好きな人のそばに、ずっといたことがありますか。――いちばん近くにいる人ほど、恋の相手には見えないことがある【ラブロマンス派のあなたへ】
なぜ壹真は、小春の気持ちに気づけなかったのか
――いちばん近くにいる人ほど、恋の相手には見えないことがある
好きな人のそばに、ずっといたことがありますか。
困ったときには助け、落ち込んだときには励まし、誰よりも近くでその人を見てきた。
それなのに、相手は気づいてくれない。
むしろ、いつもそばにいるからこそ、自分の思いを恋として受け止めてもらえない。
『失われた光 Lost Light』の小春も、壹真(かずま=いっしん)にとって、あまりにも近い存在でした。
だからこそ壹真は、小春の気持ちに気づけなかったのかもしれません。
壹真にとって、小春は「恋が始まる前からいた人」だった
恋は、多くの場合、出会いによって始まります。
知らない人と出会い、少しずつ相手を知り、いつの間にか特別な存在になっていく。
しかし、幼なじみには、その明確な始まりがありません。
気づいたときには、すでに隣にいる。
一緒にいることが日常になっている。
小春は壹真にとって、あらためて意識する必要のない存在でした。
大切ではなかったわけではありません。
むしろ、大切すぎたのです。
壹真にとって小春は、失う可能性を想像する必要のない人だった。
その安心が、彼女の恋心を見えなくしていました。
小春の優しさは、「いつものこと」になっていた
小春は、壹真を心配します。
無茶をすれば止め、何かに夢中になれば見守り、ときには厳しい言葉もかける。
けれど壹真は、その一つ一つを恋愛感情として受け取っていません。
小春は昔からそういう人だから。
自分たちは幼なじみだから。
壹真は、そう思っていたのでしょう。
人は、ときに、誰かから注がれている愛情を、その人の性格だと勘違いします。
優しい人だから優しくしてくれる。
面倒見のよい人だから心配してくれる。
しかし、小春が誰に対しても同じように壹真を見ていたわけではありません。
壹真だけを見ていた。
壹真だけを待っていた。
それでも、その思いは、近すぎるがゆえに見えなかったのです。
壹真の心は、別の光に引かれていた
そして壹真は、日向姫と出会います。
小春との関係が穏やかな日常の中にあったとすれば、日向姫との出会いは、世界そのものを変える出来事でした。
時代も、立場も、背負っている運命も違う。
日向姫は、壹真にとって未知の存在でした。
人は、ときに、そばにある温かな灯りより、遠くで強く輝く光に目を奪われます。
それは、近くの人を軽く見ているからではありません。
未知のものには、日常にはない激しさがあるからです。
壹真は日向姫に心を引かれながら、小春が自分をどのように見ているのかを考える余裕を失っていきました。
小春の気持ちに気づくには、失う必要があったのか
皮肉なことに、人は、いつもそばにいた人がいなくなって初めて、その存在の大きさに気づくことがあります。
壹真にとって、小春は帰ればそこにいる人でした。
けれど、時空が二人を隔てたとき、小春の存在は初めて「失うかもしれないもの」になります。
そして現代へ戻った壹真は、以前とは違う目で小春を見ることになります。
自分を待っていた人。
変わってしまった自分を、それでも見つめようとする人。
小春は、壹真がいない間も、小春自身の時間を生きていました。
壹真が小春の気持ちに気づくためには、小春を「昔からいる幼なじみ」ではなく、一人の女性として出会い直す必要があったのです。
この感情を聴くなら――「Shift – Time Fugue」
「Shift – Time Fugue」には、同じ旋律を追いながら、わずかな時間差によって重ならない二つの存在が描かれています。
壹真と小春も、同じ場所にいながら、同じ感情の時間を生きてはいませんでした。
小春が恋をしていたとき、壹真はまだそれに気づいていない。
壹真が小春の存在を見つめ直すとき、二人の間には、すでに取り戻せない時間がある。
旋律は近づく。
しかし、完全には重ならない。
そのずれこそが、二人の恋の始まりだったのかもしれません。
本編へ
壹真は、本当に小春の気持ちにまったく気づいていなかったのでしょうか。
それとも、どこかで感じながら、言葉にすることを避けていたのでしょうか。
第1話から最終話まで、小春の視線や短い言葉を追っていくと、壹真との間にある微かな距離が見えてきます。
『失われた光 Lost Light』は、時空を超える物語であると同時に、いちばん近くにいた人と、もう一度出会い直す物語でもあります。
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