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【安全保障】イラン戦争「第五波」(2026.9.18)

イラン戦争「第五波」――ホルムズ海峡から中東全域へ広がる管理されたエスカレーション

2026年8月30日、米中央軍(CENTCOM)はホルムズ海峡に浮かぶイラン領ララク島のロケット発射拠点を攻撃した。

それからわずか数日。

イラン革命防衛隊(IRGC)はヨルダン、イラク・クルド自治区、UAE方面へ攻撃範囲を広げ、米軍もイラン南部・南西部の防空施設、レーダー、海上資産、機雷敷設能力、通信施設への大規模攻撃に踏み切った。

一見すると、また米国とイランの軍事衝突が激しくなったように見える。

しかし今回の局面を単なる「報復の応酬」として見ると、本質を見誤る。

重要なのは、戦争がホルムズ海峡をめぐる局地的な軍事衝突から、中東に展開する米軍基地と周辺国を巻き込む地域戦争へと拡張し始めていることだ。

そしてもう一つ重要なのが、米国とイランの双方が全面戦争を避けようとしながら、同時に相手への軍事的圧力を強めていることである。

いま中東で起きているのは、「戦争か和平か」という二択ではない。

むしろ、

戦争を終わらせないまま、どこまでエスカレーションを管理できるのか。

その危険な実験が続いている。

半年間で繰り返された「戦争と和平」


今回の衝突だけを切り取ると、8月30日の米軍攻撃が出発点に見える。

だが時間軸を広げると、まったく違う景色が見えてくる。

米国とイスラエルがイランへの軍事作戦を開始したのは2月28日だった。

その後、6月中旬には米国とイランの間で和平覚書が成立したものの、戦争は終結しなかった。

ホルムズ海峡の開放条件をめぐって、

* 米海軍の撤収
* 対イラン制裁の解除
* 凍結資産の解除
* 海峡航行の保証

などで双方の主張が衝突したからだ。

結果として、この半年間には、

覚書成立 → 部分的な海峡開放 → 協議破綻 → 再封鎖の警告 → 軍事衝突

というサイクルが繰り返されてきた。

つまり和平交渉は「戦争の終了」を意味していない。

むしろ軍事行動と外交交渉が交互に現れる、ひとつの長い戦争の一部になっている。

今回の衝突はその意味で、2月28日から続く戦争の**「第五波」**と位置づけることができる。

なぜ米軍はララク島を攻撃したのか


今回の局面で特に注目すべきなのが、攻撃対象だ。

8月30日、CENTCOMはホルムズ海峡のララク島にあるロケット発射拠点を攻撃した。

さらに9月1日には攻撃対象を拡大し、

防空施設、レーダー、海上資産、機雷敷設能力、通信施設などを攻撃したと発表している。

ここには一定の共通点がある。

狙われているのは単なる軍事基地ではない。

イランがホルムズ海峡を軍事的に支配するための能力そのものである。

レーダーは船舶や航空機を監視する。

通信施設は部隊を指揮する。

海上戦力はタンカーや艦艇を威圧できる。

そして機雷敷設能力は、実際に海峡を航行不能にする可能性を持つ。

つまり米軍が破壊しようとしているのは、「イラン軍」だけではない。

海峡を閉鎖できるシステムなのである。

この違いは大きい。

ホルムズ海峡を止めるのは「ミサイル」とは限らない


ホルムズ海峡は世界経済でも最も重要なチョークポイントの一つだ。

世界の原油・LNG海上輸送の約2割がこの海域を通過する。

そのため「イランがホルムズ海峡を封鎖する」という話になると、多くの場合、機雷や対艦ミサイルによる軍事封鎖が想像される。

しかし実際の世界経済では、海峡を止めるために必ずしも船を沈める必要はない。

もっと早く動くものがある。

保険である。

戦争リスクが急上昇すれば、船舶に対する戦争危険保険の保険料が急騰する。

さらにリスクが高まれば、保険会社そのものが引受を停止する可能性がある。

すると船会社は航行できなくなる。

船が物理的に沈められていなくても、

「保険が付かないから航行できない」

という状態が生まれる。

2026年3月には実際に、戦争リスク保険市場の混乱を背景に主要海運会社が航行を停止し、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に近づいた局面があった。

