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AI活用の前に「捨てる」ことに本気で取り組んだ話 〜月3000時間の削減を生んだ取り組み「すてるば」とは〜

株式会社kubellパートナー執行役員 CAOの角田(@takeshisumida_)です。
こちらの記事は、AIやBPaaSをテーマとした、#kubellブログリレーの一記事として執筆しています。

さて、各メディアやSNSでAI活用のニュースを見ない日はない今、私たちの会社kubellにおいても、当然AIの徹底活用は経営の重要テーマの一つであり、絶賛AI活用の全社プロジェクトが進行中です。

しかし、ここで声を大にして言いたいことがあります。それは、

「AIの活用の前に、いらない業務はそもそも捨てた方がいい」

ということです。

AIはある種の加速装置、本来不要なプロセスにAIを適用するのは、無駄な業務を高速回転させるだけ。まずは徹底的に"捨てる"ことを行わないと、誰のためにもならない成果物が、組織に量産、蓄積されかねません。

私自身、AIが今のように叫ばれる前から、この"捨てる"という取り組みを、生産性向上のプロジェクトとして複数回行ってきました。
そしてkubellにおいても、まさにAIが全社的に実装される前のある意味事前準備として、「すてるば(※)」という全社的な取り組みを行いました。

※kubellには、「kubell-ba(kubellの場)」という全社員が参加する月次会議があります。そこから着想を得て、「いらないものや昔からの慣習を手放し、次の挑戦に向かう場」という意味を込め、「すてるば(捨てる場)」と名付けました。

今回は、生産性向上における"捨てる"ことの意義と共に、実際にkubellにて全社を巻き込んで実施したプロジェクト「すてるば」の内容を、方法論の1つとしてご紹介していきたいと思います。
特に以下ような方にご覧いただけますと幸いです。

・全社のAI推進プロジェクトに携わっている方
・全社の生産性向上プロジェクトに携わっている方
・全社的に生産性向上が課題となっている経営層や経営企画の方


生産性とは?

まずは具体的な方法論の前に、"生産性"について整理しておきます。
これは単なる一般定義ですが、生産性は以下の公式で表されます。(複数の考えた方があるかとは思います)

こちらの画像にあるように、生産性とは、"アウトプット"を"インプット"で割ることで表すことができます。
アウトプットとは、売上、付加価値、生産量、処理量などであり、インプットとは、ヒト、モノ、カネ、時間などになります。

IRでもお馴染みの、一人当たり売上(=総売上 ÷ 従業員数)などはこれの分かりやすい例です。

よって、生産性を向上させるには、

・インプットを減らす = より少ないコストでこれまでと同じ成果を出す
・アウトプットを増やす = 同じコストでこれまで以上の成果を出す


このいずれか、もしくはいずれもということになります。

式にすると当たり前のことを言っているだけのように感じるかと思いますが、現実的にはここが曖昧なまま議論が進むことは多く、アウトプット、インプットの話が混在していたり、また、どう生産性を定義するか、その向上を測っていくかを、延々と議論して実際の削減アクションが遅々として進まない、というのはあるあるです。

この公式の認識さえ揃っていれば、"捨てる"行為はすなわちインプットの減少であり、よっぽどアウトプットを損なわない限りは、どう考えてもやった方がいいのです。

部署別や事業別など、生産性指標の計算は細かくしようと思えばいくらでも細かくできるものの、それは捨てるということを待つ理由にはなりません。
確実に生産性向上の方向に向かう捨てることをまずは行いつつ、生産性指標については、トレンドとしての推移など、追って確認する形でも全然いいと考えます。
かくいうkubellも、この生産性指標議論がまさにボトルネックとなっていた時期があったからこそ、「どんな指標を設定しようと、捨てること自体はさっさと行った方がいい」と断言します。

なお、少し脱線しますが、経営から発信されるメッセージとして、生産性向上と似たものに"筋肉質化"があるかと思います。
筋肉質化、つまりは「無駄な贅肉を落とし、利益体質を恒常化し、次なる成長へ投資する」。前述の公式で言うと、特に"コスト"に注目してインプットを減らす活動です。

しかし、筋肉質化というこの言葉は、会社にとってはポジティブな響きですが、現場のメンバーには、節約、緊縮財政、コストカットなど、ネガティブな印象にも変換されがちです 。
「現場は頑張っているのに、また上が経費を削れと言ってる」「人が減らされて、残った人の負担が増えるんじゃないか?」こう受け取られた瞬間、現場の心は離れ、モチベーションは下がり、結果として会社の生産性は逆に落ちてしまう可能性もあります。

