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最後にあなたが私にくれたもの、チョコミントと沈黙だった

あれはまだ、ポケベルが鳴っていた頃の話だ。

といっても、わたしが鳴らしていたんじゃなくて、あっちの話だけど。

その日はやけに暑くて、地面が湯気を出していた。

待ち合わせ場所は、なぜか駅前のベンチ。

彼が「このほうが落ち着いて話せる」って言うからそうしたけど、どう考えても落ち着かない。

セミは鳴くし、隣のパン屋はカレーパン揚げてるしで、わたしの心はすでに油まみれだった。

「別れても好きな人」を歌う人

彼とは2年つきあった。

当時は“つきあう”って言葉が今よりもうちょっとだけ、重かった気がする。

LINEもないし、インスタもない。

だからこそ、電話が来るまでの時間や、手紙の封を開ける瞬間が、いちいち青春だった。

彼との出会いは、友達に誘われたカラオケ合コン。

そして、初対面で彼が歌ったのがまさかの

「別れても 好きな人」

……いや、なぜにその選曲?

だけど、妙にうまかったのと、

最後の「別れても~ 好きな人〜(×4回)」まで、コブシを回して熱唱してて、笑ってしまった。

「この人、おもしろいな」と思った。

マヨネーズと業務用ティッシュ

つきあってみたら、さらに変だった。

・なんでも「おいしい順」に食べる
・マヨネーズを常に持ち歩いている
・家のティッシュが白い箱の業務用(しかも一箱98円)

一番びっくりしたのは、お寿司屋で出されたイカにマヨを乗せて食べてたこと。

職人さんの包丁、止まってたもん。

でもまあ、それも含めて「変わってて面白いな〜」と思ってた。

“ズレ”って、ある日突然、来るんです

ただ、ある時から「面白い」が「うーん…」に変わった。

たとえば、テレビドラマ。

わたしが「このシーン泣ける」って涙ぐんでる横で、
彼は「このカメラワーク、朝ドラっぽいよね」とか言い出す。冷める。
旅行の計画もそう。

・わたし「温泉行きたい」→ 彼「電車混むし…」
・わたし「浴衣で散歩しよう」→ 彼「寒いから布団入ろう」

なんでも“逆”の方向に行く感じ。

で、ある日ついにわたしが言ってしまった。

「ねえ、なんでそんなに感覚ズレてんの?」

すると彼が、ボソッとこう言った。

「僕らって、アイスの食べ方みたいに違うんだよね」

……え?

それがなんの比喩なのかは、そのとき理解できなかった。

別れ話に、チョコミントを持ってくる男

そして、あの駅前のベンチの日。

いよいよ「ちゃんと別れよう」という空気だった。

ベンチに座っていたら、彼がコンビニ袋を持って登場。

中には、アイスが2本。
・スイカバー
・チョコミント

「なんでアイス?」と聞いたら、彼はこう言った。

「最後くらい、好きなもん食べてからにしようと思って」

いや、どういう感性?
別れ話に、チョコミント持ってくる人、いる?

しかもその口調、ちょっと優しいし。

わたしはスイカバーを選んだ。彼はチョコミントを開けて、
「やっぱこれが一番落ち着くわ」と言いながら食べていた。

別れ際に落ち着くなよ。

でも、わたしもなんだか笑ってしまった。

暑いし、アイスの冷たさが頭を刺すし、カラスは鳴いてるしで、情緒が迷子だった。

そして、アイスが溶ける前に、わたしたちは静かに別れた。

チョコミントを見ると、あの夏を思い出す

それからしばらくして、彼は別の人と結婚したと風の噂で聞いた。

たぶん今も、冷凍庫にはチョコミントが並んでるんだろう。

マヨネーズと業務用ティッシュと一緒に。

わたしはというと、あれ以来チョコミントを避けている。

嫌いになったわけじゃないけど、あの駅前のベンチと、彼のあの言葉が蘇ってくるから。

「僕らって、アイスの食べ方みたいに違うんだよね」

今になってようやく、わかる気がする。

わたしは、最初においしいところを食べたいタイプで、
彼は、最後にとっておくタイプだったのだ。

それってつまり、生き方の違いみたいなものかもしれない。

溶けかけの記憶は、やさしい

人の記憶って、冷凍庫みたいに仕舞えたら楽なのにな、と思う。

でも、完全に冷えきった記憶って、なんだか味気ない。

ちょっと溶けかけで、形が崩れそうなくらいのほうが、案外やさしいのかもしれない。

「別れても好きな人」って、あながち当たってるかも。

ちなみにその後、
わたしは「溶けない男」と出会うことになるのですが、、、

それはまた、別のお話。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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