RE:birthをラズパイで動かす
前回記事で触れたFM音源の実機環境が無事完成しました。
このボード(RE:birth)は登場から結構な年数が経っていますが、何故かオープンな情報が少なく、特に配線と電源周りで試行錯誤が必要でした。
そこで、本書では実際にどのように組み立てたのかをなるべく分かりやすく、電子工作初心者でも頑張れば再現可能な形で解説してみます。
なお、このボードは通常SCCI2というインタフェースで接続して使用することを想定しているものと思われますが、本書ではSCCI2を使わずRaspberryPi Picoを使って制御する方法を解説します。
RE:birthを組み立てる
家電のケンちゃんから届いたRE:birth基板(RE1-YM2612/YM3438)がコチラ。

抵抗、コンデンサなどの各種部品を自分でハンダ付けする必要があります。

コンデンサ類の部品が立体的なので、ハンダ付けする際はスペーサーを使うと作業しやすいです。(※スペーサーはRE1には付属していません)
部品表が同梱されていて、それに書かれている通りに実装すれば良いだけなので、電子工作としては初心者向けの簡単な部類です。
私は若干色弱気味なので、抵抗の種類を目視で区別するのが難しいのですが、そういう場合はテスターで付属の抵抗が何Ωかを測ることで間違い無く作業することができます。
実装上の注意点
この基板はYM2612とYM3438(YM2612のCMOS版)の両方に対応していて、ICチップにどちらを使うかによって実装すべき抵抗が異なる点に注意する必要があります。(一敗)
YM2612を使用する場合の注意点:
・R2 / R3 を実装する必要がある
・R11 / R12 の抵抗値が異なる
これを誤ると正しく音が出ない可能性があります。
実際、私はYM2612を使うのに誤ってYM3438の抵抗を実装してしまったため、後から抵抗をつけ直しました😅

はんだで実装してしまった抵抗を外すのが若干大変かもしれません。
具体的には、
はんだ吸い取り線で外す抵抗のはんだを吸いながらピンを押し下げる
ピンセットで外す(少し浮いた)抵抗を引っ張りながらハンダゴテで裏のスルーホールを温める
という手順で外せます。
なお、2の手順は両足同時ではなく片足づつだと簡単です。
ちなみに、片足づつ外すと抵抗の足がお相撲さんが四股を踏むような形になるので、私はこの外し方を「どすこい式」と呼んでいます。
(※正式名称は不明)

抵抗は目視で抵抗値(Ω数)を判断することが困難なため、間違えて実装することがとても多い部品です。
そのため、電子工作をすると抵抗で四股を踏む経験値があがりやすいです。
ただし、部品の取り外しは、取り付け時とは比較にならないレベルで基板にダメージを与えてしまうので、可能な限りリワークはしない方が良いです。
そうならないように、最初から注意深く部品表を読みましょう…
制御ボード(RaspberryPi Pico)
RE:birthはSCCI2という規格の別ボード(SPFM)を接続して制御することを想定しているようです。
しかし、SPFMはお値段が結構高いです。(1万円ぐらい)
コスト面の問題だけでなく、そもそもSCCI2のAPIがWindowsしか対応しておらず、UNIX系やLinux系のPCをメインで使っている私にとっては扱い難いという事情もあります。(一応Windows PCも持っていますが…)
そこで、SPFMを使わず RaspberryPi Pico から YM2612 のレジスタをGPIO経由で直接制御することで、SPFM相当の動作を実現することにしました。
RE:birthは、複数の音源ボードを接続することを想定して一部のポートが抽象化されている点を除けばFM音源のポート仕様と大差がなくシンプルなので、RaspberryPi Picoで自前のファームウェアで実装した方が手っ取り早いです。
一昔前なら「RaspberryPi Picoで自前のファームウェアを実装」のハードルが高かったかもしれませんが、生成AIのコーディングエージェントを使えば、プログラミング知識ゼロでも自前のファームウェアを実装することができます。(私も今回はCodexを用いたバイブコーディングでファームウェアを実装しました)
利用するPico基板
私は YD-RP2040 というPico互換基板を使っています。
(2023年ごろ1個200円前後で調達済み)

理由は次の通りです。
基板にピンアサインが書かれている(誤配線が起こり難い)
ピンアサインは本家と完全互換
GPIO25にLEDが実装されている(ファームの生存チェックに有用)
USB Type-C対応(本家はType-B)
フラッシュメモリサイズが大きい(YD: 4〜16MB, 本家: 2MB)
本家の利点は調達難度が低い点ぐらいです。
そして、YD-RP2040とRE1を接続したのが下図です。

