これからAI・DX推進をやる人へ。私が遠回りして気づいた、効率化の順番
「Salesforceでレポートを作りたいんですが、どの項目を入れたらいいか教えてもらえますか?」
送ってきたのは、普段レポートや分析とは無縁の立場の人です。自分でやれば、5分もかからない内容でした。
で、一瞬考えたんです。
私が教える時間。その人が理解して作る時間。そして、次にその人がこの作業をやるのは、いつだろう?
3つ目で答えが出ました。そもそも分析が仕事ではない人です。次が半年後なら、たぶんもう一度忘れる。教える時間も覚える時間も、丸ごと無駄になる。
だから全部こっちで作って、はいどうぞ、で終わり。所要時間、数分。
そのとき、しみじみ思ったんです。結局、一番効くのはこれなんだよな、と。
「自分がやったほうが早い」の線引き
こう書くと、こう思う人がいると思います。
「それ、属人化じゃないの?」
その通りです。全部を「自分がやったほうが早い」で処理したら、その人が休んだ瞬間に会社が止まります。ここは私も相当気をつけている。
だから私は、頻度で線を引いています。
• 年に1〜2回 → できる人がやる。教えない
• 月に数回 → 手順を書いて渡す
• 毎日・毎週 → 仕組みにする。ツールやAIの出番
さっきの件は、明らかに一番上でした。だから迷わず巻き取った。
もしあれが「毎週やりたい」だったら、答えは真逆です。テンプレートを渡すか、自動で飛ぶようにしていた。
「自分がやる」か「教える」か「仕組みにする」か。決めるのは、その仕事の頻度です。
AI推進担当が言うのも変なんですが
私はいま、会社でAI・DXの推進をやらせてもらっています。「AI入れたら、この作業なくなりますよね?」と聞かれる機会も増えました。
だからこそ、正直に書きます。
ツールを入れても、楽にならない仕事はけっこうあります。
なぜそう思うようになったのか。前の会社の話をさせてください。
コロナ禍、価格交渉ができなくなった
前職は総合商社でした。社員は50人弱。大企業ではありませんが、業界内ではそこそこ名の通った会社です。
扱う商品は、ありとあらゆるもの。商品データは何万点という規模でした。
そこにコロナ禍と物価高騰が来ました。
メーカーから、価格改定の案内が膨大に届きます。当然、こちらもお客様と価格交渉をしなければならない。
ところが、それができなかった。
何が登録されているのか分からない。売価も分からない。仕入先も、仕入価格も分からない。
商品マスタが、まともに整備されていなかったんです。
さらに、お客様は自社の独自品番で発注してきます。その品番と、うちの商品が紐づいていない。何を売っているのかを特定するところから始まる状態でした。
結果、どうなるか。赤字を垂れ流しながら、交渉のテーブルにすら着けない。
「なんとなく」が通用しなくなった
たちが悪いのは、それまで回っていたことです。
マスタが不完全でも、ベテランの記憶と経験でなんとなく乗り越えられていた。平時はそれで済んでいたんです。
でも、有事にはそんな悠長なことを言っていられなかった。
そして、誰も分かる人がいなかった。ITに強い人材もいない。完全に自社の独自システムで、改修も個人のエンジニアが1人でやっていて、手も足も出ない。
個別最適の積み重ねは、平時には隠れていて、有事に一気に崩れます。
誰もやらないので、自分で作った
私は営業です。エンジニアではありません。商品マスタの整備は、本来こちらの仕事ではない。
でも、待っていても誰も直せなかった。
だから作りました。お客様の独自品番と自社商品を紐づけて、商品コードを入れれば商品情報も写真も出てくる。UIのデザインまで自分でやりました。ホームページも独学です。
プログラムが書ける営業マンという、まあまあ珍しい存在だったと思います。
前職では、最初から社内SE的な立ち位置だった
そもそも私は、PCに強い人材として入社していました。だから最初から、営業と並行して社内SEのような役割も担っていたんです。
PCもネットワークも、メールもホームページもSNSも。ITと名のつくものは、だいたい私のところに来る。
営業をやりながらです。それでいて営業成績で社内No.1を取ることも、しょっちゅうありました。
そして商品マスタの件に限らず、いろいろなものを自動化して、大幅な効率化に成功しています。
つまり前職では、「作れる人」であることが最初から前提になっていた。
転職で、それがリセットされた
問題は、その次でした。
今の会社に移ったとき、入った当時は5人しかいない小さな会社です。それぞれが事業責任者のような立場で、まったく別々のことをやっていた。
お互いの手札なんて、見えるわけがなかった。
そして、伝えきれていなかった自分にも非があります。 前の職場では言う必要がなかったことを、新しい環境では一から伝えないといけない。そこに頭が回っていませんでした。
