夏休みに読んだ本|千々和泰明 著「世界の力関係がわかる本~帝国・大戦・核抑止」
夏休み 勢いで書く 3冊目
【ネタばれ注意です】
戦後80年の夏休み。読書三昧もそろそろ疲れが。。明日は遠出しようかと思っています。
2冊目を書き終えた勢いで取り掛かった3冊目。
1冊目(深海の使者)、2冊目(日本海軍 失敗の本質)と戦前の話が続きましたので、
3冊目は、「現在」「これから」を考えてみるのもいいはず、とこれにしました。
千々和泰明 著 「世界の力関係がわかる本 ~帝国・大戦・核抑止~」(ちくまプリマ―新書、筑摩書房、2025年刊)
4,5時間で読み終わりました。とっても読みやすい本だなと思ったら、中高生向けの本でした。どおりで疲れたおじさんの頭にもすっと入ってきました。おすすめの本です。
以下、感想を述べていきます。
どんな本?この著者さん、似顔絵も秀逸!
例によって、オビを見ていきます。
表には、政治家の二人の似顔絵イラストと、意味深なスローガン?が大きく描かれている。
「やられる前にやる」が、どうも東条英機っぽいいでたちの軍服の男。
「勝てそうだからやる」が、どうもプーチンっぽい背広の男。
下のほうに小さな字で「戦争が起きる理由がわかれば、平和に一歩近づける」「これからの世界を生きるための国際政治学入門」 イラスト=千々和泰明
とありました。この著者さん、抜群に似顔絵イラストがうまい!!!
裏表紙のオビは、目次が載っているだけ。
裏表紙そのものには「戦争をなくしたい。兵器のない世界をつくりたい。でも、自分だけ先に武器を手放してしまったら、他の国に侵略されてしまうかもしれない……。そんなジレンマのなかで戦争と平和を繰り返す、世界の国々の力関係を読み解きます。」とありました。
目次を表に出しているのでこちらも紹介すると、
第一章 世界の力関係はどう変わってきたかー帝国と主権
第二章 帝国の出現を防ぐ手立てとは何かー勢力均衡
第三章 世界大戦はなぜ起こったか①ー脆弱性による戦争
第四章 世界大戦はなぜ起こったか②ー機会主義的戦争
第五章 国連はなぜ機能しないのかー集団安全保障
第六章 核兵器はなぜなくならないのかー核抑止
第七章 戦争はどう終わるのかー戦争終結
第八章 人類はまた大戦争を引き起こすのか
です。
この著者さんの本は初めて手に取りました。国の防衛研究所にお勤めの国際紛争の歴史がご専門の方でした。どおりで詳しいはずだし、色々とバランスがとれておられるなというのが読後感です。
主な感想メモ
一冊目と二冊目は、第二次大戦、それも日本海軍の動きにフォーカスしたものだったので、この本を読むことで、第二次大戦や戦後80年の出来事を、世界史的な流れのなかで理解し直すことができたような気がします。
とくに学び直しになったのは以下の点でした。メモしておきます。たくさん学ばさせていただきました。
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・世界史のなかでのおもな帝国の歴史の振り返り。
・インドのムガール帝国はモンゴルの意味だったのは初めて知った。中央アジアのモンゴル帝国が滅亡した後にその影響力を借りようと名乗った。
・帝国といっても日本語(漢語)の語感とエンパイアは違う
・主権国家の主権=ソブリン。国民主権とかの主権とちょっと意味が違いそう。戦後は帝国は存在しておらず、みんなが独立したソブリン(主権)国家であった。
・ヨーロッパ近代で発達した、勢力均衡の国際政治外交。主要国同士で合従連衡。ただし勢力均衡が成立せず覇権国が出現するケースもある(アメリカ合衆国、古代中国の秦)。
・ナポレオンは皇帝を名乗り帝国を目指したがロシアからの退却を機に対仏大同盟にやぶれ敗残。以後、英、仏、オーストリア、ロシア、プロシアあたりが主要国となり勢力均衡の政治が100年ほど続いた。
・均衡が破られたのが、ドイツ帝国の成立。ビスマルク亡きあといよいよ勢力が増し、ドイツオーストリアイタリアの三国同盟VSフランスロシアイギリスの三国協商の時代に。
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前提となる歴史の流れはここまで。本書は、ここから各論に入り、戦争という現象の政治学的な研究、理解、現象からの理論抽出、いわゆる学問的な話になっていく。
・オーストリアとセリビアの緊張(皇太嗣暗殺)から、連鎖反応的に各国の対立へと引火し第一次世界大戦がはじまる。こうなってしまった原因として、著者は、三点を抽出する。
ひとつめは、「安全保障のジレンマ」。いわゆる軍拡競争ですね。彼らが増強したからこちらも増強するぞ。それを見て、また彼らが増強…が続くこと。とくに軍拡が三つ巴(三か国間)で起きた場合、始末が悪い。それぞれが「1対2」のなかで考えるから、「1」のほうは「他の二国よりも強くならなくちゃ」と考える。その繰り返しで戦力のレイズアップが止まらなくなっていた。
