AIは詩が下手?AIが特に苦手なのは、書くことより、書かないこと。
ユーモアや皮肉には、比較的はっきりした構造があります。「予想を作る→裏切る」「建前を示す→本音との矛盾を暴く」。AIは大量の文例から、この型をよく学習しています。
一方、詩は型だけでは成立しません。優れた詩にはしばしば、
なぜその言葉でなければならないのか
なぜそこで切れるのか
書き手が何を見て、何を見落としたのか
説明せずに残された沈黙
があります。
AIは意味を伝えようとしすぎます。すると「月」「孤独」「記憶」「光」「心」「永遠」など、詩で頻出する安全な言葉を選び、比喩を整え、最後に余韻らしい一文を置く。破綻はないが、どこかで読んだような文章になります。
さらにAIには、身体を持って偶然に何かを見た経験がありません。「病室の時計が三分遅れていた」「怒って帰った人の湯飲みだけが温かい」といった細部を、実体験の重みから選ぶことができない。そのため、具体物を与えられなければ抽象語へ逃げやすいのです。
ただし、人間も「美しい詩を書こう」とすると同じ失敗をします。AIの弱点が目立つのは、AIが人間の凡庸な詩の癖を非常に忠実に拡大するからでしょう。
だからAIに詩を書かせるなら、「悲しい詩を書いて」より、
病院から戻った台所。姉の湯飲みは捨てない。
「悲しい」「愛」「心」「記憶」は使わない。
結論を言わず、八行で終える。
のように、具体物と禁止事項を渡した方がよくなります。それでも最後の一語を残すか削るかという判断は、今のところ人間のほうが強い。
ユーモアは矛盾を見つければ成立します。詩は、数ある沈黙の中から、どの沈黙を残すかを決めなければならない。AIが特に苦手なのは、書くことより、書かないことです。
簡単に言えば、AIは「笑わせる仕組み」は理解しやすいが、「なぜその一語だけが胸に残るのか」は理解しにくいからです。
たとえば、ユーモアには分かりやすい型があります。
健太は節約を始めた。
まず、家計簿をつけるために月額980円のアプリを契約した。
「節約するはずなのに、節約のために課金している」という矛盾が笑いになります。皮肉も同じです。
会社から怒鳴り声は消えた。
全員がAIを通して、丁寧に責任を押しつけるようになった。
「言葉遣いは改善したが、人間関係は改善していない」という落差があります。AIはこのような、前半と後半の矛盾を組み立てるのが得意です。
ところが「悲しい詩を書いて」と頼むと、AIは次のような文章を作りがちです。
月明かりの下で
私は失われた記憶を抱きしめる
届かない声は風になり
孤独な心を通り過ぎていく
意味は分かりますし、見た目も詩らしい。しかし「月」「記憶」「風」「孤独」「心」は、悲しい詩で何度も使われてきた言葉です。この人物にしか書けないものがありません。誰の、いつの、どんな悲しみなのかが見えないのです。
同じ悲しみでも、具体物を使うと変わります。
二人分の味噌汁を作ってから
一つの椀を戸棚へ戻した
鍋には
豆腐が一切れ余っている
ここには「悲しい」「孤独」「喪失」という言葉がありません。それでも、一人がいなくなったことが伝わります。読者は説明されたのではなく、椀と豆腐から自分で気づきます。この「読者に気づかせる余白」が詩には重要です。
AIは親切に説明しようとするため、さらに一行足してしまいます。
豆腐が一切れ余っている
それは、あなたを失った私の孤独だった
最後の一行で意味は明確になりますが、詩としては弱くなります。豆腐がすでに語っていることを、作者がもう一度解説してしまうからです。これが、先ほど言った**「AIは書かないことが苦手」**の具体例です。
また、人間は実際の体験から、妙に細かいものを覚えています。
葬儀の日に自動販売機から出てきた、ぬるい缶コーヒー
退院した人のベッドに残った、四角いへこみ
けんかのあとも、相手の歯ブラシを捨てられないこと
亡くなった人宛てに届いた、ポイント期限のお知らせ
こうした細部は、美しいとは限りません。しかし、だからこそ本当らしい。人間は「重要だから覚えている」のではなく、理由もなく残ってしまった光景を書くことができます。
AIには、そのような個人的記憶がありません。そこで「悲しみなら月」「別れなら夕暮れ」「希望なら光」と、過去の作品で使われやすかった組み合わせを選びます。間違いではありませんが、平均的で、きれいにまとまりすぎます。
つまり、
ユーモアや皮肉は、矛盾や落差を設計する技術
詩は、具体物を選び、説明を削り、読者に意味を渡す技術
です。
ただし、これは「AIには詩が書けない」という意味ではありません。人間が具体的な材料を渡し、AIが余計な説明を足さないよう制限すれば、かなり良くなります。
たとえば、
長く入院していた人が退院したあとの病室を八行で書く。
「悲しい・寂しい・心・記憶・光・希望」は使わない。
ベッド、紙コップ、時計だけを出す。
人物の感情を説明しない。
最後に意味をまとめない。
このように頼めば、AIの「詩らしい抽象語」を抑えられます。
AIの詩が下手に見える最大の理由は、感情がないことだけではありません。読者がすでに気づいたことを、念のためもう一度説明してしまうことです。詩では、その親切がしばしば野暮になります。