結果どうなったか。上から降りてくるツールを、よく分からないまま管理する立場に、いつの間にか私が置かれていました。
作れる人が、よく分からないまま管理する人をやっていた。
この記事で書いている「できる人ができる事をやれていない」状態の、当事者が自分だったわけです。
会社はいま40名以上になりました。この規模になると、埋もれる人はもっと出やすくなります。
個別最適だらけで、全体最適になっていない
管理する側にいた時期に、見えていた景色があります。
あちこちで個別最適が起きていて、全体最適になっていない。
部署ごと、担当者ごとに、それぞれが自分の持ち場を最適化している。個々のツールは、それぞれちゃんと仕事をしている。なのに全体として速くなっていない。
部分は直っているのに、流れが直っていない。
前職の商品マスタも、まさにこれでした。それぞれの担当が自分の記憶と経験で乗り切っていた。全体を通したデータの流れが、誰にも設計されていなかった。
本当の効率化は、業務全体の流れを把握して、入り口から出口までを設計することだと思っています。
どこから情報が入ってきて、誰の手を何回経由して、どこに着地するのか。これを描かずに途中の1工程だけ速くしても、前後で詰まるだけです。
必要なのは、マクロとミクロを行き来する視点です。全体を俯瞰しながら、同時に個々の作業がどこで詰まっているかも見る。
片方だけの人は多いんですが、両方持っている人は本当に少ない。
そして厄介なことに、全体を見られる人ほど、全体を見る仕事を任されていなかったりします。
AIは掛け算
もうひとつ、決定的だった経験があります。
新しい営業チャネルを2ヶ月ほど回して、撤退を決めたことがあります。
うまくいかなかったとき、最初は「トークの質か」「ツールが足りないのか」と手段の話ばかりしていました。AIで分析すれば改善点が見つかるはずだ、とも思っていた。
でも数字を全部並べたら、原因はもっと手前にありました。
そもそも狙う相手を間違えていた。
チャネルが悪かったのでも、トークが悪かったのでもない。ターゲット選定という、一番最初の、一番人間が考えるべきところがズレていた。
ここにAIを投入していたら、「間違ったターゲットに、より効率よくアプローチする」という最悪の結果になっていたと思います。
AIは掛け算です。0に何をかけても0のまま。
ツールを検討する前にやる、3つのこと
1. 捨てる
まず「この仕事、やめたらどうなる?」を全部に問う。
止めて誰も困らなければ、それが最速の効率化です。導入コストゼロ、学習コストゼロ、運用コストゼロ。これに勝てるツールはありません。
2. 寄せる
次に「これは誰がやるのが一番速いか」を考える。
同じ作業でも、慣れている人なら5分、慣れていない人なら1時間かかることがザラにあります。1時間を短縮するツールを探す前に、5分の人に寄せたほうが早い。
みんな、それぞれの専門分野で日々の業務を回しています。得意なところを持ち寄る。それが一番の効率化でした。
3. 構造にする
最後に、残った仕事の流れを書き出す。
ここまでやって初めて、「この部分はツールでいけるね」「ここはAIに任せられるね」という話ができます。
そして、これは実感なんですが——いまの時代、一番価値があるスキルはコードを書く力ではなく、仕事を構造に落とす力です。
構造さえ整理できていれば、実装はAIが猛烈な速さでやってくれる。私も今はClaudeを使って、業務ツールどころかゲーム制作までできるようになりました。
逆に、ぐちゃぐちゃのまま投げれば、ぐちゃぐちゃの答えが返ってきます。
今日からできる、たった一つのこと
この1週間にやった仕事を全部書き出して、3つに分けてみてください。
• A:自分にしかできない仕事
• B:他の人のほうが速い仕事
• C:そもそもやらなくていい仕事
だいたいの人は、Cが想像より多くて驚きます。そしてBが、思っていた以上に多い。
まずCを消す。次にBを渡す。そのうえで、Aだけが残った状態でツールやAIを検討する。
同じツールを入れても、効果が全然違ってきます。
まとめ
• 効率化がうまくいかないのは、ツールが悪いからではなく順番が違うから
• 「自分がやる/教える/仕組みにする」の分かれ目は、その仕事の頻度
• 個別最適をいくら積んでも全体最適にはならない。入り口から出口までを設計する
• 構造にできていない仕事は、人にもAIにも渡せない
• AIは掛け算。かける前の数字を大きくするのが先
• そして、環境が変われば前提はリセットされる。自分から伝えないと、伝わらない
AI推進をやっている人間が「AIの前にやることがある」と言うのは、矛盾して聞こえるかもしれません。
でも、たぶん逆です。AIを本気で活かしたいからこそ、その手前の設計をサボりたくない。
派手じゃないし、誰も褒めてくれない作業ですけどね。