この経験があるため、現在の原油市場が警戒しているのは単純なミサイル攻撃だけではない。

軍事リスク → 保険市場 → 海運停止 → 原油供給減少

という連鎖だ。

今回の攻撃を受け、WTI原油価格が90ドル台へ急伸したと報じられているのも、この構造と無関係ではない。

市場が見ているのは「何発撃ったか」ではない。

タンカーが通れるのか。

ここなのである。

戦場になったヨルダン


今回のエスカレーションでもう一つ重要なのが、ヨルダンの存在だ。

8月31日、IRGCはヨルダンにある米軍関連拠点に対して弾道ミサイルや無人機による攻撃を行ったとされる。

ヨルダン軍は弾道ミサイル10発を迎撃したと発表した。

ただし、ここには情報上の注意点がある。

中東調査会の分析では、ミサイルの飛翔経路などから、実際の標的はヨルダン国内の米軍基地ではなく、イスラエルだった可能性も指摘されている。

つまり、

「イランがヨルダンを攻撃した」

というヨルダン側の説明と、

「イスラエルへ向かうミサイルをヨルダンが迎撃した」

という解釈が並存している。

現時点で断定するのは危険だ。

しかし、どちらが正しいとしても、ヨルダンが置かれている状況そのものは極めて重要である。

ヨルダンが抱える二重のジレンマ


ヨルダンは米国の重要な安全保障パートナーであり、米軍も展開している。

一方で国内にはパレスチナ系住民が多く、イスラエルとの軍事的協力と受け取られる行動には強い政治的リスクが伴う。

つまりヨルダン政府は、

対外的には米国との安全保障協力を維持しながら、国内的には「イスラエルのために戦っている」と見られることを避けなければならない。

この二つを同時に処理する必要がある。

だからこそ、今回の迎撃を「イスラエル防衛」ではなく「ヨルダン領土防衛」と説明することには政治的合理性がある。

もちろん、それだけを理由にヨルダン政府の発表が事実と異なると断定することはできない。

だが重要なのは、中東の脆弱な国家が米国・イスラエル・イランの衝突に巻き込まれた場合、軍事対応だけでなく、国内世論向けの政治的説明まで同時に要求されるということだ。