Pico用のファームウェアは以下のリポジトリで無償公開しているので、ご自由にお使いください。
https://github.com/suzukiplan/re1-ym2612-pico/
生成AIを用いて独自ファームウェアを実装する場合でも、完全にゼロからバイブコーディングするよりも、上記リポジトリをベースにバイブコーディングした方が間違いが起こり難いと思われます。
電源の実装
Picoから3.3Vを別の機器に給電することができますが、RE1には5Vを給電しなければならないため、Picoからでは電圧不足で給電できません。
そこで、コンセントに接続したUSBケーブルからPicoとRE1へ5Vを給電する方式を採用しました。

(V/Gのみ使用)
USBは通信をしようとすると手続きがかなり面倒ですが、電源の用途ではものすごくシンプルに使うことができ、コンセントに接続すれば V(VBUS)とG(Ground)から安定的な5Vを給電することができます。
なお、ブレッドボード上では電圧が安定しないことがあるので、VとGの間に0.1uFの積層セラミックコンデンサーを挿す(デカップリングする)と良いです。

デカップリングをすることで、電圧の揺らぎによるノイズや誤動作を防ぐことができます。
通常の電子機器では対応する電圧レンジに遊びがあるため、あまり神経質にならなくても良いのですが、アナログ波形は電圧の揺らぎが音質に影響しやすいため、特にAVCC/AGND(アナログ電源)はデカップリングしておいた方が無難だと思われます。
イヤフォンで聴けるようにする
RE1の右側に LINE OUT のピンが出ているので、そのピンと秋月電子などで購入できる3.5mmステレオミニジャック基板を接続することでイヤフォンで音を確認(ディスプレイ)することができます。

ただし、これは飽くまでも「テスト用」です。
音質が良い状態で取り込みたい場合はRCAケーブル(オス-オス)を使うのがベストです。
RCAケーブル(オス-オス)はハードオフのジャンクコーナーに置いてあり、1組110円ぐらいで購入することができます。
RCAケーブルの使い方
※メーカーが推奨する正式な使い方ではありません
(電子工作をする場合の使い方です)
まずは、ニッパーでRCAケーブルを半分に切断します。

そして、ケーブルの被覆線を剥くと「もう一つの被覆線」と「エナメル線」が出てきます。
もう一つの被覆線 = この中が L(白)/R(赤) の信号線
外側のエナメル線 = グラウンド

RCAケーブルのL/R(信号線)とG(グラウンド)をRE1へ繋げば、RCAケーブルを接続できる録音機器(MTRやUSBインタフェースなど)でFM音源の音を録音することができます。
3.5mmジャックを経由する場合と比較して信号劣化が少なくなるため、音質が良くなります。
完成音源の比較
VGS-XのFM音源エミュレータとRE1で同じ楽曲(Battle Hanafudaのメインテーマ)を再生して比較してみました。
実機との波形特性を比較してみた結果、VGS-XのFM音源エミュレータ(内部的にはymfm)で改善すべき点が結構多く見つかりました。
以下、エミュレータの音を実機の波形特性に寄せてみた改善版です。
改善版でも、動画の「実機の音」と完全一致しているわけではありません。
ただし、この差は単純な再現精度の問題だけではありません。
要するに、
・実機の音質は録音環境にも強く依存する
・エミュレータの音質は再生環境にのみ依存する
という構造的な違いがあります。
例えば、低音の鳴り方については、私の環境では実機よりもエミュレータの方が美しく聞こえます。これは主観による部分もありますが、主観を排除しても「実機は機器依存が大きい」という特性によるものと考えられます。
実際、音響のプロが使うスタジオ環境であれば、実機でもエミュレータに匹敵する品質の音を鳴らすことが可能です。ケーブルやオペアンプなど、アナログ経路の品質によって音のクオリティは大きく変わります。
一方で、エミュレーションではアナログ環境の影響をほぼ受けません。そのため音質は、イヤホンやスピーカー、サウンドボードといった再生環境だけで決まる世界になります。
つまり、エミュレータを使うことで「録音環境」という要素を排除することができます。
もちろん、実機再生にはロマンがあります。
RE:birthで自分の曲が鳴ったときの体験は、やはり特別なものでした。
ただし私の場合は、自作エミュレータの精度を向上させるために実機の波形特性を分析する、という実用的な目的でこの環境を構築しています。ロマンや郷愁は、その副産物に過ぎません。
とはいえ、そうしたロマンこそが多くの人を動かす要素であることも理解しています。
「FM音源に興味はあるが、RE:birthは敷居が高い」と感じている方にとって、本記事が参考になれば幸いです。
