売上は増えているのに、なぜ利益が残らないのか〜利益を静かに消している「顧客対応時間」
売上は増えている。
契約件数も減っていない。
それなのに、以前より忙しい。
自分もスタッフも疲れている。
月末に数字を確認すると、期待したほど利益が残っていない。
そんな状態になっていないでしょうか。
数字だけを見れば、経営は順調に見えます。
ところが実際には、顧客からの問い合わせや追加対応に追われ、新しい提案を考える余裕がない。スタッフの育成も後回しになり、経営者自身が細かな判断に呼び出され続けている。
このようなとき、多くの経営者は値上げや経費削減を考えます。
もちろん、それも必要です。
しかし、その前に確認してほしいものがあります。
それは、顧客ごとの「対応時間」です。
私は、専門サービスの原価は、外注費や交通費だけではないと考えています。
経営者とスタッフが使う時間も、明確な原価です。
しかも、成果物を作った時間や顧客と面談した時間だけを数えていては、本当の原価は見えてきません。
確認、調整、社内相談、手戻り、日程変更、契約範囲外の質問。
こうした見えにくい時間が積み重なり、利益を静かに消していることがあるのです。
売上の大きい顧客が、利益の大きい顧客とは限らない
例えば、二つの顧問契約があるとします。
一件目は、年間120万円の契約です。
売上金額だけを見れば、重要な顧客に見えるでしょう。
しかし、毎週のように契約範囲外の質問が届く。
急な打ち合わせを求められる。
必要な資料がそろわず、何度も確認が必要になる。
一度決めた方針も、後から変わる。
もう一件は、年間60万円の契約です。
月一回の面談までに相談事項をまとめ、必要な資料を期限どおりに提出する。決めるべきことは自分で決め、追加の依頼があれば相談のうえで進める。
売上だけなら、120万円の顧客の方が価値が高く見えます。
しかし、本当にそうでしょうか。
仮に、120万円の顧客に年間200時間を使っていれば、時間当たりの売上は6,000円です。
一方、60万円の顧客に年間50時間を使っているなら、時間当たりの売上は1万2,000円です。
人件費や事務所経費を差し引けば、利益の差はさらに大きくなります。
もちろん、時間当たりの金額だけで顧客の価値を判断するわけではありません。
将来性、紹介の可能性、社会的な意義、長年の関係など、数字だけでは測れない価値もあります。
それでも、使っている時間を把握せずに、
「売上が大きいから重要な顧客だ」
と判断するのは危険です。
売上の大きさが、採算の悪さを隠していることがあるからです。
見積もりに入っていない時間が、利益を消していく
専門家は、成果物を作る時間や面談時間を見積もります。
しかし、契約後に発生する細かな対応まで、十分に見積もれているでしょうか。
例えば、次のような時間です。
・必要な資料が届かず、何度も催促する
・質問がメール、電話、チャットなど複数の方法で届く
・打ち合わせの日程が直前に変更される
・前回決めた方針が変わり、作業をやり直す
・スタッフだけでは判断できず、経営者へ確認が上がる
・契約範囲外の相談に、善意で対応する
・過去の経緯を毎回調べ直す
一件ずつ見れば、10分、20分の話です。
だから、多くの人は深刻に考えません。
しかし、契約期間を通して積み上げると、当初の想定を大きく超えます。
特に注意したいのは、組織全体で使った時間です。
担当者が30分調べる。
経営者が20分判断する。
顧客への説明に30分使う。
顧客との直接対応は30分でも、組織全体では80分を使っています。
ところが、予定表には「顧客への電話30分」としか記録されていない。
これでは、残り50分の原価が見えません。
顧客対応時間とは、顧客と直接話した時間だけではありません。
依頼を受ける。
内容を整理する。
調べる。
社内で相談する。
判断する。
説明する。
修正する。
やり直す。
その仕事に関係して組織全体が使った時間の合計です。
利益が残らない顧客とは、単に契約金額が安い顧客ではありません。
見えない対応時間が多すぎる顧客も、利益を消す顧客なのです。
「この顧客は手がかかる」を数字に変える
経営者やスタッフは、感覚的には分かっています。
「このお客様は、なぜか時間がかかる」
「売上は大きいけれど、対応が大変だ」
「この仕事が入ると、ほかの仕事が止まる」
しかし、感覚だけでは契約条件を見直しにくいものです。
そこで、一度だけでも顧客ごとの実質時給を計算してみてください。
計算方法は難しくありません。
一定期間の売上を、その顧客に組織全体で使った時間で割ります。
対応時間には、次のものを含めます。
・直接作業
・面談
・メール
・電話
・資料確認
・社内相談
・修正
・手戻り
・日程調整
・経営者の判断時間
例えば、月額10万円の契約に対して、担当者が月8時間、経営者が月4時間を使っているとします。
組織全体では、月12時間です。
単純な時間当たり売上は、約8,300円になります。
しかし、この8,300円がそのまま利益になるわけではありません。
ここから、スタッフの人件費、経営者の人件費、事務所経費、システム利用料、交通費などを負担します。
さらに、契約を獲得するために使った営業時間や、請求・入金確認などの管理時間もあります。
