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950am
毎週ショートショートnote『踏切オーディション』
足を引きずっていた青年は、警報が止んだと同時に歩み始めた踏切内で二度目の警報を耳にした時、自分は終わったのだと思った。何てことのない距離の踏切を渡り切れず、そしてこんな状況でも足は言うことを聞かない。頭には病室の花びらの散った一輪挿しを浮かべていた。
警告色の仕切りが行く先を閉ざし、その向こうからよく知った顔が必死に走って来た時、青年はあらゆるものから観念するように目を閉じた。
* * *
「危なかったね」
その人は怒らなかった。支えられた青年はそれでも出来るだけ彼女に体重をかけないようにして黙って歩いている。
「踏切が短かったんだね。そういう時もあるよ」
「……あのままでよかったのに」
ボソッと青年は言った。
「バカなこと言わないで。みんな助けようとしてくれてたんだから。右も左も見てみなよ」
青年が右を見れば、周りから慈悲深い目を向けられている。左を見れば、彼女の満開の花のような笑顔があった。
「戻ったらリンゴ切ってあげる」
青年は、小さく頷いた。
どうしてこんな自分を優しくしてくれるのか、青年には分からなかった。どうして唸るように腹が鳴り始めているのかも、ちっとも。
終わり(468字)
田原にか様の企画に参加しています。
オーディションというよりは人知れず社会のふるいにかけられてしまった人の話ですが……。
よろしくお願いします!