ここに地域戦争拡大の危険性がある。

「米国対イラン」ではなくなりつつある


そして9月2日、IRGCの攻撃範囲はさらに拡大した。

イラク・クルド自治区にある米軍関連拠点やUAE方面などにも攻撃が及んだ。

戦争の地理が広がっている。

これは大きな変化だ。

中東における米国の軍事力は、巨大な一つの基地に集中しているわけではない。

ヨルダン、イラク、湾岸諸国などに分散している。

この分散配置は本来、米軍の作戦柔軟性を高める。

しかし対イラン戦争では逆の側面も生まれる。

米軍基地が存在する国すべてが潜在的な報復空間になり得る。

つまり米国の軍事ネットワークそのものが、戦争を地域へ拡散させる経路になる可能性がある。

イラン側から見れば、米本土を攻撃する必要はない。

中東に張り巡らされた米軍拠点を攻撃すれば、米国にコストを負わせられる。

しかし、その瞬間にヨルダン、イラク、UAEなどの第三国が戦争へ巻き込まれる。

これが今回のエスカレーションで最も危険な部分だ。

トランプ政権の「管理されたエスカレーション」


では米国は全面戦争を目指しているのだろうか。

必ずしもそうとは限らない。

むしろ現在までの攻撃パターンから見えてくるのは、別の戦略だ。

イランが再建したレーダー、防空網、海上戦力、機雷敷設能力などを周期的に破壊する。

そしてホルムズ海峡を完全に軍事支配できる水準までイランの能力が回復することを防ぐ。

いわば、

「破壊して終わる」のではなく、「再建されたら再び破壊する」戦争

である。

これは占領を目的とする従来型戦争とはかなり違う。

政権を倒して領土を占領するには巨大な兵力と政治的コストが必要になる。

一方、限定的な航空・ミサイル攻撃を繰り返す方式なら、地上軍の大規模投入を避けながら軍事的圧力を維持できる。

トランプ大統領がイランに対し「反撃すればさらに大規模な攻撃を行う」と警告していることも、この抑止構造の一部と見ることができる。

つまり、

攻撃する。
しかし全面戦争にはしない。
相手が反撃すれば、さらに攻撃する。
それでも占領戦争には移行しない。

非常に危ういが、一定の計算に基づいたエスカレーション管理である可能性がある。

最大のリスクは「計画の失敗」


問題は、この戦略が双方の合理性を前提としていることだ。

米国は「ここまでならイランは全面戦争を選ばない」と考える。

イランも「ここまでなら米国は地上戦へ進まない」と考える。

双方が相手の限界線を推測しながら攻撃する。

だが戦争では、その読みが一度外れるだけで状況が変わる。

例えば米軍基地への攻撃で多数の米兵が死亡した場合。

あるいはイランの攻撃によって湾岸諸国で大規模な民間人被害が発生した場合。

あるいは機雷やミサイルによって大型タンカーが沈没した場合。

国内政治の圧力によって、それまで設定していた「越えてはいけない線」を政府自身が越えざるを得なくなる可能性がある。

管理されたエスカレーションの最大の弱点は、

エスカレーションが本当に管理できるとは限らないこと

なのである。

戦争の本当の焦点は「海峡を誰が支配するか」


今回の第五波エスカレーションを理解するうえで、ミサイルの発射数や空爆回数だけを追うべきではない。

より重要なのは三つのポイントだ。

第一に、イランの機雷・レーダー・海上戦力の再建速度。

第二に、ロンドンなどの海上保険市場がホルムズ航路を引き受け続けるか。

第三に、ヨルダン、イラク、UAEなどの第三国がどこまで戦争に巻き込まれるか。

この三つのどれかが崩れれば、戦争は次の段階へ進む可能性がある。

そして、とりわけ重要なのが保険市場だ。

軍事的には海峡が開いていても、保険が止まればタンカーは止まる。

タンカーが止まれば原油が止まる。

原油が止まれば、戦争の影響は中東から世界経済へ瞬時に伝播する。

だからホルムズ海峡をめぐる戦争は、単なる海軍戦ではない。

**軍事・金融・物流が一体化した「複合戦」**なのである。

終わらない戦争という新しい現実


2月28日の開戦から半年。

米国とイランは和平交渉を行いながら戦争を続けてきた。

停戦と戦闘は反対概念ではなくなった。

交渉しながら攻撃する。

攻撃しながら海峡を開く。

海峡を開きながら再封鎖を警告する。

そして相手の軍事能力が回復すれば、再び攻撃する。

今回の第五波エスカレーションが示しているのは、戦争が「開始→決戦→終結」という直線的なものではなくなっているということだ。

むしろ現在の中東で形成されつつあるのは、

戦争と和平の間を周期的に往復する、終わりの見えない均衡状態

なのかもしれない。

その均衡を支えているのが軍事力であり、外交であり、そしてホルムズ海峡という世界経済の急所である。

だから今後を見るうえで、本当に注目すべきなのは「次にどこが爆撃されるか」だけではない。

ホルムズ海峡の通航が維持されるのか。
海上保険市場が耐えられるのか。
そして第三国への攻撃がどこまで拡大するのか。

この三つである。

第五波は、まだ始まったばかりだ。

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