・二つ目は、「自分の弱みを消そう」「弱みをたたかれる前に打って出よう」という発想におちいること。ドイツの場合、フランスとロシアに挟み撃ちされると弱い。だからまずフランスを先制攻撃し、とってかえしてロシアと戦うという大戦略を持っていた。実際にドイツは、まずフランスと西部戦線を構え、これを打ち破ったあとロシアと対峙するはずだったが、結果的に両面とも膠着状態に。それぞれの戦線で犠牲者を増やした。この「弱みにつけいられる前に何とかする発想」を、著者は「脆弱性による戦争」と解説します。
・三点めは、同盟をめぐる「巻き込まれ」と「見捨てられ」の心理。同盟の強国側は、小国同士のつまらぬ争いに「巻き込まれたくない」時がある。逆に小国のほうは、大国にとってはとるに足らない争いかもしれないが真剣な紛争では助けてくれないんじゃないかという「見捨てられ」の心配がある(同盟のジレンマ)。日米同盟にも、ありますよね。
・第二次大戦の原因は、うってかわって、「機会主義的戦争」として解説します。ドイツも日本も、「遅れて来た帝国主義」でしたから、植民地を得よう領土を広げよう資源を得ようと機会を狙っては仕掛けていく(チェコ併合、満州事変)。それに対し連合国側は、融和的な対応を繰り返し、増長させてしまった。
・千々和さんは、機会主義的な相手に対しては、抑止的な態度(きちっと効く脅し)をとるのが正解だという。※逆に、脆弱性を打ち消すために先制しようとする相手には「安心供与」をするポリシーが必要という。
※これは北朝鮮に対して「武力か対話か」という議論を思い出しますね。
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続いて戦後の風景から論じていく。戦前にはなかった国連というものについて。
・集団安全保障は国連。集団的安全保障は同盟。
・第一次大戦後に発足した国際連盟はいかに無力だったか。反省にたって作った理想はよかったものの、けっきょく、1件も戦争を止めたり制裁したりできなかった。脱退も相次いだ。
・国連はユナイテッドネーションズ。戦前はそのまま連合国。戦後は国連と訳した。結局は戦勝国が平和を維持する仕組み。拒否権の問題。
・拒否権により、国連も紛争抑止できたのはたった一回きり(フセイン政権イラクがクエートに軍事侵攻したのをたたいた湾岸戦争の一回きり。ソ連崩壊直後でソ連が反対しなかった)。
・それでも千々和さんは国連や安保理の仕組みを評価。拒否権発動がなければ国連軍が軍事侵攻して戦火が拡大したであろう、と。そうならなかっただけでもよい、と。納得しがたい部分はあるが、新しい見識に触れた思い。
第六章=核抑止について述べていく。
・国連が機能しなかった代わりに戦後機能したのは、核抑止。相互確証破壊(MAD)。同盟国を守る拡大抑止。大量報復戦略と、それを同盟国を守る傘に適用すると同盟のジレンマにより、必要性への疑念が生じる心理的なほころび(拡大抑止の提供元とのデカップリング)。
・その後、柔軟反応戦略(通常兵器や戦術核との併用による抑止)へ。沖縄返還にともなう沖縄基地からの核兵器撤去は実は柔軟反応戦略に沿っただけという。
・「安定・不安定のパラドックス」(実は限定的な核戦争が起きる可能性が高まること)。北朝鮮をめぐる動きや、ロシアウクライナ戦争に作用している。
・懲罰的抑止(絶対に報復されるぞ)、拒否的抑止(ミサイル防衛完璧だからむだだよ)。
・「恐怖(核)の拡散」よりも、「恐怖の独占」が現実。すなわち既存の核保有国の優越は認めることのほうがマシ。
・米ロシアによる核軍縮(核保有削減)交渉。いいことずくめのようだが、実は第三の核保有国である中国に「もっと核保有すれば先行2国に並べるじゃんか」というインセンティブを与えてしまいかねないリスクをはらんでいる。これも、なんとなくは思っていたが研究者がしっかり論じていたんですね。こうなると、第一次大戦前のドイツ・フランス・ロシアの間で軍拡スパイラルに入っていたように、止められない核軍拡が始まる可能性がある。
第7章
・戦争の終わらせ方。これは二冊目の戸高さんの本でも触れていた、日本海軍が実は戦争の負け方を知らなかった説。ちょうどそのアンサーともなる論考だった。
・やはり当時の日本軍のようにボロボロまで負けこんで止まる戦争と、そこまでやりこまれずに終わる戦争がある。
・優勢側と劣勢側。主導権はあるのは優勢側だが、自軍の被害(国民世論)がどこまで耐えられるかを見ながらたたきのめす(紛争原因の根本的解決)のか、やめてしまうことで将来に残す禍根(息を吹き返しやがるリスク)を天秤にかけ、「妥協的和平」を探るとの説は、わかりやすい整理を聞いた思いがした。
・ウクライナ戦争もガザも、こうした尺度(思考ツール)をもったうえで見つめると、見方の涵養になりそうな気がしました。もちろん「来たる台湾問題」をとらえる視座が得られる気も、しました。
最後に
最後に、千々和さん、繰り返しますが、イラストもうまいし、筆致も個人的には好感が持てました。ほかの本も機会をみて読んでみたいと思いました。
千々和さんについて知りたい方は、こんな番組にも出ていたのを見つけたので、ご参考ください。
戦後80年。日本では大きな戦争に巻き込まれることなく平和が続いた。何よりありがたいこと。でも、この平和がいつまでこの構造のまま維持されるのか。きちんと意識していかないと心もとないな、とも思いました。
