【章間コラム3】 なぜ私は、強く押し返さなかったのか
――身体が先に選んでいたもの――
私が譲歩を選んだ理由は、単に対立を避けたかったからではなかった。
強く言い返せば、済むことなのかもしれない。それでも私は、できるだけ生活を壊さない形で収めようとしていた。関係を断つのではなく、続けられる形を探していた。
その選び方には、もっと前から続いている感覚が影響していた。
幼い頃、私が大切にしていたプラモデルをめぐって、弟が刃物を振り上げたことがあった。その刃は私の頭に当たり、出血し、私は救急車で運ばれた。
弟も、まだ幼かった。何が起きたのか、私自身、十分には分かっていなかったと思う。
その出来事を、私は長い間、言葉にしなかった。
だが、身体は覚えていた。
その後、怒声や威圧的な空気に触れると、身体は言葉より先に危険を感じるようになっていた。
回転する刃が頭の上を通り過ぎたときも。背後から腕を掴まれたときも。そのたびに、幼い日の感覚が、身体の奥でよみがえっていた。
私は、その感覚を無視できなかった。
だから私は、言葉を強めることよりも、生活を続けることを選んだ。
それは、壊さないための選択だった。
その頃の私は、その選択が、後になって別の意味として受け取られることまでは、まだ考えていなかった。
🌸この記事は連載
『それでも、家族と暮らしたかった』
の章間コラムです。
家族の生活が、ある日
「証拠」と呼ばれるものへ変わっていく。
その過程を記録しています。
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