ケアマネ、AIを飼う。㉖「死ぬ街役場健康福祉課」
AIと一緒に仕事をしていると、たまに「どうしてそうなった」としか言いようのない文字起こしに出会う。
この日も、そんな日だった。
利用者さんは介護保険だけでなく、障害福祉サービスの利用も検討していた。
申請の流れを確認するため、自治体の健康福祉課へ電話をかける。
私は普段から通話を録音し、あとで文字起こしを確認して記録を作る。
電話が終わり、いつものように文字起こしを開いた。
すると、一行目がこうなっていた。
「死ぬ街役場健康福祉課です。」
……
……。
ちょっと待って。
死ぬ街?
本当は、とある自治体の名前である。
AIが聞き間違えた結果、とんでもない自治体が誕生していた。
その瞬間、私の頭の中では別の物語が始まった。
荒れ果てた大地。
舞い上がる砂ぼこり。
どこからともなく聞こえるバイクのエンジン音。
肩パッドを付けた強そうな人たちが街を歩いている。
その街の中心にある建物。
死ぬ街役場。
そして受付では、爽やかな声でこう案内される。
「死ぬ街役場健康福祉課です。」
いやいや。
どんな役場。
市民の健康を守る部署なのに、街の名前が全然健康じゃない。
「障害福祉サービスについて伺いたいのですが。」
「その前に、生き延びる方法を教えてください。」
頭の中でそんなやり取りが始まり、一人で笑ってしまった。
もちろん現実は、そんな物騒な場所ではない。
静かな自治体である。
世紀末になっていたのは、AIの頭の中だけだった。
文字起こしAIは、本当に便利だ。
録音を聞き返す時間は減るし、記録作成もずいぶん楽になった。
でも、こういうことがある。
だから私は、文字起こしをそのまま信じない。
必ず最後は自分の目で確認する。
もし確認せずに支援経過へ貼り付けていたら。
「死ぬ街役場健康福祉課へ情報照会を実施。」
……。
介護記録ではなく、世紀末小説の書き出しである。
AIは、たまに仕事を手伝ってくれる。
そして、たまに新しい世界まで作ってくれる。
便利さと引き換えに、思わず吹き出すような誤変換も届けてくれる。
だから今日も私は、最後の確認だけは自分でやる。
文字起こしは、一文字違うだけで意味が変わる。
そして時々、一文字違うだけで世界観まで変わる。
