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【経営理念は現場から生まれる②】経営理念は「作る」のではなく、社長の経験から掘り起こす


前回の記事で、松下幸之助の『実践経営哲学』について書きました。

幸之助は「まず経営理念を確立すること」と説いています。
これは、経営において非常に大切なことだと思います。

ただ私は、もう一つ大切なことがあると思っています。

それは、
経営理念を、どこから持ってくるのか。
ということです。

「では、経営理念を作りましょう」

経営コンサルティングや経営者研修では、
「あなたの会社の存在意義は何ですか?」
「社会にどんな価値を提供しますか?」
「10年後、どんな会社になりたいですか?」
といった問いから、経営理念を作ることがあります。

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
考えるきっかけにはなります。

でも私は、中小企業の社長と話していて、いつも少し違和感を持っています。

10年、20年、30年と会社を経営してきた社長に対して、
今から経営理念を「作りましょう」というのは、少し違うのではないか。

その社長は、理念なしで20年間経営してきたのでしょうか。
そんなことはないと思うのです。

社長は、すでに何千回も決断している

会社を経営していれば、毎日のように決断があります。

この仕事を受けるのか。
断るのか。
値段を下げるのか。
社員を採用するのか。
辞めてもらうのか。
設備投資するのか。
借金するのか。
お客様の無理な要求を受けるのか。
断るのか。
社員の失敗をどこまで許すのか。
自分が出るのか。
人に任せるのか。

社長は、こうした決断を何年も繰り返しています。

その一つひとつの決断の裏には、
「私は、これを大切にする」
という判断基準があります。
本人が言葉にしていなくても、です。

それこそが、その社長の経営哲学の原石ではないでしょうか。

「理念は何ですか?」では、なかなか出てこない

私は、経営者にいきなり、
「あなたの経営理念は何ですか?」
と聞く必要はないと思っています。

そんなことを聞かれたら、どうしても立派なことを答えようとします。

「社会に貢献します」
「お客様を大切にします」
「社員を幸せにします」

もちろん、どれも大切です。
でも、それだけでは、その社長らしさが分かりません。
どんな社長でも言える言葉ですから。

だったら、違う質問をしてみる。

「これまで経営してきて、一番悔しかったことは何ですか?」
「二度と繰り返したくない失敗は何ですか?」
「どれだけ儲かっても、やりたくない仕事はありますか?」
「どんなお客様なら、損をしてでも助けたいと思いますか?」
「社員に、これだけはしてほしくないと思うことは何ですか?」

こちらの方が、その人自身の言葉が出てきます。

苦労の中に、理念の原石がある

例えば、社員が次々と辞めた経験を持つ社長がいる。

その社長は、
「昔は売上のことしか考えていなかった。でも、人を大事にしない会社は結局続かないと分かった」
と言うかもしれません。
これは、もう立派な経営哲学です。

ある社長は、取引先から突然契約を切られて、会社が傾きかけた。
その経験から、
「一社に依存する経営は絶対にしない」
と決めた。
これも経営哲学です。

ある社長は、売上欲しさに無理な仕事を引き受け、社員を疲弊させてしまった。
それ以来、
「社員を犠牲にしてまで売上を取りに行かない」
と決めた。
これも、その人の経営哲学です。

最初から本に書いてあった言葉ではありません。
痛い思いをしたから、自分の原則になった。
ここが重要だと思います。

成功体験だけを聞いても、社長は分からない

経営者のプロフィールを見ると、
「売上○億円達成」
「社員○人まで成長」
「創業○周年」
といった成功実績が並びます。

もちろん、それもその人の歴史です。

でも私は、その人の経営哲学を知りたければ、
成功した話より、苦労した話を聞いた方がいい
と思っています。

人間は、うまくいっているときには、なかなか自分を深く見つめません。

思い通りにならない。
人に裏切られる。
お金がなくなる。
社員が辞める。
お客様を失う。
自分の判断が間違っていたと気づく。

そういうときに初めて、
「自分は何を大切にしたいのだろう」
と考える。

だから私は、
経営者の失敗や苦労は、経営理念をつくる材料ではなく、すでに理念が生まれた場所
だと思っています。

コンサルタントが理念を与えてはいけない

ここは、私自身もコンサルタントとして気をつけなければならないところです。

コンサルタントは、整理するのが得意です。

理念。
ビジョン。
ミッション。
バリュー。
戦略。
KPI。
きれいな言葉にまとめることができます。

しかし、きれいな言葉を作ることと、その会社の理念を見つけることは違います。

コンサルタントが作った立派な理念を社長が掲げても、社員には意外と伝わります。

「これは社長の言葉じゃないな」
と。

逆に、多少不格好でも、
「あのとき本当に苦労した。だから、うちの会社ではこれだけは絶対に守る」
と社長が語った言葉には力があります。
体験があるからです。

だからコンサルタントの仕事は、
理念を作ってあげることではなく、社長の中にすでにあるものを掘り起こし、言葉にすること
ではないでしょうか。

社長の時間を見ると、さらに本音が見えてくる

私は経営者の時間の使い方を見ています。
すると、面白いことが分かります。

経営理念には、
「社員を大切にする」
と書いてある。
ところが、社長の一週間を見ると、社員と向き合う時間がほとんどない。

「未来を創造する会社」
と掲げている。
ところが、社長は毎日、目の前のお客様対応で一日が終わっている。

「人材育成を重視する」
と言っている。
ところが、部下に任せず、すべて自分で判断している。

ここに、
掲げている理念と、実際に生きている理念
の違いが出ます。

私は、社長が何を言っているかだけではなく、
何に時間を使っているか
を見ることが大切だと思っています。

時間はごまかせません。
一週間168時間。
その限られた時間を何に配分しているのか。
そこに、その人が本当に大切にしているものが表れます。

経営理念を「作る」前に、社長の人生を棚卸しする

だから私は、中小企業の経営者には、最初から立派な理念を作る必要はないと思っています。

まず、自分が歩いてきた道を振り返ってみる。
何に苦労したのか。
何を失ったのか。
誰に助けてもらったのか。
何を後悔しているのか。
何を守ってきたのか。
どんな決断をしてきたのか。

そして、
「なぜ、あのとき私はそう決断したのだろう」
と考えてみる。
そこに、その人の価値観があります。

さらに、
「これからも、それを大切にしたいのか」
と問い直す。
過去の経験から原則を見つけ、それを未来の判断基準へ変えていく。

これが、本当の意味での経営理念の確立ではないでしょうか。

理念は、社長が生きてきた経営の中にある

経営理念をゼロから作ろうとすると、難しい。

でも、
「あなたが20年間経営してきて、何を学びましたか?」
と聞けば、たくさん出てくるはずです。

だから私は、こう考えています。

理念は「作る」ものではない。
社長が歩いてきた経営の中から、掘り起こすものだ。

そして掘り起こした理念を、これからの経営に使う。

誰と仕事をするのか。
何をやめるのか。
誰に任せるのか。
何に投資するのか。

そして、
社長自身が、これから何に時間を使うのか。
理念が過去の経験から生まれ、未来の時間配分を決める。

私は、そこまでつながって初めて、経営理念が「額に飾る言葉」ではなく、経営そのものになるのだと思っています。


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