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貯蓄残高が16%増えた「たった一言の追加」——限定的注意が動かす行動設計の原則

俺は今日も動かなかった。
だが、ボリビアとペルーとフィリピンの銀行口座保有者約7,100人は、SMSを1通受け取っただけで動いた。

2008年、イェール大学・ハーバード大学・ダートマス大学の研究チームが3カ国でランダム化比較試験を実施した。貯蓄目標を自分で設定した参加者を3グループに分けた実験だ。

グループAはリマインダーなし。グループBには「○○ペソ貯めましょう」という月次SMS。グループCには、本人が設定した貯蓄目標(用途)と金銭的インセンティブを組み合わせた月次SMS。

6か月後、グループBの貯蓄残高は対照群より6%多かった。
グループCは16%多かった。
リマインダーに貯蓄目標と動機づけを組み合わせることで、効果が大きく向上した。


なぜこんなことが起きるのか。

この研究で提唱された仮説は「限定的注意(Limited Attention)」だ。ものすごくざっくりいうと、人は将来の大きな支出機会に対する注意が不十分で、それが貯蓄不足の原因になる、という話だ。これは「メンタル・アカウンティング」とも関連する考え方だ。

「○○ペソ貯めましょう」と言われても、そのお金は心の中で宙ぶらりんになる。「やるべきこと」という曖昧な棚に放置される。

一方、「冷蔵庫のために」と言われた瞬間、そのお金は「冷蔵庫購入資金」という専用の区画に収まる。この区画に入ったお金は、他の用途に流用しにくい。「これは冷蔵庫のお金だから」という心理的なロックがかかるからだ。

さらに、具体的な対象を想起することで、達成状態がイメージしやすくなる。新しい冷蔵庫が台所にある場面。子どもが新学期に教材を手にしている場面。抽象的な数字より、こういう絵のほうが人を動かす。


ここから抽出できる原則はシンプルだ。

「数字ではなく、その数字で何が実現するかを想起させよ」

「1万円のご寄付を」より「1万円で3人の子どもに1年分の教科書を届けられます」。
「1日30分の運動を」より「1日30分の運動で、孫と公園で走り回れる体力を維持できます」。
「今月あと50万円」より「今月あと50万円で、チームで温泉旅行に行けます」。

数値を達成状態に翻訳する。それだけで、心の中に専用の区画が生まれる。


ただし、この原則が効くには条件がある。本人が目標を自分で設定していること。達成状態が具体的にイメージできること。リマインダーが煩わしさを上回らないこと。外から押し付けられた目標や、本人が動機を持っていない場合は効きにくい。

あなたの組織で数値目標を伝えるとき、その数字が実現する具体的な状態を描写できているだろうか。「売上目標1億円」は、誰にとって、どのような風景を意味しているか。

数字だけを伝えているなら、一言添える余地があるかもしれない。
その一言が、心に専用の区画をつくる。

動かなくていいよ(真顔)


この記事、社内回覧OKです(出典記載だけお願いします)

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