフィスの構造問題


4-1. VC業界の3分の2は「存続すべきでない」

ファミリーオフィスのVC投資に対する不満について、Selby氏は珍しく自己批判的な立場を取った。

「VC業界は、ファミリーオフィスへのDPI(実際の資金回収)という観点で、資産カテゴリーとして非常に悪い仕事をしてきた。投資家たちが資金の回収をずっと待たされているのは正当な不満だ」

その結果、ファミリーオフィスが直接投資(ダイレクト投資)に転換しているという潮流に対しても、「彼らが試みること自体は責められない。私たちが同じことをやってきたのだから」と述べた。

そして、VC業界のおよそ3分の2は存続すべきではないと断言した。ゼロ金利時代に過剰な資金が流入し、「本来は小さな資産クラスに過ぎないVCに大量の資金が詰め込まれた」ことで、業界全体のリターンが低下したと説明する。

4-2. ダーウィン的淘汰の遅れとSPVの問題

本来起こるべき業界の「自然淘汰」は、VC業界では起きていないとも指摘する。「VC投資家は、自分の投資先に『早く失敗しろ』と言う。だが自分たちが不振になると、可能な限りゆっくりと失敗する」

また、多くのファミリーオフィスがSPV(特別目的ビークル)を通じた不透明な後期ステージ案件に投資している現状を「投資というよりトレーディング、あるいは賭け」と表現した。情報開示がなく、高い手数料が重なる構造は、単純にGoogle株を買うことと比較した際、合理的とは言えないとの見方だ。

「なぜ不透明なSPVに手を出すかといえば、カクテルパーティーで話せる"シャイニーな投資"が欲しいからだ」というSelby氏の指摘は辛辣だが、一定のリアリティがある。

5. インフレとK字型経済——AIが格差を拡大させる


5-1. インフレは「一時的」ではなかった

インフレについてSelby氏は「もはや誰もが認めているように、インフレは一時的ではなく定着している」と述べた。

その構造として提示したのが「K字型経済(K-economy)」だ。K字の上半分——富裕層向けサービス・高付加価値市場——はほぼ無限の価格転嫁力を持つ。一方、下半分——低価格帯・大衆市場——はコスト圧力を価格に転嫁できず、収益性が悪化し続ける。

例として挙げたのが、フォーシーズンズ(弾力性の低い富裕層需要)とホリデイイン(価格転嫁の限界がある大衆需要)の比較だ。

5-2. AIが格差を拡大するJカーブ

AIが雇用や格差に与える影響について、Selby氏は、「カタストロフィックな雇用喪失」という極端な見方は過剰だとしつつも、現在の移行期の痛みを認める。

「今はJカーブの下降部分にいる。痛みを伴う調整局面だ。そこから回復すれば状況は改善するが、移行期には確かにしんどい。場合によってはLカーブ(底が続く状態)のように感じられることもある」

また、AIは既存のK字型の格差をさらに拡大させる可能性が高く、政治的な二極化が進む中で「中産階級の空洞化」が深刻な社会問題になり得ると指摘した。

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