カリスマ経営者が会社に残り続けることの危うさ
経営者の最後の仕事は「自分がいなくても回る会社」を作ることではないか
日本には、優秀な経営者がたくさんいます。
会社を大きくした。
新しい市場を作った。
危機を乗り越えた。
何万人もの社員を率いてきた。
もちろん、素晴らしいことです。
ですが、私は、経営者の能力を測るとき、もう一つ重要な視点があると思っています。
「その人がいなくなっても、会社は成長できるのか」
ということです。
経営者本人がいつまでも重要な意思決定をしている。
社員も「あの人がいないと決められない」と言う。
後継者候補が出てきても、創業者や前社長ほどの存在感はない。
これは本当に優れたマネジメントなのでしょうか。
1.優秀な人がいる会社と、優秀な組織は違う
私は会社員時代、富裕層向けのビジネスジェットを扱っていました。
その仕事柄、大企業の社長や会長クラスの方々と接する機会がありました。
そこで感じたのは、経営者にも本当にいろいろなタイプがいるということです。
話をした瞬間に、
「この人はすごいな」
と感じる人もいました。
一方で、
「この会社の規模と、この人個人の器量は必ずしも同じではないんだな」
と思うこともありました。
大企業のトップだから、すべての経営能力が突出しているとは限りません。
会社には歴史もあります。
ブランドもあります。
優秀な社員もいます。
組織そのものの力があります。
だから私は、
「すごい経営者がいる会社」
と
「すごい経営ができる組織」
は分けて考えた方がいいと思っています。
2.マネジメントは自分が成果を出すことではない
これは中間管理職にも同じことが言えます。
自分で営業する。
自分で問題を解決する。
自分で重要案件を判断する。
そして成果を出す。
本人は優秀です。
でも、その人が休んだ瞬間に仕事が止まるのであれば、組織としては弱い。
経営者なら、なおさらです。
経営者の仕事は、自分が100点の判断をし続けることだけではありません。
自分以外の人が80点、90点の判断をできる状態を作ること。
そして、やがて自分がいなくても会社が動くようにする。
そこまで含めてマネジメントではないでしょうか。
3.後継者が育たないのではなく、育つ仕組みがない
「後継者がいない」
という経営者の話をよく聞きます。
しかし、私は、ときどき疑問に思います。
本当に人材がいないのでしょうか。
重要な判断を経営者自身が握っていないか。
失敗しそうになると途中で口を出していないか。
自分と同じ判断をする人だけを評価していないか。
そして、最後に、
「俺ほど会社のことを分かっている人間はいない」
となる。
あなたは大丈夫ですか?
何十年間も本人だけが経営判断をしてきたのですから、こう考える傾向に
なるのは頷けます。
しかし、考えてください。
後継者は任命した瞬間に経営者になるわけではありません。
判断する
失敗する
修正する
責任を取る
その経験を積ませなければ育ちません。
4.自分が必要とされることは気持ちいい
ここは少し厳しく書きます。
経営者が会社に残り続ける理由は、
本当に「会社のため」だけなのでしょうか。
人から頼られる。
社員が判断を求めてくる。
取引先から社長に会いたいと言われる。
自分が決めれば会社が動く。
これは気持ちのいいことでもあると思います。
人間ですから、承認されたいという気持ちがあるのは当然です。
問題は、その欲求と会社の利益が混ざってしまうことです。
「俺がいなければ会社が回らない」
という状態は、経営者本人にとっては勲章のように感じるかもしれません。
でも、マネジメントという観点から見れば、
「自分がいなければ回らない会社しか作れなかった」
とも言えてしまいます。
5.経営には「思想」が必要なのではないか
では、どうすれば経営者がいなくなっても会社が続くのでしょう。
私は、最後に残るのは「思想」だと思っています。
この会社は何のために存在するのか。
何を大切にするのか。
迷ったとき、何を基準に判断するのか。
どんな会社にはならないのか。
これが組織に浸透していれば、経営者本人がいなくても判断できます。
逆に、
「社長ならどうするだろう」
と毎回考えなければならない会社は、思想ではなく人に依存しています。
カリスマをコピーする必要はありません。
判断の根っこを継承すればいいのです。
まとめ
優秀な経営者が長く会社を率いることを、私は否定しません。
その人にしかできない仕事が残っていることもあるでしょう。
ただ、いつか必ず経営者は会社を離れます。
人間である以上、永遠には経営できません。
だから経営者には、
売上を伸ばす。
利益を出す。
会社を大きくする。
それとは別に、もう一つ大きな仕事があると思います。
自分の後に経営できる人を育てることです。
そして、最終的には、
「もう自分がいなくても大丈夫だ」
と言える会社を作る。
経営者がいなくなった瞬間に会社が弱くなるのであれば、それまでの成功は、その人個人の成功だったのかもしれません。
反対に、経営者が去った後も次の世代が判断し、挑戦し、さらに会社を成長させる。
そこまでできて、初めて、
「あの人は本当に会社を作った」
と言えるのではないでしょうか。
経営者の最後の仕事は、自分の存在感を最大化することではありません。
自分がいなくても回る会社を作ること。
私は、それこそがマネジメントの一つの到達点だと思っています。