上段の目的はあくまで生産性の向上であり、生産性向上のために無駄なインプットを減らした結果として筋肉質化も実現する、という関係性であるべきではないかと個人的には考えています。

捨てる意義

さて、生産性の定義の認識が揃ったところで、改めて"捨てる"ことの意義についてお話ししていきます。

経営学の巨人、ピーター・ドラッカーも次のように言っています。

元々しなくても良いものを効率よく行うことほど無駄なことはない
There is nothing so useless as doing efficiently that which should not be done at all.

今さらではありますが、中小企業診断士やMBAなどでもお馴染み、業務改善のフレームワークである「ECRS(イクルス)」でも、まずは廃止(Eliminate)から始めることを説いているのは多くの方もご存知でしょう。

一方で、実際には、多くの現場では、いきなり「S(簡素化)」や、手段としての「AI化(自動化)」に飛びつきがちです。

これは、現場には一定の心理的ハードルが存在するためであると考えています。ようは、業務効率化の必要性自体は分かっていても、現場判断で捨てるということまで案として出すのは容易ではないのです。

「昔からこのやり方でやっているから」
「さすがに無くすのはダメだと思っていた」
「以前に経営陣からやってとお願いされて始めている」

これらが心理的なブロックとなり、結果的に業務は地層のように積み上がっていきます。

だからこそ、経営陣として、「筋肉質化しろ」「効率化しろ」とただ鞭を打つのではなく、「捨てていいよ」という宣言を全社メッセージと打ち出し、心理的安全性を確保してあげることは、極めて効果的な手段なのです。

なお、この"捨てる"ということを全社的に取り組む例としては、サイバーエージェントさんの「捨てる会議」が特に有名です。

「次々と新しい事業や新しい施策を生み出して試す当社において、過去に機能していたけど時代の変化で必要なくなったもの、決めたときは良いと思ったけど、さほど効果がなかったものなどを定期的に整理しなければならないという発想から実施が決まりました。」

出典:渋谷ではたらく社長のアメブロ「捨てる会議」で捨てたもの」

私がこれまで行ってきた全社プロジェクトも、ベースの考え方としては「捨てる会議」参考にさせていただいています。
実際、過去のプロジェクトでは、「〇〇〇〇版捨てる会議」のような名称で行っていました。(※〇〇〇〇は会社名)

kubell流「すてるば」の進め方

ここからは、実際に私たちが実施したプロセスを具体的に説明していきます。

先ほどお伝えした通り、概念自体は「捨てる会議」がベースです。ただし、そちらで取り入れられているポイント制や表彰制などの点は省き、よりミニマムで機動力が高い設計にしています。

プロセス

【部・課】洗い出し:
各部や各課単位で、提供されたフォーマット(後述)を埋めてもらいます。「とにかく細かいものでもいいから出す」「他部署への要望もOK」とします。実施する組織の単位については、部門の大きさによるので、部門長に一存します。

【部門】一次選考:
各部門の管掌執行役員が、部門内で「すてるば」を実施し、案の中からどれを全社案件として上程するかの選別をしてもらいます。なお、自部門だけで完結できるものは、全社会議を待たずに即決・即廃止してもらいます。 

【全社】全社すてるば:
各部門の結果を持ち寄り、部門の管掌執行役員含む経営陣全員が参加する会議を実施します。なお、一次選考において、内容的にダブっている案件もあるため、事前に運営事務局にて案件の精査を行っておきます。
その上で、部門の管掌執行役員が案件の内容を説明、それに対して取締役の過半数が同意すれば決定、という形で次々に捨てるものを決めていきます。

kubellの場合は、これらをおおよそ1ヶ月半〜2ヶ月ほどの時間軸で行っています。前段の現場からの洗い出しをおよそ1ヶ月で行ってもらい、事務局による情報の整理、及び経営陣での選別の場の設定を半月〜1ヶ月で行うイメージです。

フォーマット

漠然と「無駄なことある?」と聞いても意見は出にくいものですし、その要素がバラバラであればそれこそ集約の作業が非効率になってしまいます。
そこで、以下のような共通のフォーマットを用意し、各部門に配布、集約しています。

