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退院後の現実と、おばあちゃんがくれた「イチゴの勇気」。

正直に言うと、「もう大丈夫」だと思っていました。
退院して2週間。手術から約1ヶ月。厳しいリハビリを乗り越えて、ようやく手にした退院。

病院の門を出れば、すぐに元の日常に戻れる——。

そんな根拠のない自信がありました。
でも、現実は全然違っていました。
ただ歩くだけで、泥のように疲れる。
頭ではわかっているのに、体が自分のものじゃないみたいに動かない。

「できるはず」という理想と「できない」という残念な現実。
この数週間、その埋められない溝に、私は何度も突き落とされました。
退院は「終わり」ではなく、
本当の戦いの「始まり」だった。
正直、ここからが本当の本番でした。


夜になると、ふと思う。
「もし、このままずっと戻らなかったら?」

昼間は気丈に振る舞えても、夜の静けさだけはごまかせません。
誰にも言わなかったけれど、退院直後の私は、本当は不安で仕方がなかった。


■ 退院後の現実:自分の体と向き合う

日中はなんとか動けても、夜になると足が鉛のようにむくみ、痛み出します。

医師のアドバイスを参考に、自分なりの「正解」を見つけ出しました。クッションで足を高く上げ、寝返った先に保冷剤を置いておく。この体勢で眠りにつくと、翌朝には驚くほど浮腫が引いていました。

自分の体と向き合いながら、試行錯誤して眠りを整える。
大変だけれど、その変化がどこか楽しかったりもします。

かつての私なら、買い出しで5キロの米袋とお茶のケースを同時に運ぶなんて当たり前。でも、今は絶対無理。
ただ「足の踏ん張りがきかない」だけで、日常の景色はここまで一変するんだと実感しています。


■ 入院中に見えた、小さくて大きなこと


入院中の景色を、今もよく思い出します。
お見舞いでいただいたイチゴを、隣のベッドのおばあちゃんにおすそ分けしたときのこと。

その方は腕と背骨を骨折していて、体を倒すと激痛が走るからと、夜も上半身を起こしたまま。寝ることもままならない、本当に辛そうな状態でした。

…それなのに。
「あなた血圧高いんでしょ? イチゴ、いいのよ」と私を気遣ってくれた。
どっちが重症患者かわからないやり取りに、心がふっと緩みます。
あのイチゴの甘さは、ちょっと特別でした。


整形外科は基本的に「スパルタ」です。
「できることは自分でやる」という方針は、自立のために正しいと思う。
けれど、システムでは救いきれない「隙間」があることも知りました。

例えば、おばあちゃんの私物を置く棚。
腕と背骨を痛めている小柄な彼女には、その位置はあまりに高すぎた。
自分が我慢をすれば…と、変えて欲しいとは遠慮してなかなか言い出せないご様子。

「骨が折れてから、もっと背が縮んじゃってねぇ」と寂しそうに笑う彼女を見ていられず、すぐに看護師さんに伝えて位置を下げてもらいました。

低い位置に変わった棚を眺めるおばあちゃんの背中から、嬉しいメロディが流れてくる気がしました。

ふと見ると、彼女のテーブルの脚が壊れていて、片手では動かない様子。
「これ、使いにくいでしょ。私のと取り替えっこしましょう」
自分のテーブルと交換してあげると、おばあちゃんは本当にホッとしたような顔を見せてくれました。

高度なケアは行き届いていても、こうした「日常の小さな不便」は、誰かが意識して見つめない限り、こぼれ落ちてしまうのだと思いました。


おばあちゃんの不便に気づき、手を貸したとき、彼女は本当にホッとした顔をしていました。

その姿を見て、ふと気づいたのです。
助けてもらうことは、決して「負け」や「甘え」ではないのだと。
誰かに頼ることで救われる心が、確かにそこにはありました。


■ 「任せる」という強さを知る

おばあちゃんとの日々を通して学んだのは、
「できないことは任せる。甘えるときは甘えていい」ということ。

最初は不安でした。
けれど、思い切って家族に任せてみると、みんなそれなりにやってくれる。
そしてそれは、家族の力にもなっていました。
「あぁ、私が全部やらなくてもいいんだ」


劇的な変化があったわけじゃない。
・昨日より一歩、長く歩けた。
・昨日より少し、体がラクだった。
・できることがひとつ増えた。
その地味な積み重ねが、「私はちゃんと進んでいる」という確信に変わっていきました。

この1ヶ月は、決して無駄じゃなかった。
頼ること。任せること。今の自分を受け入れること。
全部、私に必要な時間でした。


あのときの、不安で押しつぶされそうだった自分に声をかけるなら、これだけ。

「大丈夫。ちゃんとここまで来れるよ」

今はまだ、土台を作っている真っ最中。
焦る気持ちもあるけれど、今はじっくり、一歩ずつ。

この「我慢の時」を抜けた先に、
以前よりも少しだけ優しく、確かな足取りで歩き出す新しい私が待っていると信じています。


そしてきっと私は、忘れません。
あのとき分け合った、
イチゴのやさしい甘さを。

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