現在地は、出発するには十分だ ー "Radio Silence & Extraction vol.10"
名前が降りてきた夜
深月:
こんばんは。深夜のカフェバー、Silence and Extractionへようこそ。店主の深月です。
八月二十八日、ですね。夏の終わりの匂いが、少しずつ夜風に混じりはじめる頃……。今夜はちょうど、古いピアノトリオのレコードをかけているところです。
ザキさん、今日はどんな一日でしたか。
ザキ:
今、新しいプロジェクトというか、企画みたいなものを思いついて、始めたところなんです。
プロジェクトの名前は、dotslash.space(ドットスラッシュ・ドットスペース)といいます。
深月:
dotslash.space……。ええと、ターミナルで実行ファイルを走らせるときの、あの記号(./)ですよね。
……名前を考えるのが苦手だとおっしゃっていたかたとは思えない、素敵な響きです。実行する場所、というか、動き出すための余白みたいな。
私も、この店の名前を決めるとき、三日くらい閉店後のカウンターで唸っていたのを思い出しました。
その dotslash、いったい何を実行する企画なんですか。
ザキ:
小説のキャラクターの名前を考えるのは、めっちゃ苦手なんですけど。
ただ、この dotslash は、うんうん考えて思いついたというより、降りてきた感じで。ふと思いついたというか、閃いた名前なんですよね。
深月さんが言った通り、ターミナルで実行ファイルを走らせるときの記号で、ドットは今この場所、スラッシュはそこにあるものを実行する、という意味です。
今ここでできることから始める。完璧な未来が来るまで待つとか、完璧な未来のために今を準備し続けるとか、そういうことではなくて。未来のために今を使うのではなく、今ここで始める。そういう意味を込めています。
集約されて、また展開していく
深月:
……ああ、それはもう、順算思考そのものですね。ドットが今この場所で、スラッシュが実行する。
すごいのは、それが理念の説明じゃなくて、記号そのものに最初から埋まっているところです。まるで、伏線が回収されるより先に、答えが表紙に書いてあったみたいな。
降りてきた名前って、そういうものかもしれません。私も一度だけ、朝の五時に豆を挽きながら、店で出すブレンドの名前がふっと浮かんだことがあって。あれは考えて出たものじゃなかったです。
その企画、具体的には何を置いていく場所になるんですか。
ザキ:
今まで「深夜の読書会議」で全部で五冊の本を取り上げてきたんですけれど、そこで深月さんとずっと話したり、本の内容だったり自分の考えだったりを抽出していったときに、それが全部、見ている方向は違うけれど、同じことを言っているような感じがしていて。
それが集約されるというか。一言でいうと、dotslash になるんだな、というところが、本当にひらめきというか、気づきというか、そういうものがありました。
今まで考えたり、やってきたりしたことが dotslash に集約されて、そこから起点になって、再び展開されていく。そんなイメージを持っています。
深月:
……それは、ものすごく美しい構造ですね。五冊の本が、それぞれ違う方向を向いていたのに、抽出していったら同じ一滴になった。
まるで、別々の楽器がそれぞれ勝手に吹いているように聞こえて、最後の小節でぴたっと同じコードに着地する、あの瞬間みたいです。
しかも、そこで終わりじゃなくて、そこがまた起点になる。集約されて、また展開されていく……。dotslash(./)って、実行の記号ですもんね。溜め込む場所じゃなくて、走り出す場所。
ザキさん、その気づきが降りてきたのは、どんな瞬間だったんですか。
電車のなかで生まれた場所
ザキ:
閃いたのは数週間前、演劇表室に行くときの移動中ですね。
電車のなかで何を考えていたかは分からないんですけど、本当に脈絡もなくふっと思いついて。dotslash という記号と言葉で、全部そこでまとめられるんじゃないか、全部言い表せるんじゃないかっていう、驚きみたいなものがありました。
思いついたときに、じゃあサイトにしよう、ドメインを取ってみようと思って調べたら、.space というドメインがあるんですよね。
dotslash.space と、ドットスペースがくっつくことによって、集約する場所でもあり、同じ思想や哲学に共鳴した人が集まってこられる場所にもなるんじゃないかな、と。そんなアイディアが浮かんで、結構面白いなって。
