嘘と本とピアノ|掌編小説(#シロクマ文芸部)
――文芸部。
もし高校の時にそんな部があったなら、僕はもしかしたら入部していたかもしれない。いや、小学三年から吹奏楽をやっていて、学校なんて吹奏楽のために通っていたようなものなので、やっぱり吹奏楽部に入っていただろう。
中学一年になると同時に小説を読み始めた僕は、すっかり本の虫になった。
――文字だけの本なんて、一体何が面白いのか。
そう思っていたが、読んでみると漫画とは違った面白さがある。とは言っても、僕が読んでいたのは、読みやすいファンタジー小説ばかりだ。
高校二年の時、僕はクラス替えで一緒になった、ある女子が気になっていた。窓際の席の、髪はいわゆるボブで、休み時間になるといつも本を読んでいる、目立たない子だった。
ある時、僕は思い切ってその子に「何読んでるの?」と声をかけた。今さらながら、ずいぶんと思い切ったことをしたな、と思う。
その子――篠山さんは顔を上げ、ニコッと笑って本にしおりを挟み、僕に「はい」と差し出した。渡された本は、僕がいつも読んでいる文庫本より大きく、ずっしりと重く、心の中で「え? なんか違う」と呟いた。
その本は、高村薫の「マークスの山」だった。第109回直木賞を受賞した長編推理小説である。「ロードス島戦記」や「スレイヤーズ!」、「フォーチュンクエスト」などのファンタジー小説しか読んでいなかった僕は、もちろん高村薫なんて作家は知らないし、直木賞というものの存在も知らない。しかし、僕は「あー、高村薫ね。おー、なるほど」みたいな感じで必死に会話を続けようとした。普通ならすぐバレそうなものだが、よくごまかせたと思う。
昼休み、僕は大急ぎで図書室に行き、「た」の棚を見ると、高村薫の本がたくさん置いてあり、「マークスの山」もちゃんとあった。手に取ってあらすじと最初の数ページを読み、「うわぁ……難しそう」と絶望的な気分になったのを覚えている。
そのあと、篠山さんから「トガシ君は、いつも何読んでるの?」と聞かれ、咄嗟に「浅田次郎」と答えた。図書室の「あ」の棚にあった作家である。
「ええ! 浅田次郎読んでるんだ!」
篠山さんのそんな言葉を聞き、もう引き返せないと思った僕は図書室と近所の図書館で、高村薫と浅田次郎の本を借りて読みまくった。この時、僕を突き動かしたのは「嘘を本当にしなければ」という使命感だったと思う。
しかし、幸運なことに、僕は高村薫と浅田次郎の作品に、本当にハマってしまった。そして、僕と篠山さんは休み時間になるといつも本の話をして、昼休みは一緒に図書室で本を読み、部活がない日は学校帰りに本屋や図書館に行ったりした。
部活がない日は音楽室でピアノの練習をしていたので、それがなくなり、吹奏楽部の顧問の先生に「ピアノやめたのか?」と聞かれた。確か「勉強しています」とか何とか大ウソをついた気がする。
――本と吹奏楽とピアノ。
我ながら、良い青春だったと思う。
僕はずっと篠山さんが好きだったが、気持ちを伝えることなく卒業した。
卒業後、友人同士の集まりで何度か篠山さんに会う機会があり、隣のクラスだった奴と付き合っていることを本人の口から聞いた。そいつは、僕が高校時代、一番か二番に嫌いな奴だった。結婚すると知った時「なんでそんな奴と……」という言葉を飲み込んで、笑顔で「おめでとう!」と言えた自分を褒めてやりたい。
結婚披露宴の歓談中のピアノ演奏を頼まれた僕は「これは篠山さんの結婚披露宴だ」と自分に言い聞かせ、新郎を徹底的に無視してアンドレ・ギャニオンと西村由紀江とリチャード・クレイダーマン、それから披露宴に向きそうな有名なクラシックを何曲か弾いた。聴いてる人は誰もいなかったが。
酔っ払った新婦の弟に「俺はさー、トガシさんみたいな人が良いんじゃないかって、思ったんだよねー」と言われ、ちょっとだけ「してやったり」と思った。
みんな、本を読め。
本はいいぞ。SNSなんぞより、ずっと。
(了)
小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」参加用です。
なんじゃこりゃ……(゚∀゚;;)
思いつくままに書いたら、全然まとまらない文章に…。
でも、昔を思い出して、ちょっと楽しかったです。
(全部実話です)
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