【小説】Lv40 アルバムと色紙|先生、冒険の続きを。~31年目のサンスーファンタジー~|第4章 正義と別れ 編
Lv40 アルバムと色紙
ついに、来てしまった。
4年4組の仲間たちと、
そして、僕たちの
『偉大な勇者である先生』との、
『本当の別れの日が』
僕の少年時代を振り返ってみても、
あの1年間ほど
濃密で、
眩しくて、
エネルギッシュな
日々はなかった。
普通なら、そんな特別な1年の
締めくくりである『お別れの日』の風景は、
何年経っても色褪せないはずだ。
僕は、もともと記憶力が凄まじく高く、
子どもの頃の出来事を事細かに話すと、
よく周りの人たちに
「そんな前のことをよく覚えているね」
と驚かれるくらいだった。
いつ、
どこで、
誰に、
何を、
どのようなトーンで
言われたかを、
すべて昨日のことのように
鮮明に思い出せる。
だけど、僕は、
先生と最後の別れを交わした、
その一日のことだけは、
なぜか記憶の引き出しが
完全に空っぽのままなんだ。
教室の窓から
どんな風が吹き込んでいたのか。
クラスの誰が
どんな風に泣いていたのか。
そして、
教壇に立つ先生が、
最後に僕たちに
どんな言葉を遺して、
どんな表情をしていたのか。
どれだけ頭の奥を探っても、
その日のことだけが、
不自然なほど、
ぽっかりと抜け落ちている。
いや、きっとそれは、
『忘れてしまった』のではない。
あんなに大好きだった先生との別れが、
10歳の僕にとっては
あまりにも
辛すぎて、
寂しすぎて、
これ以上心が傷つかないように、
『忘れたい』と強く願って
記憶の底へ封印して
しまったんだと思う。
それほどまでに、
僕にとって先生の存在は大きかった。
本当の終わりを実感したのは、
クラスが解散し、
何日かした春休みのことだった。
いつもと変わらない、
少し退屈な春休みの昼下がり。
自宅にいると、
ピーンポーン、ピーンポーン!
僕宛ての宅配便が届いた。
「僕宛て……?」
まだ小学生で、
自分宛ての荷物なんて
一度も受け取ったことのない僕は、
不思議で仕方がなかった。
僕にわざわざ郵便物を
送ってくる大人なんて、
親戚以外に思い当たらない。
首を傾げながら、
伝票の差出人の欄に
目を落とした瞬間、
心臓がドクンと
大きく跳ね上がった。
そこに書かれていたのは、
あの豪快で力強い、
先生の文字だった。
「先生からだ……!」
僕は夢中で段ボールのテープを剥がし、
はやる心を抑えきれないまま中を覗き込んだ。
中に入っていたのは、
一冊のアルバムと、
一枚の色紙
そっとアルバムを持ち上げ、
ゆっくりと表紙をめくる。
そこには、僕たち4年4組が
泥だらけになりながら
駆け抜けた、
あの輝かしい一年の軌跡が、
数え切れないほどの写真となって
収められていた。
教室の後ろでみんなが
真剣な顔をしながら、
でもどこか楽しそうにしていた
闇鍋の調理シーン。
昼休みに、先生も混ざって
全員でボールを追いかけた
サッカーのシーン。
普段から落ち着きのない僕が、
グラウンドの水たまりに向かって
全力でヘッドスライディングしたシーン。
遠足のとき、みんなで肩を組んで
最高の笑顔を浮かべた集合写真。
写真を一枚めくるたびに、
あの破天荒で愛おしい教室の騒がしさが、
耳の奥にブワッと鮮やかによみがえってきた。
先生は、僕たちが気づかないところで、
こんなにもたくさんの僕たちの
『一瞬』を切り取っていた。
カメラのレンズの向こうには、
いつも先生がいたんだ。
そして、そのアルバムの最後のページを
開いたとき、僕は息を呑んだ。
厳密には、最後の一ページではなく、
まだ何ページか残っていた。
そこには写真がなく、
白い余白の真ん中に、
先生の直筆でこう記されていた。
「ここから先は、
みんなの冒険の続きの
写真を入れてください」
胸の奥が、カッと熱くなった。
冒険は、ここで終わりじゃない。
僕たちの人生という名の冒険は、
これからもずっと続いていく。
だからここから先は、
先生に頼るのではなく、
自分たちの足でしっかりと歩んで、
自分たちだけの冒険の続きを
このアルバムに詰め込んでいくんだ。
手書きの文字の向こうから、
いつも僕たちを導いてくれた先生の声が、
優しく、だけど力強く聞こえた気がした。
もう一つの贈り物である色紙には、
先生の独特なタッチで描かれた、
僕の似顔絵が躍っていた。
細いキツネ目に、
内股、
生意気そうな口元。
そして、いつものKINGの服。
紛れもない、
サンスーファンタジーの
中で戦っていた、
僕、ユーチの姿だった。
そしてその横には、
先生からの最高の勲章が添えられていた。
『遊びの達人、
年中元気者、ユーチ』
その文字を見た瞬間、
すんなり受け入れることができた。
現在の自分の存在意義と一緒に。
だらしなキングと言われ、
算数からはいつも逃げ回ってばかりで、
ヒーローにはなれなかった僕。
だけど先生は、
僕のいいところを、
誰よりもちゃんと見てくれていたんだ。
『遊びの達人』で、
『年中元気者』な
僕のキャラクターを、
最高の強みとして認めてくれていたんだ。
だから、僕は選ばれなかったんじゃない。
先生は大切な僕を残してくれたんだ。
今なら、そう言い切れる。
その色紙とアルバムは、
あれから30年以上が経った今でも、
僕の人生の何物にも代えがたい最高の宝物だ。
僕の宝箱の中には、
色紙とアルバムと一緒に、
腕を骨折した僕がずっとつけていた
先生が書いてくれた、
グリーンイグアナの絵が
入った『ギプス』
僕はそれらをすべて、
今でも自分の部屋の
特別な宝箱にそっと仕舞ってある。
たまにその箱を開けるたび、
あのざらついた手書きプリントの手触りと、
先生の大きな手の温もりが、
昨日のことのように蘇ってくる。
結局、僕は先生と、
面と向かって
最後の別れの言葉を
直接かわすことはできなかった。
先生は、当時、
小学生の僕の小さな足では、
どれだけ走っても到底行くことも
できないような、
はるか遠くの、
見知らぬ街へと
行ってしまった。
サンスーファンタジーの異世界だけではない。
僕たちの、あの眩しかった現実世界の冒険も、
ここに静かに、美しく終わりを告げたんだ。
だけど、僕たちの胸の中には、
先生が遺してくれた『冒険の続き』
という真っ白なページが、
確かに残されていた。
「先生、一年間、
一緒に冒険してくれて
本当にありがとう。」
「先生、さようなら。」
その時、僕の体に異変が起こる…
ユーチにログインの
代償が迫る…!
第4章: 正義と別れ 完/第5章へ続く
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『先生、冒険の続きを。
〜31年目のサンスーファンタジー〜』
▼ 第1章 ~ 第3章(Lv1〜Lv30)