そこまで計算すると、
「思っていたほど利益が出ていない」
と分かる契約は、決して少なくありません。
数字を出す目的は、顧客に順位をつけたり、切る顧客を探したりすることではありません。
「忙しいのに、なぜ利益が残らないのか」
という感覚を、経営上の事実に変えることです。
事実が見えれば、打ち手を考えられます。
価格を見直すのか。
対応範囲を明確にするのか。
連絡方法を変えるのか。
定例面談に相談を集約するのか。
追加対応を有料化するのか。
数字が見えないままでは、我慢するか、感情的に契約を終えるかの二択になってしまいます。
本当に大きな損失は、使った時間だけではない
顧客対応時間には、もう一つ重要な見方があります。
それが「機会損失」です。
ある顧客への追加対応に、毎月10時間を使っているとします。
失っているのは、その10時間だけではありません。
その時間があれば、何ができたでしょうか。
新しい顧客への提案ができたかもしれません。
既存サービスを改善できたかもしれません。
スタッフを育成できたかもしれません。
紹介者との関係を深められたかもしれません。
今後の経営方針を考えられたかもしれません。
あるいは、家族と過ごしたり、体を休めたりすることもできたでしょう。
何を失ったかは、帳簿には記録されません。
だからこそ、経営者が意識して見る必要があります。
例えば、低採算の顧客対応に追われ、新しい相談への返信が遅れたとします。
このとき失ったものは、対応に使った10時間だけではありません。
受注できた可能性のある仕事や、その後に続いたかもしれない紹介、将来の人間関係まで失っている可能性があります。
私は、機会損失を考えずに、顧客別の採算を判断することはできないと考えています。
目の前の売上を守るために、未来の売上をつくる時間を失っていないか。
一部の顧客への過剰対応によって、本当に大切な顧客へのサービス品質が落ちていないか。
経営者は、そこまで含めて時間の配分を考えなければなりません。
採算が悪いからといって、すぐに契約を終える必要はない
顧客別の実質時給を計算し、採算が悪いと分かった。
では、すぐに契約を終了すればよいのでしょうか。
私は、そうは考えていません。
まずは、なぜ対応時間が増えているのかを分けて考える必要があります。
こちらの業務設計が曖昧なのか。
契約範囲が十分に伝わっていないのか。
連絡手段が多すぎるのか。
顧客側の資料提出が遅いのか。
同じ説明を何度も繰り返しているのか。
担当者に判断基準がなく、すべて経営者へ確認が上がっているのか。
原因によって、打ち手は変わります。
例えば、次のような改善が考えられます。
・相談回数を契約書に明記する
・質問の窓口を一つにまとめる
・追加対応の料金を決める
・定例面談で相談事項をまとめてもらう
・必要資料と提出期限を一覧にする
・よくある説明を文書や動画にする
・スタッフが判断できる基準をつくる
関係や仕組みを整えることで、売上を守りながら採算を改善できる仕事はあります。
それでも条件が守られず、対応時間が減らないのであれば、価格改定、契約範囲の縮小、担当方法の変更を検討します。
契約を続けるかどうかは、その後の判断です。
大切なのは、我慢を続けることでも、数字だけを見て機械的に顧客を切ることでもありません。
お互いに良い仕事を続けられる条件をつくれるか。
そこを見極めることです。
顧客を選ぶことは、時間の使い道を選ぶこと
売上表には、顧客から受け取った金額が並びます。
しかし、その売上を得るために使った時間は並びません。
ましてや、その顧客に時間を使ったために選べなかった未来は、どこにも記録されません。
だから経営者は、売上の裏側まで見なければなりません。
その顧客に、組織全体で何時間を使っているのか。
契約時には想定していなかった対応が、どれだけ発生しているのか。
その時間を別の顧客や経営課題に使っていたら、何ができたのか。
私は、顧客を選ぶことは、単に利益の出る相手だけを選ぶことではないと考えています。
自分たちの専門性を正しく評価し、互いに約束を守り、良い仕事を続けられる相手に、十分な時間を使える状態をつくることです。
売上はあるのに疲弊しているなら、仕事の値段だけを見直しても解決しません。
仕事の進み方と、関係のあり方まで見る必要があります。
あなたの事業で、
「売上金額は大きいのに、対応時間も膨らんでいる顧客」
は誰でしょうか。
その契約は、今の価格、今の範囲、今の進め方のままで、本当に利益を生んでいるでしょうか。
誰に、どれだけの時間を使っているのか整理する
顧客別の対応時間は、日常業務の中では見えにくいものです。
特に、短い確認、社内相談、判断、手戻りは、記録から抜け落ちます。
しかし、その見えない時間を放置すると、売上が増えるほど忙しくなり、利益が減るという状態が起こります。
私が行っている「時間の棚卸し」では、
誰に、何に、どれだけ時間を使っているのかを整理します。
売上金額だけでは見えない対応時間や機会損失を確認し、
・価格を見直すのか
・契約範囲を整えるのか
・仕事の進め方を変えるのか
・顧客との関係を見直すのか
どこから手をつけるべきかを一緒に考えます。
忙しさを、利益につながる時間へ変えたい方は、こちらをご覧ください。
