【小説】前編:底辺Vtuberのあすかさんは、僕の部屋で甘えたい
神代あすかはクラスの華だ。
誰もが彼女に憧れる。
だが、
僕を見る彼女の目はいつも冷たい。
ゴミを見るようだ。
理由はわかっている。
僕が冴えない陰キャだからだ。
接点などないはずだった。
あの放課後を迎えるまでは。
♢
夕暮れの教室に忘れ物を取りに戻った。
そこに彼女がいた。
あすかは机に突っ伏して泣いていた。
スマホを握りしめている。
画面には配信画面。
視聴者はわずか3人。
コメントはゼロ。
彼女の裏の顔。
それは底辺Vtuber「あすか」だった。
「見ないで!」彼女は叫んだ。
激しい拒絶の言葉。
だが、
僕は逃げなかった。
彼女の夢を笑う気は微塵もない。
むしろ、
胸が激しく震えた。
少女の純粋な願いに触れた。
「手伝わせてほしい。君を最高のステージへ連れていく」
あすかは鼻で笑った。
あんたなんかに何ができる、と。
♢
僕は徹夜でレポートを書いた。
Vtuber市場の分析書だ。
現在のトレンド。
伸びている企画。
彼女の強みと弱み。
翌朝、
それを彼女に差し出した。
文字が詰まった10枚の紙。
彼女は怪訝そうに受け取った。
一読して、
彼女の顔色が変わる。
「これ、あんたが全部考えたの?」
驚きを隠せない声。
僕は頷いた。
彼女のキャラクターデザインは素晴らしい。
足りないのは、
初見のリスナーを惹きつける企画力だ。
「まずは切り抜き動画の量産だ。僕が編集を担当する」
彼女は渋々承諾した。
こうして二人の秘密の計画が始まった。
♢
放課後は僕の部屋が作戦本部になった。
毎日が分析の連続だ。
あすかの声のトーン。
笑い方の癖。
魅力を引き出す台本。
僕はあすかの夢を叶える。
それが僕の生きがいになった。
彼女が笑えば、
僕の世界が輝く。
ただそれだけで良かった。
あすかの態度が少しだけ軟化した。
舌打ちの回数が減った。
「まぁ、作業は早いみたいね」
不器用な褒め言葉が嬉しい。
最初の切り抜き動画を投稿した。
SNSの動向を注視する。
数時間後、
小さな奇跡が起きた。
再生数が急上昇を始める。
「嘘、1万再生!?」
あすかが目を見開いて僕を見た。
「まだ一歩目だ。次は生配信の同接を伸ばそう」
僕は淡々と次の一手を提案した。
感情を排して、冷静に。
あすかは僕の横顔をじっと見つめていた。
今までと違う視線。
冷徹な拒絶から、
微かな好奇心へ。
関係が動き始めていた。
あすかは毎日、
僕の部屋へ通うようになった。
学校では相変わらず他人の振りをしている。
だけど二人きりの空間では、
少しずつ素の表情を見せた。
「今日の学校、退屈だったな」
そんな愚痴も零す。
僕は彼女の言葉を静かに聞いた。
そして作業を続ける。
動画のサムネイルを修正する。
タイトルの文言を練る。
彼女の魅力を一秒でも多く、
世界に伝えるために。
「あんたって、本当に私のことしか考えてないのね」
あすかがぽつりと言った。
どこか呆れたような声。
「君の夢が、今の僕のすべてだから」
僕は真面目に返した。
彼女はふいっぽっぽと顔を背けた。
耳が少し赤い。
「変な奴」
彼女の呟きは、
もう冷たくはなかった。
配信の同接数は確実に増えていった。
30人、50人。
あすかの声に自信が宿る。
トークのキレも増していく。
「リスナーが喜んでくれるの、すごく嬉しい」
画面を見つめる彼女の瞳は、
まるで星のように輝いていた。
その輝きを守るためなら、
僕はいくらでも徹夜できた。
データ分析。
競合の調査。
ウケるトレンドの把握。
あすかの魅力を引き出すためのアイデアをノートに書き留める。
彼女は僕のノートを覗き込み、
感心したように息を吐いた。
「ここまでしてくれる人、初めて」
彼女の声が震える。
「僕はただ、君の最初のファンなだけさ」
あすかは僕をじっと見つめた。
その瞳に、
もう侮蔑はない。
そこにあるのは、
確かな信頼と、
名前のつかない熱だった。
一歩ずつ、
僕たちは階段を上っている。
あすかという大輪の花を、
世界に咲かせるために。
僕の地味な日常は、
彼女の夢という色彩で満たされていく。
冷たかった彼女の心が、
少しずつ溶けていくのを感じながら。

つづく
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