株式市場はなぜ上がり続けるのか——ファンダメンタルズが示す「現実」と投資家への示唆
中東情勢の緊迫、エネルギー価格の上昇、政府債務の拡大——こうした不安材料が山積する中でも、米国株式市場は上昇を続けている。S&P500の過去1年のリターンは32%、過去3年で86%、過去10年では320%に達した。年率換算すると15.5%という水準だ。
「この市場は現実から乖離しているのではないか」という問いは、多くの投資家が抱く疑問だ。米国の著名ファイナンシャルアドバイザーが運営するポッドキャスト「Ask the Compound」では、この問いに対してデータに基づいた答えを提示した。
1. 株式市場は現実から乖離していない——ファンダメンタルズが主役
1-1. 2026年第1四半期の決算が示すもの
番組ホストのベン・カールソン氏はこう断言する。
「市場はファンダメンタルズから乖離していない。ファンダメンタルズに従っている。ファンダメンタルズが今日の市場の主要ドライバーだ」
2026年第1四半期の実績ベースの利益成長率(前年同期比)を見ると、S&P500全体では25%の成長を記録した。テクノロジーセクターは、45%、通信サービスは、54%という水準だ。通信サービスの大半は、MetaとGoogleが占めており、実質的にはテック企業の集合体といえる。消費者裁量支出セクターでも35%の成長が確認された。
1-2. 収益成長と価格の連動
過去10年間の「12ヶ月先予想EPS(一株当たり利益)の変化率」と「株価変化率」を比較したデータによれば、両者は完全に連動しているわけではないが、トレンドとしては概ね一致している。また、これは「6四半期連続の2桁増益」だという。利益が横ばいの中で株価だけが上がっているわけではなく、利益が加速しているという構図だ。
1-3. バリュエーションの逆説
さらに注目すべきデータがある。S&P500は、2025年初以来約30%上昇しているが、その間にPER(株価収益率)は低下している。
「これが何を意味するか。ファンダメンタルズが価格よりも速く成長しているということだ」
価格が上がりながらバリュエーションが縮小するという状況は、企業の実力が市場の評価を上回るペースで向上していることを示す。NVIDIAが継続的に「高バリュエーションに成長で追いつく」パターンを示してきたように、市場全体でも同様の構造が生まれている。
2. AIが市場を動かしている——どこまで本物か
テクノロジーと通信サービスの突出した利益成長の背景に、AIがあることは間違いない。GoogleもAmazonもMetaも好決算を記録した。
ただし、ここで重要な視点がある。「市場は常にファンダメンタルズと連動するわけではない」という点だ。今はたまたま連動しているが、「期待値が過大になれば話は変わる」という留保もある。
「私の結論は、株式市場は間違っているよりも正しいことの方がはるかに多い、ということだ」
2020年4月のコロナショックからの反発、2022年10月のインフレ高騰時の底打ち——いずれも「市場は間違っている」と言われながら、市場が正しかった事例として挙げられた。市場が「受け取った情報を処理して正しく反応する」能力を持っていることは、歴史的なデータが示している。
3. 過去50年間の株式リターン——「7%」は保守的な想定
3-1. 1975年以来の実績
1975年以降のS&P500の年率リターンは、12.5%だ。「投資のシミュレーションでよく使われる7%という数字は、保守的な想定として低めに設定されたものだ」と番組内で説明された。
1975年に1万ドルを投資していた場合、現在の価値は420万ドルに達する。50年超の複利効果の威力を示す数字だ。
3-2. 直近1年のリターンの位置づけ
直近12ヶ月のリターン約31%は、1975年以来の月次起算の12ヶ月リターンのデータの中で88パーセンタイルに位置する。最高は1980年代初頭の強気相場開始時の61%、最低はリーマンショック時のマイナス43%だった。
「素晴らしいリターンではあるが、過去最高ではない」というのが客観的な評価だ。40%以上の12ヶ月リターンは過去に22回記録されており、稀有な出来事ではあるが前例はある。
4. 税制の応用——実践的な資産管理戦略
4-1. 外国税額控除の活用(VXUS保有の最適化)
米国外株式ファンド(VXUSなど)を課税口座(特定口座)で保有すると、外国で源泉徴収された税金について米国での税額控除(外国税額控除)が受けられる。IRAやRoth IRAなどの非課税・税繰延口座で保有した場合はこの控除が使えない。
ただし、実際の節税効果については、外国税額控除は平均7%程度に過ぎず、VXUS配当の約40%が非適格配当として通常所得課税を受けることを考えると「大きな差はない可能性が高い」とされる。
「あまり細かく考えすぎると分析麻痺に陥る。50/50で分けてしまうのが現実的」というのが結論だ。
4-2. 529プランの「フロントロード」戦略
子どもの教育資金を準備する529プランについて、「早い段階で一定額を積み増す(フロントロード)戦略」が有効とされた。理由は複利の時間を最大化できるからだ。
番組内では、早期に積み立てた529プランの引き出し時に、「分配額の90%が運用益だった」という事例も紹介された。つまり実質的に大学授業料の90%を市場の運用で賄えた計算だ。
ただし一点注意が必要だ。529プランで使われなかった資金は2023年以降、最大3万5,000ドルまでRoth IRAへロールオーバーできるようになっており、柔軟性は以前より高まっている。
4-3. 個人株の売却戦略——含み益700万円超の現実解
「4ドルで買った株が440ドルになった」という事例をもとに、長期保有株の売却戦略が議論された。70万ドル(約1億円)の含み益を抱えた株をどう処理するか、という問いだ。
提案された選択肢は複数ある。
まず、年明け早々に大きく売却する方法。1月・2月に売却することで、残り11ヶ月に税務対策の猶予が生まれる。その後、個別株のロスカットで損益通算することも可能だ。
次に、チャリティブル・ドネーション(寄付)。株を現物寄付すれば含み益を実現させずに済む。ドナー・アドバイズド・ファンドを活用すれば柔軟に時期を選べる。
また、家族への贈与も有効だが、ステップアップ・イン・ベーシス(相続による取得費引き上げ)は適用されないため注意が必要だ。
より高度な手法としては、プリペイド・バリアブル・フォワード契約(18〜24ヶ月後の売却を約束する契約)やエクスチェンジ・ファンド(複数の集中投資家が株を持ち寄って分散する仕組み、ただし7年間の保有義務あり)なども選択肢として挙げられた。
「税金を払うのは嫌だが、税金の尻尾に犬本体を振り回されてはいけない。ゲームに勝ったなら、もうプレイを止める頃合いだ」
まとめ
「株式市場は現実から乖離している」という印象は、データを見れば否定される。2026年のS&P500上昇は、ファンダメンタルズ——特にテクノロジーセクターのAI主導の利益成長——によって裏付けられている。
投資家にとって重要なのは、「地政学リスクが市場を動かす」という思い込みを捨て、「利益成長こそが株価の長期ドライバーだ」という原則に立ち返ることだ。同時に、529プランのフロントロード、外国税額控除の最適化、集中投資の分散戦略など、個人レベルの税務・資産管理も合わせて整理しておく価値がある。
1975年に1万ドルを投資した人が420万ドルを手にした事実は、長期投資の力を静かに、しかし確実に物語っている。