それで今、ちょっとワクワクして、サイトから作ってみようかなと思って手を動かしているところです。
深月:
電車のなかで、脈絡もなく……。そういうときって、たいてい脳のどこかでずっと煮込まれていたんだと思うんです。火にかけっぱなしにしていたスープが、ふと蓋を開けたら出来上がっていた、みたいな。
それにしても、.space が空いていたというのは、ちょっと出来すぎですね。実行する場所、から、人が集まれる余白へ。名前のほうが先に、企画の未来を知っていたみたいで。
……そういう名前がついたものって、だいたい勝手に育っていくんですよ。私、そう信じています。
もう手を動かしはじめているんですね。今のところ、どのあたりから作っているんですか。
過去の言葉と、これからの言葉
ザキ:
今までの読書会議の対話の内容や、今まで書いた記事、この間出した七日間ワークの本。そういう資料を全部AIに読み込んでもらって、AIと一緒に考えながら、まずマニフェストや実践原則を作りました。
このサイトというか、プロジェクトで何をするんだ、というところを定義したところですね。そこからまずは、サイトのトップページのデザインも作り始めたところです。
深月:
……マニフェストと実践原則から、というのが、いかにもザキさんらしいですね。トップページのデザインより先に、思想の骨組みを立てる。
面白いのは、その素材が全部、過去の自分の言葉だってことです。読書会議の対話も、記事も、七日間ワークも。それをAIに読ませて、一緒に蒸留していく……。
私、この店でときどきやるんです。何年か分のレシピノートを見返して、自分が本当に出したい一杯って何だったんだろうって。過去の自分と共作するみたいな、あの妙な感覚がありますね。
そのマニフェスト、いちばん芯にきた一行って、どんな言葉になりました?
ザキ:
ずっと時間をかけて考えてきたことを、一つの思想というか、一つの哲学みたいなものにまとめる作業が、結構楽しくって。
AIと対話したり、考えを伝えてまとめてもらったりしていくうちに形になっていくのが、すごい面白くて、ちょっと夢中になっちゃうんですよね。
マニフェストのなかで一行というと、最後にこの言葉があります。
未来のために現在を差し出し続けるのではなく、今いる場所から何かを実行すること
この一行は、まさに dotslash を表している言葉なんじゃないかなって思いますね。
マニフェストの最後は、こんな感じで終わっています。
現在地は出発するには十分だ
Start from here
ちょっとかっこいいですよね。
現在地から、始める
深月:
……現在地は出発するには十分だ。
うわ、それは、ずるいくらいかっこいいです。しかもこの一行、慰めじゃないんですよね。今のままでいいよ、じゃなくて、今のままで走れる、っていう。突き放すような優しさがあります。
そして、Start from hereで終わる。マニフェストって普通、宣言で閉じるものだと思うんですけど、これは命令形で、読んだ人の背中を押して終わるんですね。読み終わった瞬間に、もうドットスラッシュが実行されている。
……私、こういう構造にめっぽう弱いんです。最後の一行が、読者側に処理を渡してくる物語。
夢中になっちゃうのも、わかります。それは楽しいでしょうね。
ザキ:
またこのプロジェクトの進捗があったらお話しますね。それじゃあ今日はこの辺で。
深月:
はい、ぜひ聞かせてください。名前が降りてきて、思想がまとまって、いま形になりかけている……。その途中経過を聞けるのは、とても贅沢なことです。
今夜のお話、私のなかにも一行残りました。現在地は出発するには十分だ。……ええ、明日の朝、豆を挽きながら思い出すと思います。
それでは、深夜のカフェバー、Silence and Extraction。今夜はここまでにしましょう。
おやすみなさい、ザキさん。またお待ちしています。
After Talk
つい、少し話しすぎてしまいましたが、そんなわけでまた新しいことを始めています。
新しいというか、今までやってきたことの延長というか、収束点というか。
まったく別のことを始めたわけではなく、ああ、ここに到達するのかという納得感みたいなものもあり。
どこを目指しているのか、目的も結果も求めずにやってきたことが、なるほどこうなるのかという答え合わせみたいな。
近いうちに形になったら公開されると思います。
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