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「すみません」で回っている国、日本

日本という国は、かなりの割合で「すみません」で回っている。

スーパーで誰かの前を横切る時。
すみません。

店員さんを呼ぶ時。
すみません。

道を聞く時。
すみません。

エレベーターを降りる時。
すみません。

会話に入る時。
すみません。

何なら、まだ何もしていない時ですら、先にすみませんを置いておく。

この国の人間、何かあるたびにすみませんを出してくる。
もはや謝罪ではない。
生活音である。

私はたまに思う。
日本語って「こんにちは」より「すみません」のほうが実用性高いのではないかと。

実際、すみませんは強い。
強すぎる。

謝る時に使えるのは当然として、呼びかけにも使える。
通行申請にも使える。
質問にも使える。
軽いお願いにも使える。
空気の割り込みにも使える。
「私は今からあなたの半径一メートル以内に少しだけ入りますが、敵意はありません」という宣言まで、全部これでいける。

万能すぎる。
日本語界のスイスアーミーナイフ。
いや、それ以上かもしれない。
日本人、だいたい「すみません」一本で中盤まで戦っている。

しかもおもしろいのは、別に悪いと思ってない時にも言うことだ。

レジで店員さんが
「すみません、お待たせしました」
と言う。
いや別に、そんな待ってない。

こっちが勝手に財布を出すのにもたついてるのに、向こうが
「すみません」
と言う。
いや、あなたは何も悪くない。

道で向こうがよけてくれたのに、なぜかこっちも
「すみません」
と言う。

両者ともほぼ無傷なのに、なぜか謝罪だけが飛び交っている。

なんなんだこの国は。

おそらく日本人は、謝っているというより、
すみませんで摩擦を先に殺している
のだと思う。

すみません、を置くことで、空気が少し柔らかくなる。

私は嫌なやつじゃないですよ。
ちょっと通りますよ。
ちょっと聞きますよ。
ちょっと今から割り込みますよ。
でもケンカ売ってるわけじゃないですよ。

その全部を、たった五文字で処理している。
優秀すぎるだろ!!!!!

英語の excuse me とか sorry ももちろん便利だ。
でも、日本語のすみませんはもう少しぬるっとしている。
謝罪と呼びかけと遠慮と予防線が、全部どろっと溶けて一個になっている。
便利すぎて少し怖い。

しかも日本人は、すみませんの言い方まで細かい。

本当に悪い時のすみません。
話しかける時のすみません。
通りますのすみません。
ちょっと圧のあるすみません。
店員さんモードのすみません。
酔っぱらっている人の大きいすみません。

全部違う。
もうひとつの言語である。

外国語学習で一番難しいの、文法じゃなくてこのへんでは? と思う。
「謝ってないすみません」を理解しないと、日本は少し生きづらい。
だってこの国、誰も悪くないのに全員がすみませんと言っているのだから。

でも、私はこの文化、ちょっと好きだ。

たしかに面倒くさい。
そこまで言わんでもええやん!と思う時もある。
そんなに先回りして小さくならなくても、普通に通ったらええやん!と思う時もある。
でも実際、すみませんがあると空気は丸くなる。
命令にならない。
圧にならない。
変に角が立たない。
この国の人間関係の角という角を、みんながすみませんでちょっとずつ削っている感じがある。

かなり職人技だ。

そして結局、私もめちゃくちゃ使う。

スーパーでも。
駅でも。
カフェでも。
仕事でも。
ぶつかってなくても。
まだ何もしてなくても。
気づけば口から出ている。
すみません。

もう反射である。
日本人は、「いただきます」と「すみません」をかなり身体で覚えている。
意味より先に出る。
脳を通っていない。
もうほぼ呼吸だ。

だから私は思う。
日本社会って、法律とか制度とか経済とか、もちろんいろんなもので支えられているのだろうけど、現場レベルではかなりすみませんで持ちこたえているのではないかと。

満員電車も。
レジ待ちも。
狭い通路も。
店員呼びも。
会話の割り込みも。
全部これでなんとかしている。
雑に言えば、日本の平和の3割くらいはすみませんが担っている。

ぶつかってないのに謝る。
悪くないのに謝る。
頼む前にも謝る。
聞く前にも謝る。
通るだけでも謝る。
この国の人間、ちょっと謝りすぎである。

でも、その謝りすぎの中に、やさしさと過剰さと面倒くささと気遣いが全部入っている。
日本っぽいなと思う。
だいぶ変だが、かなり日本だ。

「すみません」だけで回っている国、日本。
大げさではなく、わりと本当にそうだと思う。
そして今日もまた、誰もそこまで悪くないのに、どこかで誰かがちゃんとすみませんと言っている。
この国、謝罪でできているというより、遠慮の潤滑油でできている。

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