退職願を書いたけれど、書き直すのが面倒だった
退職願を出すことにした。
書式を調べ、便箋を買い、万年筆で丁寧に手書きした。
縦書きは結構難しい。
何度も書き直した。
出勤して、上司の宇野さん(仮名)に伝えた。
あの、屋根裏資料館に資料を積み上げていた人だ。
「今日の○時から、お時間を作ってください」
ところが、約束の時間になっても現れない。
電話をすると、彼はあっさり言った。
「ごめん、今スーパー」
私はしばらく言葉を失った。
彼は私との約束をすっかり忘れて、買い物に出ていたらしい。
怒りのあまり帰ろうとした。
でも、このまま運転したら危ない気がした。
近くの図書館に向かった。
館内を歩いていると、一冊の本が目に入った。
『アンガーマネジメント』
怒りが消える、らしい。
パラパラとめくると、こう書いてある。
6秒待てばいい。
なるほど、6秒。
そんなことで、この怒りが消えるのか。
椅子に座り、深呼吸をした。
6秒。
全然おさまらない。
さらに6秒。
しばらく座っていた。
少し落ち着いた気がして、家に帰った。
翌日、改めて退職願を出そうと思った。
ところが、日付が前日になっていた。
もう一度書くのは、かなり面倒だ。
私はしばらく考えて、破り捨てた。
彼は知らない。
あの日、私が本気で辞めようとしていたことを。
その後も、何度か退職願を書こうと思った。
でも、まだ書いていない。
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