顧客データを寝かせるのは、預金に置いたまま何もしないのと同じ
会社にとって、顧客データは資産です。
これに反対する人は、たぶんいないと思います。
でも実際のところ、その資産はちゃんと働いているでしょうか。
持っているのに、使えない
前回、前職の商品マスタの話を書きました。
同じ商品が品番違いで2つ登録されていて、片方だけ価格改定が反映されず、安いほうに注文が集中していた。集計しても別商品として計上されるから、誰も気づけなかった、という話です。
あれとまったく同じ構造が、顧客データでも起きます。
一般に、中小企業の顧客データはこんな状態になりがちだと言われます。
電話番号が入っていない、または途中で切れている
担当者名が空欄で、誰と話したのか分からない
過去のやり取りが記録されていない
部署ごとに別の場所で管理されていて、統合されていない
こうなると何が起きるか。
アプローチしたくても、できません。
リストを出そうにも、連絡先が欠けている。誰に連絡すればいいか分からない。前回何を話したかも残っていない。
資産は確かにそこにあります。でも、動かせない。
これ、預金と同じです
私はもうひとつブログをやっていて、資産形成の話も書いています。だから、この状況を見るとどうしてもこう思うんです。
預金に置いたまま、何もしていない状態と同じだ、と。
お金はある。減ってもいない。でも増えてもいない。
そして物価が上がっていく世の中では、置いておくだけで実質的な価値は目減りしていきます。 数字は変わらないのに、買えるものが減っていく。
顧客データも同じです。
放置している間に、担当者は異動します。会社の状況も変わります。一年前に取った名刺の情報は、一年分だけ古くなっている。 数は減っていないのに、価値は落ちている。
寝かせておくことが、そのまま損失なんです。
複利が効かない
もうひとつ、投資と似ているところがあります。
顧客との接点は、積み重なると効いてきます。
定期的にご様子を伺う。メールを送る。有益な情報を届ける。一回一回は小さくても、続けているうちに「困ったらあの人に聞こう」という状態になっていきます。
これは複利です。時間をかけるほど効いてくる。
逆に言えば、接点を持たない期間は、複利がまったく効いていない期間です。
そして厄介なのは、この損失が見えないことです。取りこぼした案件は、数字に出てきません。 「あのとき連絡していれば取れていた」は、永久に分からない。
どうしても短期で考えがちですが、長期で見れば、資産は寝かせるより運用しているほうが効率がいい。 これはお金でもデータでも変わりません。
そのデータ、いくらかかって手に入れたか
ここで一度、立ち止まって考えてほしいことがあります。
その顧客情報を手に入れるのに、いくらコストと労力をかけましたか。
広告費。展示会の出展料。営業が何十件と回った時間。断られ続けた末に、ようやくもらえた一枚の名刺。
タダで手に入ったものは、ひとつもないはずです。
それを、使えない状態で置いている。
商品マスタのときと同じで、誰も悪気はありません。目の前の仕事を回すのが優先で、記録は後回しになる。よくある話です。
でも、コストをかけて取得したものを寝かせているという事実は変わりません。
お金では買えないものが、そこにある
そして、これが一番言いたいことです。
顧客との接点で得た情報は、お金では買えません。
リストは買えます。企業の属性データも買えます。業種、規模、所在地。そういうものは、いくらでも手に入る。
でも、「あのとき担当者が何と言ったか」は買えません。
何に困っていると言っていたか
どこで話が止まったのか
決裁者は誰だと言っていたか
なぜ見送りになったのか
これは、実際に会話した人しか持っていない情報です。そして表面的なデータより、はるかに実態に近い。
さらに言えば、ここには次の商品やサービスの種があります。
顧客が実際に困っていることを、生の言葉で持っている。 これはマーケットイン型でプロダクトを設計するときの、最良の材料です。
外部から買ったデータでは、絶対にここまで届きません。
まとめ
顧客データは資産。でも、使えない状態なら働いていない
預金と同じで、置いておくだけでは価値が目減りしていく
接点は複利。持たない期間は、効いていない期間
取りこぼしは数字に出ないので、損失が見えない
そのデータは、コストと労力をかけて手に入れたもの
接点で得た情報は、お金では買えない
そして、次のプロダクトの種はそこにある
会社の資産が、いつまで経ってもインフレしない。
これは本当にもったいないことだと思います。
前回の記事で「一度振ったIDは変えない」と書きました。地味な設計の話です。でも、そういう土台があって初めて、資産は動かせるようになる。
持っているだけでは、資産にならないんです。
