「メモリはバブル、NvidiaはBlue Chip」——VanEck CEOが語るAI半導体の本質的な差異
AI投資ブームの中で、半導体セクターは市場の中心的テーマであり続けている。しかし、「半導体」と一口に言っても、その中身は均一ではない。運用資産199億ドルを擁するVanEckのCEO、Yan Van氏は、Podcast「The Compound and Friends」の中で、Nvidiaとメモリチップメーカーを明確に区別して論じた。
本稿では、その議論を軸に、AI時代の半導体投資を評価する上で重要な視点を整理する。
1. AI半導体への楽観論——なぜ今も「強気」が続くのか
1-1. 需要と供給が同時に揃った稀なタイミング
VanEckのYan Van氏は、現在の状況をこう整理した。「コンピュートの需要はここにある。供給もここにある。今は効率的な市場に達するまでの段階だ」。
NvidiaのCFOであるColette Kress氏は、直近の決算説明で「ハイパースケーラーの設備投資は2027年に1兆ドルを超え、AIインフラ支出は、今十年末までに年間3〜4兆ドルに達する軌道にある」と述べた。これは単なる期待ではなく、主要クラウド企業の実際の発注動向に基づく見通しだ。
1-2. 「キャペックス減速」という神話は崩れた
Yan氏は、解放の日(Liberation Day)以降に崩れた市場の誤解として、「ハイパースケーラーのいずれかがキャペックス投資を絞る」という観測を挙げる。「誰も引いていない。この時点では、引きたくても引けないだろう。顧客需要がそれを支えているからだ」。
クラウドプロバイダーが投資を続ける背景には、企業顧客からの「さらなるコンピュートを」という圧力がある。一人の経営者の判断ではなく、マーケット全体の要請が投資を動かしているという点は、見落としやすい構造的な事実だ。
2. NvidiaはなぜBlue Chipなのか——CUDAというエコシステムの意味
2-1. コモディティから「AIのメインフレーム」へ
Yan氏は、Nvidiaの変遷をこう表現する。「Nvidiaは、かつてゲームプレイヤーにGPUを売るだけのコモディティ企業だった。そこからAIのメインフレームへと変貌した」。
この転換の核にあるのが、CUDAソフトウェアプラットフォームだ。AIに携わる研究者やエンジニアは、そのキャリアの中でCUDAを習得し、CUDAベースのワークフローを組み立てている。認定資格、トレーニング、そして業界標準のコードベース——この積み重ねが、競合チップが生まれても容易には崩れない「切り替えコスト」を生んでいる。
2-2. IBMの軌跡に重ねる長期展望
Yan氏が参照するのはIBMの事例だ。「IBMは、ハードウェアからソフトウェアへ、そして、サービスへと軸足を移しながら数十年にわたって生き残った。エンドカスタマーに近いポジションにいれば、ピボットができる」。
Nvidiaもまた今、推論、ロボティクス、自動運転という新たなフロンティアに布石を打っている。Yan氏はこう述べる。「Nvidiaはロボティクスや自動運転においても、大規模言語モデルと同様に重要なプレイヤーになるだろう」。ヒューマノイドロボットの商業展開がこれから始まる段階で、「今がバブルの頂点」と断じるのは時期尚早かもしれない。
2-3. 株価が動かない理由——株主基盤のシフト
直近の決算では、売上高が前年同期比約80%増、EPSが125%増という内容を発表したにもかかわらず、株価は横ばいに近い動きにとどまった。Yan氏はその理由を「株主基盤の交代」と説明する。
「ハイパーグロース期の投資家が去り、Blue Chip型の長期投資家が入ってくる局面だ。Amazonでもかつてそういう時期があった」。配当の開始、自社株買いの拡大(800億ドル規模)、安定したキャッシュフロー——これらはNvidiaが成熟した大型株としての姿を整えつつあることを示している。
3. なぜメモリはバブルなのか——「競争優位性」の有無
3-1. EPS急騰の中身を問う
話題の焦点は、MicronとSandiskのEPS急騰だ。Micronは、2025年3月時点の予想EPSが約9ドルだったものが、85ドルへと跳ね上がった。Sandiskも2ドルから99ドルへ。この数字だけを見れば驚異的な成長に見える。
しかし、Yan氏は、その中身を問う。「この利益成長の大半は、ユニット数の増加ではなく価格上昇だ。彼らは『うちの製品が必要だろう? では値段を上げる』という立場に立っているだけだ。それは本質的な付加価値とは言えない」。
3-2. 競争優位性(モート)の欠如
Yan氏の評価軸は一貫している。「10年後もこの会社は競争優位性を持っているか?」という問いだ。メモリ市場は、実質的な二社寡占(MicronとSamsung/SK Hynix)だが、そのポジションは技術的な差別化によるものではない。
「中国のメモリメーカーが輸出を本格化する可能性もある。AIモデルがメモリ使用効率を高めれば、需要の性質自体が変わる。価格転嫁頼みの収益は、構造が変われば崩れる」とYan氏は指摘する。
対照的に、NvidiaのCUDAエコシステムは、ソフトウェアと人材育成を通じた「知的な参入障壁」を形成しており、ハードウェアの世代交代があっても比較的維持されやすい。
4. 市場全体の構造——AIはS&P500をどう変えたか
4-1. 「S&P500はAIモメンタムETFになりつつある」
ダウンタウン・ジョシュ・ブラウン氏はこう語る。「アダム・パーカーによれば、S&P500の263社以上がAIインフラ構築に何らかの形で関わっている。カタピラーでも、デジタルREITでも、電力会社でも。ポジティブなことはほぼすべてAIのキャペックス拡大に直結している」。
この状況は、AI以外のセクターが相対的に停滞する一方、AI関連が市場全体の方向性を規定するという構造を生み出している。
4-2. 上位5社でS&P500利益の4分の1を占める
Bank of Americaのデータによれば、S&P500の利益の4分の1を、Nvidia、Google、Microsoft、Apple、そして、Micronのわずか5社が占めるという。Yan氏は、「この中で2年後に姿を消す可能性が最も高いのはMicronだ」と率直に述べる。
4-3. 等加重 vs 時価総額加重の再考
SMHが他の半導体ETFを大きくアウトパフォームしてきた理由の一つは、最大銘柄(Nvidia)を最大20%まで保有できる時価総額加重型の構造にある。
Yan氏とブラウン氏はともに、「セクターが好調なとき、勝者の比率を人為的に抑えることに合理性はあるか」という問いを投げかける。過去15年の市場環境では、大型株モメンタムが一貫して小型株を上回ってきた。ただしこれは永続的な法則ではなく、ネットワーク効果が支配的なビジネスモデルと、反トラスト規制の緩和という時代特有の条件によるものだという点は念頭に置く必要がある。
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