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Appleの失敗跡地から始まるWaymoの覇権——ロボタクシー戦争の最前線

自動運転業界に、象徴的な取引が明らかになった。

Waymoが、アリゾナ州ウィットマン近郊にある5,500エーカー(約22平方キロメートル)の広大な試験場を2億2,000万ドルで取得したことが公文書から判明した。この施設はもともと、Appleが自動運転車プロジェクト「Project Titan」のために使用していたものだ。

自動運転業界のリーダーとされるWaymoが、かつてのライバルとも言えるAppleの「夢の残骸」を引き継いだこの取引は、単なる不動産の売買ではない。米国での圧倒的な地盤固めと、ロンドンを舞台にした国際的な競争激化という、二つの大きな動きが同時進行していることを示している。


1. Appleの撤退とWaymoの前進


1-1. Project Titanの終焉

Appleは、2021年にこの施設を1億2,500万ドルで取得した。それ以前から、同社は数年にわたってアクセスを賃借していた経緯がある。施設はもともとフィアット・クライスラーのテスト用途で使われており、異なる路面、高速オーバル、高温環境でのテストに適した設備を備えていた。 TechCrunch

Appleは、この施設でプロトタイプ車両のテストを繰り返したが、自動運転車プロジェクト「Project Titan」は2024年初頭に正式に中止された。数十億ドルを費やした末の撤退だった。

Appleのような巨大企業でさえ撤退を余儀なくされたことは、自動運転技術開発の難しさを物語っている。一方で、その撤退が競合他社の資産獲得の機会になるという皮肉な構図も、テクノロジー産業では珍しくない。

1-2. Waymoが得た資産の中身

Waymoが取得したこの施設には、115エーカーの市街地コース、35エーカーの車両ダイナミクスエリア、4マイルのオーバルトラック、そして、自動運転テスト専用に設計されたフリーウェイコースが含まれている。Waymoのスポークスパーソンは、この施設を制御された環境での走行シナリオ再現、乗客のみでの走行テスト、動作制御テスト、オペレーション研修、将来的なテスト拡張などに活用すると説明した。

Waymoは、すでにカリフォルニア州のCastle Proving GroundとオハイオのTransportation Research Centerを保有しているが、今回取得したアリゾナの施設はそれら両施設を大きく上回る規模だ。

この取得はWaymoの戦略の一端を示している。商業展開を加速しながら、同時に自社技術の精度を高めるための物理インフラを着実に積み上げているのだ。

2. Waymoのスケールアップ戦略


2-1. 車両と都市の拡張

Waymoは、現在、フリートを急速に拡大中で、車両台数は約4,000台に達している。同社は、中国EV大手・Zeekrが製造するバンの初乗りサービスをすでに開始しており、ZeekrバンとHyundai Ioniq 5を合わせて年間数万台規模での製造を目指している。Zeekrの車両はWaymoのアリゾナ工場に送られ、自動運転システムが搭載される。 TechCrunch

Waymoは、フェニックスおよびマリコパ郡にて商業展開を進めており、その起点は2017年にチャンドラーでの自動運転技術テストにさかのぼる。現在ではロサンゼルス、サンフランシスコ湾岸エリア、オースティン、アトランタを含む米国内10都市以上にサービスを拡大している。

2-2. アリゾナとの深い関係

今回の施設取得は、Waymoにとって単なる試験能力の向上にとどまらない。Waymoはアリゾナ州に自社の車両製造拠点も構えており、同州は事業上の重要な基盤となっている。大規模な試験施設をこの地に持つことで、開発・製造・テストのサイクルを一体的に回せる体制が整う。

3. ロンドンを舞台にした三つ巴の戦い


3-1. Uber × WayveのタッグがWaymoに挑む

自動運転の戦場は米国にとどまらない。ロンドンでは、新たな競争構造が明確になりつつある。

Uberは、英国のユーザー向けに、Wayve(ウェイブ)の自動運転車と優先的にマッチングされる「関心リスト」への登録受け付けを開始した。これは、両社がロンドンでのロボタクシーサービス開始に向けて準備を進めているシグナルとみられている。サービスが始まれば、Uberは、米国でのロボタクシーリーダーとされるWaymoと直接競合することになる。 TechCrunch

Uberは、ロンドンで、WayveのAI自動運転システムを搭載したブランド仕様のFord Mustang Mach-Eを発表した。車内には64言語に対応したインタラクティブ・タッチスクリーンが設置されており、ライダーとのインターフェースはUberが設計した。

サービスの正式開始時期は「規制当局の承認を経て数カ月以内」とされているが、具体的な日程はまだ公表されていない。初期段階ではドライバー補助員が同乗し、将来的に完全無人運転へ移行する計画だという。

3-2. WaymoもロンドンにJaguar I-Paceを投入

一方のWaymoも、ロンドンの街路でテストを開始している。2026年4月から、人間の安全要員を同乗させた形で約100台のJaguar I-Paceを、市内の100平方マイルのエリアで走行させている。

つまり、ロンドンでは、Waymoが単独で展開しながら、UberはWayveと組んで対抗する構図になっている。米国での「WaymoとUberのパートナーシップ」とは異なる様相を呈しているのが興味深い。

3-3. UberとWaymoの複雑な関係

UberとWaymoは、2018年に営業秘密をめぐる訴訟を和解で決着させた因縁がある。その後、2023年に改めてパートナーシップを結び、Waymoは、フェニックスでUberのアプリを通じた配車に対応した。2025年3月にはオースティンとアトランタにも拡大したが、これらの都市ではWaymo独自アプリではなくUberアプリのみで呼び出せる形となっている。

一方で、Uberは、過去2年で自動運転関連企業への投資・提携を数十件積み上げてきた。また、UberのCTOがX(旧Twitter)でWaymoの走行動作を「怖い」と公開批判するなど、両社の関係は微妙な緊張をはらんでいる。

Uberは新設した「AV Labs」(データ活用部門)と「Uber Autonomous Solutions」(オペレーション部門)という二つの事業体を通じ、自動運転市場でのシェア拡大を本格的に狙っている。

3-4. Wayveへの巨額投資が示すUberの思惑

Wayveは、2026年2月、Uberを含む複数の戦略的投資家から12億ドルの資金調達を完了した。さらにUberは、ロンドンでのロボタクシー展開を条件に追加で3億ドルを拠出する可能性があり、総調達額は最大15億ドルに達する可能性がある。

この資金規模は、Wayveが単なる「UberのパートナーA」ではなく、Waymoへの本格的な対抗馬として育成されていることを示唆している。

4. 投資家として注目すべきポイント


4-1. 規制の壁と市場開放のタイミング

ロンドンでの競争には一つの制約がある。

英国政府は自動運転に関する規制整備を進めているが、その作業は現時点でいつ終わるか不透明だ。英国交通省は2026年5月にAVパイロットプログラムの参加企業募集を開始したばかりで、その成果を踏まえて規制の枠組みを構築する予定という。 TechCrunch

規制の完成が遅れれば、本格的な競争の開始も後ろ倒しになる。とはいえ、規制整備が進むほど市場が合法的に開放されるのもまた事実だ。

4-2. テスト施設という「見えにくい競争優位」

Waymoによるアリゾナ施設の取得は、直接的に収益を生む資産ではない。しかし、年間数万台規模のロボタクシーを展開しようとするなら、膨大な走行シナリオを事前に検証できる物理インフラの重要性は高い。今回の2億2,000万ドルの投資は、そうした長期的な競争優位を積み上げるための支出として見ることができる。

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