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小さな手|せりふ三題噺|キャンディ暗闇魔女

「いまいましいやつらめ…」
男は玄関ドアの錠を下ろした。
住宅地の一角。子どもたちの声が近づいてくる。

男は子どもが嫌いだった。理屈の通らぬことをさも当然のように主張する。三年前の同じ日に強い口調で追い返してから、子どもたちは寄りつかなくなった。鍵をかけたのは念のためだ。

すると、誰かがノックする。
「トリック・オア・トリート!」
幼い女の子の声だ。
男は思わず耳をふさいだ。なぜ俺のところに来るのだ。放っておいてくれ。居留守を使ってやり過ごそうと考えた。

だが、声の主はお構いなしだ。何度もノックし、叫ぶ。
「トリック・オア・トリート!」

五回、いや八回は繰り返しただろうか、不意に静かになった。ほっとした次の瞬間、パーンという大きな音とともにドアが開いた。男はびっくりして尻もちをついた。
魔女だ。年老いた魔女が玄関に入りきらないほどの大きさで立ちはだかっている。魔女は手にした杖をかざすと、言い放った。
「トリック!!」

男は気を失った。

……男は暗闇の中にいた。手元さえ見えない濃い闇だ。ただ足元に固い地面が横たわっていることは感じとれた。ともかく歩き出さないと…そう思ったとき、右手にやわらかいものがふれた……

気がつくと、男は玄関先で少女の手を握っていた。五歳くらいだろうか、その小さくて少し汗ばんだ温もりが、男に何かを喚起させた。

「ちょっと待ってくれ」
そう言うと、男は部屋に引き返し、キャンディの包みを持って戻ってきた。
「これしかないんだ」
レモン味ののど飴だった。

少女はにっこり笑って「ハッピーハロウィン」と言うと、すたすた帰っていった。
男は少女の背に向かって「ハッピーハロウィン」とつぶやいた。

(本文691字)
#せりふ三題噺 #キャンディ暗闇魔女


はらとけいさんの企画に参加しています。僕のところにもやってきますように。


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