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米国はいつ、「中国は変わる」という期待を捨てたのか:対中戦略の30年

 米国と中国との競争的な関係はいつ始まったのか。米中首脳が協力を語れば競争的な関係は終わるのか。この30年の対中戦略を振り返ると、どちらも、そう単純ではないことが分かる。

 昨日は、過去20年の米中首脳会談を時系列で振り返った。

 今日は、私がそれぞれの時期に書いてきた論考を手がかりに、その背後にある米国の戦略の変化をたどりたい。重要な点は、「中国を(米国が想定する)国際秩序に『責任ある大国』として取り込んでいく」という期待が、いつ、なぜ後退していったのかである。


1.クリントン政権――中国を「米国主導型世界秩序」に取り込む

 クリントン政権の対中戦略は「関与政策」という言葉で表される。冷戦が終結し、ソ連が崩壊したあと、次の戦略的課題が中国であることは明白だったが、中国がどのような大国になるかは不透明だった。
 当時の米国では、中国を初めから敵視すると対立を自ら招くという慎重な見方に加え、中国市場への期待が併存していた。クリントン政権の関与政策は、こうした見方の中で、中国を既存の国際システムに取り込もうとするものだった。
 ただ、この当時には中国を既存の秩序に組み込んでいくという期待が強く、中国自身が秩序そのものを組み替えていくという可能性への警戒はほとんどなかった。あくまで、冷戦後の「米国主導型世界秩序」に中国を取り込んでいくイメージだったと評価できる。

関連論考:「米国の対中政策」『中国安全保障レポート2018』第2章

2.ブッシュ政権――協力と警戒を併行する「シェイプ・アンド・ヘッジ」

 ブッシュ政権下で対中政策に大きな変化が見られる。「責任あるステークホルダー論」の登場である。
 政権発足時には中国への抑止を重視する政策をとろうとしていたが、9.11テロ事件によって戦略の優先順位が対テロ戦争に変化。中国は対テロ戦争におけるパートナーとなった。そこで、「国交正常化以来最良」と呼ばれるほどに米中関係が改善した。
 その中で「責任あるステークホルダー」論が現れる。これは、単に「米国主導型世界秩序」に中国を組み込むと言うより、自由貿易や国際通貨システムの安定を含め、国際秩序の安定のために中国も応分のコストを負担する「責任ある大国」になっていくのを誘導する考え方だった。

 そして、米国はこの時期の対中戦略を「シェイプ・アンド・ヘッジ」として定式化する。「責任あるステークホルダー」に誘導していくのが「シェイプ」であり、そうならずに挑戦的な大国となる可能性に備えて抑止力を強化するのが「ヘッジ」である。
 まだこの時点では中国を将来の敵と決めつけず、協力を追求しながらも軍事的な脅威となる将来の可能性に備えると言う2面的な戦略だった。

関連論考:「21世紀の米国の国防戦略―変化と継続」(2020年)

3.オバマ政権前半――「戦略的再保証」への期待と失望

 オバマ政権では前半と後半とで対中戦略が変化する。発足当初は、中国の大国としての地位を抑え込むのでなく、積極的に認めると中国に理解させれば、中国は米国と協力して国際秩序を支えるようになるだろう「戦略的再保証」論が前面に出た。これは米中による世界の共同管理、すなわちG2的な方向への志向が顕在化したと解釈できる。

 しかし、オバマ政権が重視していた気候変動対策に中国が極めて消極的であったこと、南シナ海や東シナ海における緊張の高まり、軍備の不透明な拡大は、この期待を後退させた。そのため「戦略的再保証」論は次第に後退していく。

関連論考:「米国の『リバランス』とアジア太平洋地域の安全保障」(2012年)

4.オバマ政権後半――「アジア太平洋へのリバランス」

 オバマ政権の後半は、抑止力を重視した対中戦略への転換が進んでいく。それを明確に表したのは2012年1月に発表された国防戦略指針である。キーワードは「アジア太平洋へのリバランス」。ただこれは、対テロ戦争で脇に置かれた抑止力重視の対中戦略へ戻ったということでもある。

「米国の『リバランス』とアジア太平洋地域の安全保障」(2012年)

 ただし、競争の強化は、協力の可能性をあきらめるということではなかった。対話、同盟・地域諸国との協力による勢力均衡、規範に基づく秩序への統合を組み合わせ、中国の行動を変えようとした。サイバー攻撃による情報窃取の問題について首脳会談で迫ったりもした。しかし、地域全体での中国の高圧的行動を変えるには至らなかった。

「米国の対中政策」(2018年)

5.第一次トランプ政権――関与による中国変革への期待を放棄

 第一次トランプ政権で、対中戦略は根本的に変化する。就任一年目の2017年に策定された「国家安全保障戦略」では、中国を既存秩序に取り込めば協調的になるというこれまでの戦略的前提は間違っていたと批判した。
 さらに「国家安全保障戦略」では、これまでの米国の戦略文書に必ず含まれていた、中国が責任ある大国として台頭することは歓迎すると言う文言が消えた。一方で、中国は米国をインド太平洋から排除しようとしているとの認識が明示された。
 つまりこれは、ブッシュ政権以来の「シェイプ」の失敗を認めたことでもある。そして、「大国間競争の復活」という世界観を中心に据えて安全保障戦略・国防戦略が組み上げられていく。
関連論考:「米国の国家安全保障戦略」(2018年)

 一方、中国との協力の可能性が完全に放棄されたわけではない。2017年4月の米中首脳会談の主要な論点が北朝鮮政策であったように、「プレッシャー・キャンペーン」として軍事的圧力を強めた初期においては、中国とも協力して北朝鮮に圧力をかけることが追求された。
“How Japan Can Manage the US Alliance at a Critical Juncture”(2017年)

6.バイデン政権――競争路線の継承と、同盟を通じた具体化

 トランプ政権の「大国間競争の復活」という世界観はバイデン政権においても継承された。中国との競争を展開していくという対中戦略は超党派の支持があり、民主党政権にも引き継がれたのである。バイデン政権は就任直後に積極的に外交を展開する。オンラインでクワッド首脳会談を行い、日米及び米韓で2+2を行い、日米首脳会談につなげていった。一連の外交を通じて、同盟国との対中戦略の調整を進めたのである。

関連論考:「台湾海峡を巡る危機感の高まりと日米首脳会談」(2021年)「日本は『未来』を変えられる:『大国間競争』における当事者意識の重要性」(2021年)

今度の米中首脳会談に向けて

 ここで振り返ってきた米国の対中戦略の30年の歩みから分かるのは、中国との協力を求めることと、中国への警戒を弱めることは、必ずしも同じではないということだ。オバマ政権後半以後、対中競争を重視する政権も、個別の問題では協力を追求してきた。

 そのため、米中首脳会談で協力が語られたとしたら、そのときに問うべきなのは、「米国は何を譲ったか」だけではない。「中国の行動について、どのような期待を置いているのか」「その期待が外れた場合に、どのような備えを残しているのか」である。


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