旅する音楽 12:アヌーシュカ・シャンカール『Traces Of You』 - 過去記事アーカイブ
この文章はJALの機内誌『SKYWARD スカイワード』に連載していた音楽エッセイ「旅する音楽」の原稿(2015年9月号)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。
心のフォトグラフを投影するインドの調べ

Anoushka Shankar『Traces Of You』
旅の必需品といえば、カメラ。最近はスマートフォンで代用する人も増えてきたが、それでも気合を入れて一眼レフを新調するなんて話も珍しくはない。かくいう僕も、旅先でシャッターを切っていたら道に迷った、なんてこともしばしばあるほど写真を撮る。旅好きならば、写真好きでもあるのではないだろうか。
しかし、カメラの出番がまったくなかった旅がある。真夏に訪れたインドだ。空港でタクシーに押し込められ、デリーの旧市街に降り立った瞬間、五感を凶暴なまでに刺激された。車と人と牛が溢れる道路の喧騒、油や香辛料が混ざった匂い、そして派手な原色に彩られた大通り。何もかもがエネルギーに満ちた街の熱気に圧倒され、写真を撮ることがばからしくなってしまったのだ。だから、僕の手元にはインド旅行の写真がほとんど残っていない。
ただ、逆にそれがよかったのか、インドの音楽を耳にすると、旅の記憶が鮮明にフラッシュバックする。それは、当時聴いていた音楽に限らない。ビートルズにも影響を与えたというラヴィ・シャンカールの娘であり、あのノラ・ジョーンズと異母姉妹ということで注目を集めたアヌーシュカ・シャンカール。彼女が2013年に発表したアルバム『Traces Of You』でさえも、10年以上も前の旅を鮮明に蘇らせてくれるのだ。父親譲りのテクニックをもつ艶めかしいシタールの響きや、プログラミングも交えたモダンなエスニック・サウンド。音の断片が、徐々に僕が見た風景と頭の中で重なっていく。まるで、あのときの自分のためにつくられたサウンドトラックかのように。
そういえば、ヒンズー教の聖地・バラナシで、僕はシタールを手に入れてちょっとしたレッスンを受けた。でもあまりにも難しくて、あえなく挫折。もしも先生がアヌーシュカのような美人だったなら、今頃はバリバリと弾きこなしていたかもしれない。今度インドに行く機会があれば、カメラとシタールを連れてリベンジしてやろうかとも考えている。
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