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論文紹介 SNSを利用して影響力を拡大するトランプのメディア戦略

2025年1月20日にアメリカ大統領に就任したドナルド・トランプの言動については、連日のようにメディアで取り上げられるようになっています。これはトランプが大統領という公職に就任したことから当然のことのように思えるかもしれませんが、トランプは絶えずメディアで自分に注目を集める手法を用いており、それによって影響力を高めてきました。トランプが権力を握ることができた理由を考える際には、メディア状況を考慮に入れることが重要であると指摘する研究があります。

Wells, C., Shah, D., Lukito, J., Pelled, A., Pevehouse, J. C., & Yang, J. (2020). Trump, Twitter, and news media responsiveness: A media systems approach. New media & society, 22(4), 659-682. https://doi.org/10.1177/1461444819893987

21世紀に入ってから普及したソーシャル・メディアは、それまで既存の大手メディアが支配力を持っていた政治ニュースの流通経路を根本的に変えました。この変化で大きな利益を得たのは、攻撃的な言動によって注目を集めるポピュリスト路線の政治家でした。彼らが攻撃的メッセージを展開すると、それに対する反発を浴びますが、それが結果としてメッセージの拡散に繋がるので、影響力を拡大することができます。

ソーシャル・メディアは、ジャーナリズムの規範や編集権限を回避できるので、攻撃的なメッセージを拡散させることに適しています。情報の内容よりも、人々から注目されている情報であるかに価値が置かれるアテンション・エコノミー(attention economy)の仕組みによって、攻撃的なメッセージングを採用することが選挙対策としても有利になりました。

このような環境を最大限に活用してきたのがドナルド・トランプであるといえますが、著者らはアメリカの党派的メディアの状況は1980年代から継続的に変化してきたものであったことを強調しています。1980年代に出現した右派のトーク・ラジオ、1990年代以降に普及したフォックス・ニュースをはじめとする保守系のケーブル・ニュース、そして2000年代以降にはブライトバート・ニュース・ネットワーク(Breitbart)、陰謀論やフェイク・ニュースを提供するインフォウォーズ(InfoWars)などが重要です。左派のメディアは右派のメディアのような成果が見られないことから、ネット・メディアとして知られているのはハフポスト(Huffington Post)やデイリー・コス(Daily Kos)にとどまっています。

アメリカ国内で右派の党派的メディアが影響力を拡大していたときに、ソーシャル・メディアの普及が起きており、これらが複合することで現代のメディア環境が形成されてきました。このような環境を利用している政治家としてトランプの手法を読み解くことが重要です。著者らは2015年から2016年にかけて行われたアメリカ大統領予備選挙の全期間で共和党候補のトランプ、テッド・クルーズ、民主党の候補であるヒラリー・クリントンバーニー・サンダースがそれぞれどの程度の注目を集めていたのか調査し、データセットを構築しました。

このデータセットでは、各種メディアを党派性で分類した上で、それらが掲載したニュース記事、さらにソーシャル・メディアであるTwitterにおけるツイートの回数やそれに対するリツイートの回数のデータを統合しています。メディアにおけるそれぞれの候補の報道回数から対立候補の報道回数を差し引いて評価し、その候補が実際に相手より注目を集める優位の度合いに注目して分析します。

分析結果から分かるのは、トランプが公的なイベントだけでなく、Twitterでの活動を通じて戦略的に注目を高めようとしていたことです。トランプはリツイート活動を特に重視していましたが、実際にリツイートの量が増加すると、党派的メディアと主流派のメディアの両方でトランプへの言及が多くなることが確認されました。

ソーシャル・メディアにおける存在感を発揮する能力において、トランプは対立候補のクルーズだけでなく、民主党の候補に対しても一貫して優位性を持っていました。リツイート活動の量だけで見ればサンダースも同程度の活動をしていましたが、彼の活動はメディアでの注目度の増加にはつながりませんでした。トランプが展開したツイートやリツイートの内容は、対立候補への攻撃や非難など刺激的なものでしたが、サンダースは政治的により穏健な内容であったため、メディアから注目を集めることはできませんでした。

著者は、トランプの台頭を考える上で、その手法だけでなく、メディア状況を総合的に考慮する必要性があると主張しています。トランプの言動は突拍子もないように見えますが、彼は現代のメディア状況を利用して影響力を拡大する方法を心得ています。著者らはこうした戦略が他の候補にも利用可能であるかどうかについて予測することは避けましたが、こうした手法が今後の政治の手法として普及するのであれば、選挙のあり方をどのようにすべきか検討し直すことが必要になってくるでしょう。

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