物語 言わぬ色の空の彼方へ②
『言わぬ色』とは古い色言葉で、“くちなしの花の色“をさす言葉です。

第二章 縹(はなだ)色の伝言は、サウダーデ(saudade)
わたしの名は、茅原(ちはら) 昊(こう)。
職業、漫画家。
三輪山の麓に住むアラフィフキャリア、“奈良の女”です。
これから語るお話。
それは、それは、遠い昔の物語と現在(いま)を結ぶ”夢解人のおつなぎ役”としてお付き合いいただければと思います。

切なさが、池のさざ波のまにまに漂っていました。
その切なさが、伝えてくるのです。
「我(あ)が名は渟名城入(ぬなきいり)、遠つ能登の国に旅立つ前に我が奉る水神に暇乞いに来ました。」
「この地に『魂・こん』を思ひ初めていきます。いつの日か夢解人の汝(な)が我をたどることがあれば、遠つ能登の地の我が『魄・はく』を訪ねてください。」
(魂魄とは鬼道(道教)のとても古い概念で、魂=こころ・魄=体という人の要素をさす言葉だそうです。)
(渟名城入・ぬなきいり?、そんな名前の人しらんけど。)
めっちゃ、焦りました。
残されていた夢の意識は、どうやら渟名城入(ぬなきり)という人の記憶の断片。

家に帰り、まずは渟名城入という名の検索から。
あ~、検索で概要がわかりました。
今から1700年ほど前の、大和王権:崇神大王という時代の出来事に遡ります。
当時の国はうち続く飢饉や疫病で、国の半数の民が失われるという大災厄に見舞われていました。
古代の祭祀は、祈りによる神々との対話で国の行く末を決めていました。
神託は、この大災厄は祀られている大和王権の祖先神天照大神と元からこの地に祀られていた地神が、宮中で一緒に祀られている祟りから来ていると占われたのです。
解決策として宮中より両神を分離し、それぞれに分けて奉斎することにしました。
奉斎する巫女姫として、崇神大王の内親王から二人が、選ばれました。
選ばれたのは、豊鋤入姫(とよすきいりひめ)と渟名城入姫(ぬなきいりひめ)でした。
豊鋤入姫とは、言わずと知れた、天照大神の伊勢神宮への遷移に導かれた姫巫女のお名前です。
豊鋤入姫の奉斎した天照大神の祖霊壇は笠縫邑に置かれました。
現在の檜原神社ですね。
しかしそれからも簡単な道のりとは、いかなかったようです。
天照大神・伊勢神宮御遷座までの遥かな旅(約90年間)は、今に語られる元伊勢伝承と共に伝説となりました。
そして豊鋤入姫の後任 倭姫が八咫の鏡を背負い、御杖代として再び元伊勢の旅に出かけるまでの33年間豊鋤入姫の奉斎がずっと続いたとしたら、それはそれで大変な日々だったと尊敬の念を抱くのみです。

わたしの個人的感解ですが、檜原神社のお社に立つとき中身のない器のような空っぽ感を感じた方はいらっしゃいませんか?
確かにご本体の天照大神様は現在伊勢に鎮座されているから、空っぽ感の説明はつくのだけれど。
つまり巫女姫たちは、ただ斎き祀るのではなく神の揺り籠のような繭を形成したのだと想像するんです。
わたしには巫女姫たちは神としての実体を、確かな感覚として捉えていた証左と理解できるのですが。
わたしにやってきたメッセージは、豊鋤入姫からではなく渟名城入姫からでした。
「うふふ、能登に来てよね」。
(簡単に、言わんといてほし‼)
ここで簡単にもう一方の渟名城入姫の当時を追ってみます。
渟名城入姫が奉斎したのは、古くからのこの地の神・大和大国魂神。
結論から言えば、渟名城入姫はこれらの神々の奉斎・慰撫に失敗しました。
大和大国魂神の御霊は現在大和神社(奈良県天理市)に祀られています。
渟名城入姫は大和大国魂神の奉斎の際に、髪は抜け落ち痩せさらばえて息も絶え絶えになったと伝えられています。
渟名城入姫が仕舞いには、【髪、coming back‼】と叫んだかは、定かではないけど。
あのさざ波の水面の夢の残欠は、任を解かれた渟名城入姫が残していったものなのでしょう。
都から遠く離れた日本海に突出した能登半島に、その後の渟名城入姫を思わせる伝承が残っています。
傷心の渟名城入姫には、療養の地が必要だったのでしょうか。
生まれ育ったまほろば・大和への郷愁、母との別離、落魄の想いなど様々な感情が織りなす切なさを胸に、姫は同母兄が待つ能登の地へと旅立だったのです。
見送る母の尾張大海媛(おわりのおおあまひめ)も、血を分けた兄の大入杵命(おおいりのきのみこと)に娘を託す想いで見送ったに違いありません。
わたしの時の旅路は、このように始まりました。
わたしの「ライフワーク」探しの旅は、成功者の足跡を追うのではなく、敗者の跡を追うことなのだと想いました。
敗者の「言わぬ色の空」とは、人生はアウトコースを狙うのも選択肢だと想いました。
何故かポルトガルのFadoという、感傷歌の旋律が私の中を駆け巡ります。
Fadoとは胸が締め付けられるような思慕の情を意味する言霊の歌だそうです。
サウダーデ(saudade)はFadoという歌に乗って、もう二度と戻らない過去や、遠く離れた人・場所への深い郷愁、切なさを意味するポルトガル語だそうです。
単なるノスタルジーにとどまらず、哀しみを伴う、複雑な感情を表すそうです。
(BG?映画みたいで変ですね、私って)
触れ合った夢の記憶の感情を音に変換すると、Fadoになっちゃった。
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