色あせたTシャツが、人生で一番いい仕事をした日
誰の家にも、捨てられない服が一枚はあると思う。
私にも、ある。
もう何年も前に買った、古いTシャツだ。
こんにちは。たかっちです。
心理学と、どうでもいい日常のことを書いている、40代の男である。
今日は、その「捨てられないTシャツ」の話をさせてほしい。
半分、行方不明のプリント
そのTシャツには、アーティストのデザインがプリントされている。
、、、らしい。
もうプリントが半分くらい剥げているので、正直、今となっては何の絵だったのかよく分からない。
でも、夏はこいつがエースだ。
洗って着て、また洗って着て。
気づけば、いい感じに色あせている。
ちょっとしたヴィンテージ感すら出てきた。
もしかしたら、私が着ているから、そう見えるだけかもしれない。
そうじゃないかもしれない。
、、、そうじゃないと、思いたい。
ちなみに、そのTシャツを買ったのは私のお気に入りの店だ。
ただ、今は完全に娘中心の生活なので、行けるのは年に1回か2回くらい。
たいてい、自分の誕生日祝いのタイミングだ。
先月、久しぶりにその店に行った。
店の服を着て、その店に行く問題
ここで、ひとつ告白したいことがある。
私は普段、その店で買った服を着て、その店に行かない。
なんというか、恥ずかしいのだ。
「あ、こいつウチの服着てるやん」
と思われている気がして、妙に落ち着かない。
服屋あるある、だと思っている。
たぶん、私だけじゃないはずだ。
そう信じている。
でもその日は、たまたま、あの色あせたTシャツを着ていた。
何年も前のやつだし、色あせすぎてどこの服かも分からないだろう。
だから、まあいいか、と気にせず店に入った。
これが、思わぬ展開を生むことになる。
店員さんが、二回目に近づいてきた
店内をいろいろ物色していると、店員さんに声をかけられた。
「何かあれば、お声がけくださいね」
という、あのさらっとしたやつだ。
「はい」と軽く会釈して、また物色に戻る。
Tシャツでもないかな、と見て回る。
Tシャツは、なんぼあってもいいですからね。
すると、さっきの店員さんが、また近づいてきた。
「あのー」
今度は、様子が違う。
何を言われるんだと身構えると、店員さんは私の着ているTシャツを指して、こう言った。
「もしかして、それ、○年前にウチで取り扱っていたTシャツですか?」
、、、、気づかれていた。
あれだけ色あせて、半分行方不明のプリントなのに。
「はい、そうなんです」
そう答えると、店員さんの目がキラッと光った。
初対面なのに、なぜか話が弾む
そこからが、すごかった。
店員さんは、このTシャツをデザインしたアーティストについて、熱く語り始めた。
どんな人で、どういう経緯でこのデザインが生まれたのか。
正直、私はそこまで詳しくない。
「へー」
「そうなんですね」
「知らなかったです」
の三段活用で乗り切ろうとしていた。
でも、店員さんがあまりに楽しそうに話すので、私までだんだん楽しくなってきた。
気づけば、私も会話を全力で盛り上げていた。
ちなみに、この店員さんは初めて見る人だった。
ただ「同じアーティストが好き」というだけで、初対面の二人が、こんなに盛り上がっている。
不思議なものだ。
そして、会話が一段落ついた頃。
私は、なぜか手元にTシャツを3枚持っていた。
1枚でよかったのに。
捨てられないのには、理由があった
なんで、こんなにボロい一枚を、後生大事に着ているんだろう。
あとから、なんとなく分かった気がした。
心理学には、「単純接触効果」という考え方がある。
同じものに繰り返し触れているうちに、親しみや好意を感じやすくなることがあるらしい。
私が、あの色あせたTシャツを捨てられないのも、もしかするとそういうところがあるのかもしれない。
何年も、何十回も、袖を通してきた。
だから、もう「服」というより「相棒」に近い。
色あせて、くたびれて、でも、なんか味が出てきた。
、、、私と、同じである。
でも、面白いのはここからだ。
「もう古いし、恥ずかしいかも」と思っていたその一枚が、その日人生で一番いい仕事をした。
初対面の店員さんとの会話のきっかけになり、思いがけず楽しい時間をくれて、しかも、店員さんまで嬉しそうにしていた。
古くて、色あせて価値がないと思っていたもの。
その中にこそ、実は「物語」が詰まっていたのだ。
そしてその物語は、初対面の人とも、つないでくれる。
結局、3枚買っていた
営業トークだったのかもしれない。
冷静に考えれば、まんまと乗せられて3枚買っている。
でも、私も嬉しかったので、良しとした。
好きなものの話で、知らない人と本気で盛り上がれた。
それだけで、もう元は取れている気がする。
、、、、いや、そういえば。
私は、一円も払っていない。
あの日、隣には妻がいた。
誕生日祝いということで、3枚とも妻が買ってくれたのだ。
つまり私は、色あせた古いTシャツ一枚で、新品のTシャツを3枚、無料で手に入れたことになる。
やっぱりあいつは、人生で一番いい仕事をした。
P.S.新しく買った3枚のTシャツ。
うれしくて、もう3枚とも着ている。
ローテーションでフル稼働だ。
、、、ということは、だ。
また「自分の店の服を着て、その店に行けない問題」が、3着ぶんに増えたわけである。
だから最近、密かに願っている。
早く、いい感じに色あせてくれ、と。
そうしたら、また堂々とあの店に着ていける。
あわよくば、もう一回、あの会話がしたい(笑)
あなたにも、捨てられない一枚ありませんか?
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