美術館にこぼれた…異世界の魔物たち
その日、ウサギたちは、
秋の風に舞う落ち葉のように、スピリチュアルな空間を彷徨っていた。
空調がふと止まり、空気がよどむ。
音のない静けさから、なにかが“ざわり”とこぼれ落ちる。客は消え、扉は閉じ、作品だけが微光を帯びた。
「……閉じ込められた?」
オクトラが野菜銃に目を細める。
「この構造なら、栄養素をエネルギーに変換すれば、結界の分子構造ぐらい壊せるはず。
理論上はね。知らんけど……」

「そんなのかんたーん♪」
シュリリイが、
ポケットからピンクの飴玉を取り出す。
「いくよっ? 飴玉うっちゃえ〜っ!
全戦力とうにゅうっ!進め〜! へいたーい♡キャンディー・ストーム発動〜っ!」
シュリリイが黄色い声で鼓舞するが、
壁を這う白い兵士たちは、銃を構えたまま震えて動けない。

クラリスはピンクの寝台に手を置いた。
「このベッドに身をゆだねれば、夢の向こうに行ける……。
でもね、わたしの夢はいつも──薔薇の香りの腕の中から始まるの。
……もう、言葉にならないわ」

そのとき──
ウサギが天井に目を向けた。
「見て! 回転灯が脱出のリズムよ!
ほらほら、ぐずぐずしない!
シュリリイ、飴玉しまって。食べるのは帰ってからよ」

出口へ急ぐウサギの前に、
巨大な脳の怪物が立ちはだかった。
脈打つ神経が稲光のように閃き、世界全体が震え始める。
「無駄だ。ここに囚われた者は、
誰ひとり帰れぬ。すべての思考、すべての夢は、今ここでわたしの記憶に沈む……」
その声は低く、重く、
まるで大聖堂の鐘のように頭の奥に響く。
「なにあれ……脳の怪物? 一秒でムリ。
さ、逃げるわよ、みんな!」
四人は迷うことなく自転車にまたがった。
ひとつ、ふたつ、呼吸を合わせ、同じリズムでペダルを踏み出す。輪はまばゆい光の矢に変わり、一気に空気を貫いた。

現実に戻った美術館は、
何事もなかったように静かだった。
けれど、光の直線を走り抜けた足は、まだかすかに震えている。
ウサギは会場の真ん中に鎮座する、黄金色に光る脳に、そっと視線を向けた。
(あなたね……
わたしたちを閉じ込めたのは。
ほんと、イタズラ好きなんだから……。
でも、嫌いじゃないわ。ふふっ♡)
その微笑みと沈黙のあいだで、
世界はまだ小さくざわめいていた。