特に重要なのが「捨てる上での懸念・負の影響」の欄です。
すでに存在しているものを捨てれば、何かしらのデメリットは多少なりとも生じます。上述生産性の説明でも触れたように、この捨てることのデメリットが大き過ぎては当然意味がありません。
「このデメリットを受け入れてでも、削減効果の方が大きいか?」を天秤にかけることができるよう、必ずこちらをセットで記載してもらうようにしています。

ポイント

効果を最大化するためのポイントをいくつか抜き出します。

  • 現場の声をしっかりと拾う
    当然のことながら、上位レイヤーが知らない現場の業務は多数あるものです。現場のメンバーに落とさず、マネージャー以上などで検討しても、削減効果は最大化されません。細かいものでもいいので、とにかく現場から一旦なんでも出させることが重要です。

  • 事前の情報整理にこだわりすぎない
    このようなプロセスにおいて、ある意味教科書的によくあるのが、「まずは業務フローとして書き出しましょう」や「部署に存在する業務を全て洗い出しましょう」のような、事前の情報整理系だと思っています。しかし、個人的にはこれはあまりお勧めしません。論理性、整合性、網羅性等、あらゆることが気になり過ぎて、そもそもこれらを作ることに得てして膨大な時間がかかるからです。
    まずは体感として不要と感じているものを徹底的に洗い出し、上述一次選考の中などで、必要に応じて個別に業務フローを確認する方が、"捨てる"ことを決めるという行為においては、それこそ生産的であると考えています。

  • 組織長が適切に取捨選択を行う
    あくまで生産性向上が目的なので、アウトプットがそれ以上に削がれるものであれば意味がありません。ボトムアップで集めつつも、全社への持ち込みについては、組織長は特にその観点における適切さを、事前に確認、選別しておく必要があります。

  • 丸ごと捨てられるものをできるだけ挙げる
    細かいものも含めて集めつつも、例えば会議の1つや2つ無くしたところで大して生産性は改善しません。取り組み、プロセス、イベントなど、"丸ごと"捨てられるものはないか、同じく組織長には、より高い視点を持ちつつ推進を行ってもらう必要があります。

  • 業務効率化もOKとする
    結果的に、それは捨ててる訳じゃないという業務効率化にあたるものも複数上がってきますが、それもOKとします。捨てるという極端な方向で考えた結果、これまで出てこなかった業務効率化案がこのような活動を機に出てくる可能性は大いにあるため、それはそれで推し進めるべきだからです。

  • 責任者、期日について明確化する
    このような活動における肝はとにかく"実装"です。決めっぱなしにならないよう、上記全社すてるばにおいては、何を捨てるのかはもちろん、当日出席している主管部門の管掌役員の中で誰が責任者として推進するのかを期日と同時に決めていきます。
    逆にこの時点では、進め方の方法論までは踏み込まず、それも含めて責任者に持って帰ってもらうのがお勧めです。そこまで議論を広げてしまうと、何十個もある捨てる候補に対する意思決定が時間内では完了しないためです。

実施結果

上記プロセスに基づき、「すてるば」では、事前に優先順位をつけた案件から順に議論していきました。選定基準としては、削減時間が多いこと(インパクトが大きい)、また複数の部門が上げていること(全社での同意割合が大きい)です。

2025年に行ったkubellの「すてるば」の取り組みにおいては、案件総数として全社から300件超、そのうち、自部門の対応で完結する案件が約7割、全社すてるばに持ち込まれた案件が約3割でした。

これは時間換算では月に3000時間ほどの削減、全従業員の就労時間のおおよそ5%にあたります。また、大雑把に年間の削減金額に直すと、1億円超の削減効果となります。

その中身は多岐にわたります。詳細は少しぼかしながら一部をご紹介します。

・経営報告資料の過剰な作り込み
・承認フローの重複 (複数システムによる承認行為)
・多過ぎる1on1ミーティング (リモート主体時代の名残)
・慣習で行っていた朝会
・過剰に厳しい決裁権限
・使用頻度の少ない全社システム
・形骸化していた入社オンボーディングコンテンツ
・使用割合の少ない(プロダクトの)カスタマイズ機能
・効果の薄いアナウンス、リマインド
・部署毎の各種イレギュラー対応

