言葉と思考の解像度―『頭のいい人が話す前に考えていること』を読む(9)
はじめに
安達裕哉『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社、2023)の読書考察の9回目です。
第2部「一気に頭のいい人になる思考の深め方」に入って2回目、第1章「まずは、馬鹿な話し方をやめる」の客観視の思考法②「言葉に敏感たれ」を見ていきます。
筆者は禅にも関心があるため、その視点からも検討していきます。
言葉の意味の違い
「お客さんの問題解決を手伝うのが、コンサルタントの仕事ですよね?」
著者は新人の頃、上司にこう尋ねて呆れられたといいます。
コンサルの現場では「認識のブレがない言葉を使え」と厳しく指導され、辞書の携帯も義務だったそうです。この習慣はいまも役立っています。
先輩や上司だけでなく、クライアント先の優秀な人も、言葉の意味に非常に敏感でした。
たとえば「コミュニケーション」。
「コミュニケーションを増やそう」と言われたとき、出社回数を増やす人もいれば、メールやチャットを思い浮かべる人もいます。
同じ言葉でも人によって認識が違うため、齟齬の原因になることがあります。
頭のいい人は「この言葉を使ったら相手はどう受け取るか」を想像して話します。
つまり、“ちゃんと考えてから話す”とは、相手の受け取り方を想像し、誤解をできるだけ小さくすることなのです。
横文字に潜む落とし穴
横文字――外来語は特に注意が必要です。意味を理解せずに使うと、誤解を生むことがあります。
例として「ディスカッション」を挙げます。
「えー、今日のディスカッションのテーマは、他社とのコラボレーションにおけるバリューの出し方です。リスクとリターンをバランスさせて判断したいと思います。」
これでは議論というより、アイデア出しの場のように聞こえます。
また、「コラボレーション」「リスク」「バランス」と横文字が重なり、抽象的・多義的になりやすい。聞く側には理解が難しく、知識を示そうとする意図が逆に伝わらないこともあります。
「問題」と「課題」の違い
冒頭の「お客さんの問題解決を手伝う」の「問題」も注意が必要です。
「問題」とは、人間関係や趣味、生活の煩わしい事柄も含む広い意味の言葉。
一方、「課題」とすれば、解決すべき対象に限定されます。
仕事では、不具合が発生した時点では「問題」、対策が決まれば「課題」と整理できます。
言葉の使い分けが思考や行動の質を左右するのです。
顧客とクライアント
「顧客」と「クライアント」は同じではありません。
著者のいたコンサル会社では「クライアント」と呼ぶと徹底していたそうです。組織ごとの言葉遣いには理由があり、理解することが重要です。
違いが分かる人は、頭のいい人と言えます。
思考の解像度を上げる
「管理」という言葉を掘り下げる
著者の組織で重視されていたのが「管理」の定義です。
「管理」といえば、予算管理、人事管理、売上管理、生産管理、進捗管理、在庫管理、スケジュール管理、品質管理…。
プライベートでも健康管理、食事管理、体重管理と幅広く使えます。
狭義では「管理」は「コントロール」を指しますが、広義では「マネジメント」も含まれます。
ドラッカーは「組織をして成果を上げさせるための道具、機能、機関」と定義しました。
この視点で考えると、スケジュール管理は単なる行動の記録ではなく、手順や時間の使い方、改善も含めて検討すべきものとなります。
言葉の定義を掘り下げることは、“思考の解像度を上げる”ことです。
古いデジカメと最新スマホの写真がまるで違うように、解像度が上がれば伝わり方も鮮明になります。
“なんとなく考える”から“ちゃんと考える”へ。
そのために、言葉の定義を明確にすることが欠かせません。
禅的な視点からの考察
禅の言葉に「照顧脚下(脚下を照顧せよ)」があります。
足元を見よ、とは日常の些事をおろそかにせず、現実を直視せよという教えです。
本書の「言葉に敏感であれ」は、この照顧脚下の実践に通じます。
言葉を曖昧に使えば、認識の齟齬が「問題」として残ります。しかし定義を掘り下げ「課題」とすれば、それは取り組むべき修行の場となります。
「日々是好日」とあるように、日常の一言一句が修行の契機です。
また禅は「不立文字」といって、言葉にとらわれることを戒めますが、同時に「直指人心」と説き、人の心をまっすぐに指し示そうとします。
言葉を尽くしてなお、その背後にある心の響きを伝えるのです。
だからこそ、横文字や抽象語に頼らず、一字一句を誠実に選ぶことが大切です。
言葉に敏感であるとは、単に賢く見せる技術ではなく、よく伝わり、相手の心を動かすための実践であり、それ自体が智慧の道なのです。
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