このような取り組みを行う上で特徴的なのは、普段社員が疑問に思っていたことや不思議に感じていたことが一気に表面化することです。
特に、内部統制に関連するものや、フロー上経営陣の絡むプロセスについては、たとえ非効率を感じていたとしても、それに対して声を上げて変更する工数や心理的負担を鑑みると、普通はあまり積極的には行いません。

これこそが「すてるば」の活動を行う意義だと感じています。経営陣が捨てていいということを宣言してあげることで、社員が感じていた"過度な縛り"や"謎ルール"から解放してあげる取り組みでもあるのです。

誤解が無いよう補足しますが、当然のことながら内部統制はとても重要です。しかし会社のフェーズ、また担当者の志向により、「過度な内部統制」という状態は確実に存在します。
とにかくトラックを全速力で走らなければいけない状況で、エベレストに登山するような重装備を付けていては、さすがに過剰と言わざるを得ません。

「全役員まで集める必要があるのか?」「各々の管掌の組織で進めてもらえばいいのでは?」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、これまで脈々と積み上がってきた会社のプロセスや仕組みについて、全役員の間で、それらの実施の目的や意義が再確認され、実は言いたかった他部署へのツッコミが行われ、その後の言った言ってない議論を避けることができる。
これは、普段それぞれの組織で縦割りで行う会議では実現できないことであり、「すてるば」に全役員に参加してもらう意義です。

大事なのは実装、そして文化としていくこと

上記「すてるば」のプロセスを説明するパートでも少し触れましたが、この活動における肝は”実装”です。
「すてるば」のような全社会議を開催して終わり、挙げっぱなし、言いっぱなしにせず、確実に、廃棄、効率化の実装を行っていかなければ意味がありません。

そのため、「すてるば」にて決めた期日については、運営事務局が全ての案件のタスク管理を行い、その進捗を徹底的に追いかけていきます。

Tipsとしてですが、そういった意味では、役員との接触機会の多さ、またいくかの案件については経営会議等での決議事項になることも踏まえて、事務局のメンバーには、経営企画やコーポレートの責任者が入っていることが、連携観点からも効率的ではあります。

なお、kubellでは、この「すてるば」を、一過性のイベントとしては位置付けていません。事業環境が変われば、新しい無駄は必ず生まれます。
ある意味雑草と同じです。抜いても抜いても生えてくる。だからこそ、最低限年に一度、定期的に草むしりを実施する必要があります。
そして、定期的に捨てるということを、組織の文化として根付かせていく必要があると考えています。

なお、その実施タイミングとしては、来期の事業計画策定の手前がベストです。計画に、無駄な費用や人員が積まれてしまうことを回避でき、本当に必要なものに対しての投資のみが行われる前提にできるからです。
kubellでは1月から新年度が開始、前年の12月の最終決議に向けて2ヶ月ほどで計画策定を行うことから、9月のタイミングで「すてるば」を実施することにしています。

また、そのように組織の文化としていく上では、実施結果とその進捗を、全社会議の場でも共有していくことが合わせて肝要です。
kubellにおいても、半期に一度の全社総会「kubell CAMP」や、全社員参加の月次会議kubell-baにて、進捗状況や、また大所の施策が実装された際にはその内容の個別アナウンスを行ったりしています。

kubell CAMPの様子

その甲斐もあってか、日常の業務の中において、「この業務ってそもそもいる? すてるば行きでは?」のような会話が出るようになっています。

AI時代は、皮肉なことに「何をしないか(What NOT to do)」の意思決定の価値が極端に上がる時代です。AIでできることが無限に増えるからこそ、やらないことを決められる組織が強くなると考えます。
AI化を考える前に、まずは自分のカレンダーやToDoリストを見て、「この業務そもそもいるんだっけ?」と問いかけるところから始めてみてはいかがでしょうか。

今回ご紹介したkubellの取り組みが、皆様の会社の生産性向上に対して、少しでも参考になっていましたら幸いです。
なお、冒頭でも触れましたが、当然ながらAIはAIで、活用拡大のための全社プロジェクトを絶賛進行中です。こちらについてもまた別途ご紹介できればと思っています。

(※2026年4月追記)
より簡単に内容をご覧いただけるように、スライド版を作成しましたので、よろしければこちらも合わせてご覧ください。

これからも、皆様のお役に立つ話をnoteやXでしていければと思います。最後までご覧いただきありがとうございました。

Xアカウント:https://x.com/takeshisumida_

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